アメリカンドリームが“悪夢”に~選挙イヤーの若者たちは今

アメリカンドリームが“悪夢”に~選挙イヤーの若者たちは今
大学の卒業時、リーマンショックによる就職難に見舞われた。ようやく手にした仕事も、新型コロナウイルスで失った。“ミレニアル世代”(※)と呼ばれる若者たちは、アメリカでは、どの世代よりも経済的な不遇を経験したと言われる。間近に迫った大統領選挙。その結果を左右する存在とも言われる若者たちは、今、何を感じ、何を求めているのだろうか。(ワシントン支局記者 吉武洋輔)

“悪夢”に変わった

34歳のアレックス・マーティンさんと待ち合わせたのは、新型コロナウイルスの影響で自身が4月に解雇されたニューヨーク・マンハッタンのバーの前だった。
9月下旬だというのに、Tシャツは汗でびっしょりぬれていた。聞けば、自宅から30分かけて自転車を走らせてきたという。ニューヨークを襲ったパンデミックから半年がたった今も「地下鉄には怖くて乗れない」と話した。

解雇された当時のことを「パニックだった」と振り返った。大勢の人で熱気に包まれるこのエリアは、それまで目にしたことのないゴーストタウンと化した。勤めていたバーもすぐに休業。ルームシェアするガールフレンドと家に閉じこもった。そのやさき、店から解雇を言い渡された。今は失業保険と貯金で生活をやりくりしているが、次の仕事は見つかっていない。
マーティンさんは中西部ウィスコンシン州の出身。大学でジャーナリズムを学び、メディア業界への就職を希望していた。
しかし卒業する年の2008年、未曽有の金融危機リーマンショックに見舞われる。多くの企業が採用を控え、希望はかなわなかった。マーティンさんは、“そこに夢があるはず”と、ニューヨークにやってきた。
生計を立てるためレストランで働き始め、懸命に働いていくうちに接客業に魅力を感じるようになった。10年以上のキャリアを積んだあと、バーを新天地に選んだ。従業員の勤務や給与を管理するマネージャーのポジションも得た。しかし、突然、その職も失うことになった。
マーティンさん
「厳しい経験を乗り越えたと思ったら今度は新型コロナです。アメリカンドリームは“悪夢”に変わりました。2度のショックが私たちの世代に与えた影響は大きいです」

若い人ほど

新型コロナウイルスは、若い世代ほど悪影響を受けたというデータがある。「解雇または賃金をカットされた人」の割合は、65歳以上が21%、50~64歳が40%、30~49歳が48%、18~29歳が54%と、年齢が下がるにつれて如実に数字が上がっているのだ。
国のしくみについて友人たちとよく議論をするようになったと言うマーティンさん。オンラインで地元の同級生2人に連絡を取ってもらった。
2人とも仕事は続けていたが、1000万円以上の学費のローンを30代半ばになった今も返済し続けていた。
「誰でも努力すれば成功する国とは言えなくなっている気がする」「育った家庭の経済レベルから抜け出すのはすごく難しい」
友人たちの訴えにマーティンさんはうなずいた。
マーティンさん
「私の世代は、親の世代に比べて経済的に厳しい生活を送っています。家や車を持っている人はどれだけいるでしょうか。給料を得ても、高額の教育ローンの返済に追われるのです」「株価は上昇しているのに何百万人もが失業中です。国は私たちの世代が生きやすい経済システムを考えるべきです」
今、何を望むか。そう問われて語気を強める姿に、2つの経済ショックがこの世代の意識に少なからぬ影響を与えたことを実感した。

“もっと国の関わりを”

『誰がアメリカンドリームを奪ったのか』。
8年前、こんな本がアメリカで出版された。政治家が大口献金者である大企業や富裕層を優遇する政策を増やすようになり、99%の国民が置き去りにされていったと指摘。それは1970年代にすでに始まっていたとも書かれている。
執筆したニューヨーク・タイムズの元記者、ヘドリック・スミスさん(87)に、今の若者が抱く失望の理由を尋ねた。
スミスさん
「アメリカンドリームとは、裸一貫から大成功するという意味だけでなく、安定した収入を得て、家族の健康を守り、家族が教育を受けるという基本的な概念も指している。しかし今のアメリカは、それすら危機にひんしてしまっている。高すぎる教育費、医療費、住宅費。こうした問題を解決するには公共政策で介入しなければならないというのが18歳から40歳くらいまでの人たちの感覚だと思う」

若者の1票の行方

間近に迫ったアメリカの大統領選挙。今回は、「ミレニアル世代」が、戦後生まれの「ベビーブーマー世代」の人口を初めて超える中での選挙となる。
少子高齢化の結果、高齢者の声が政治に反映されやすくなる“シルバー民主主義”とも言われる日本とは異なる。若い世代がどんな選択をするのか、注目度は高い。
経済的不遇から国の仕組みに落胆するマーティンさんは、バイデン氏に投票するという。公立大学の無償化など、“大きな政府”を指向するサンダース氏を支持してきたが、そのサンダース氏がバイデン氏の支持に回ったからだ。
若者の間にも、無論、トランプ大統領の支持者もいる。型破りな経済政策だが、結果として感染拡大前には失業率が3.5%と半世紀ぶりの水準に改善した。
「初めて手をさしのべてくれた政治家だ」「アメリカンドリームを信じさせてくれる」
話を聞いた10代から20代の若者たちは、そう目を輝かせた。
「選挙に行かない」。そう断言する学生もいた。「どちらの党も魅力的だと思えない」「1票を入れてもこの国を変えられる気がしない」との理由だ。
スミスさんが指摘した、アメリカの政治体制、経済システムへのひずみに対する不信や失望の表れなのかもしれない。前回選挙の18歳から29歳の投票率は、全体の61%を大きく下回る46%にとどまった。

声は届くか

今回の選挙戦は新型コロナの影響で、若者が好むような集会を開きにくく、熱気なき選挙との懸念も聞かれる。
そうした中で、ミレニアル世代は、どういう思いで1票を投じるだろうか。選挙結果は予断を許さないが、どちらの候補が勝利したとしても、若者の声をくみ取っていくことなしには、アメリカ社会に深く刻まれた課題を解決していけそうにない。
※「ミレニアル世代」1981年~1996年に生まれ、現在、20代半ばから39歳の世代を指す
ワシントン支局記者
吉武 洋輔
2004年入局
名古屋局・経済部を経て現所属