新型コロナ ワクチンの保存や輸送に課題

新型コロナウイルスのワクチンは複数の候補が開発の最終段階を迎えていますが、いま課題になりつつあるのが大量のワクチンをどう運ぶかです。

新型コロナウイルスのワクチンの中には、インフルエンザなどとは異なり、マイナス60度から80度というかなり低い温度での保存や輸送が必要となりそうなものがあって、アメリカでは大量の冷凍庫を備えた物流拠点の建設などが進められています。

開発の最終段階に入った新型コロナウイルスのワクチンには、これまでとは異なる新たな方法で製造されるものがあり、アメリカのCDC=疾病対策センターの会議で示されたデータによりますと、アメリカの製薬大手ファイザーのワクチンは一定期間以上保存しようとするとマイナス60度から80度の冷凍保存が、またアメリカのモデルナのワクチンもマイナス20度での保存が必要とされています。

専門家によりますといずれのワクチンにも「mRNA」という傷みやすい成分が入っているためで、適切な温度管理ができないと、接種しても効果が失われるおそれがあるということです。

このためアメリカでは完成したワクチンを、品質を損なわない形でどのように病院など接種の現場にまで届けるのか、サプライチェーンの構築が急務となっていて、アメリカの物流大手「UPS」は全米各地にワクチンを輸送する戦略的拠点となる巨大冷凍施設を南部ケンタッキー州に建設しています。

施設にはマイナス80度という低温でワクチンを保存できる冷凍庫を最大数百台設置。

現在300万回分以上を保存できる容量は、需要に応じてこの数倍にまで増やせます。

一方アメリカの物流大手「FedEx」も温度管理を目的とした小型センサーの開発を進めています。

2秒に1回、倉庫やトラックの中などの輸送過程にある30万もの通信機器と通信し、貴重な医療物資が盗まれないよう正確な位置情報も確認できるということです。

医療分野のサプライチェーンの課題に詳しいメリーランド大学のサンダー・ボイソン研究教授は「列車でも飛行機でも、海上輸送の場合でも、注意深く管理された環境が必要だ。新型コロナウイルスワクチンの配布のスケールは巨大で、これまでにない官民のパートナーシップが必要だ」と述べ、民間企業のノウハウを活用した協力体制の強化が欠かせないという考えを示しました。

FedExの追跡サービスとは

アメリカの物流大手、「FedEx」が先月から導入した荷物の追跡サービスに使われているのが、縦およそ5センチ、横2センチ余り、重さ7グラムの小さなセンサーです。

新型コロナウイルスワクチンなどの貴重な医療物資を紛失したり、配達中に高温にさらされて使えなくなったりする被害を未然に防ぐことを目指したもので、ブルートゥースと呼ばれる通信機能が使われています。

このセンサーを荷物の箱に付けると、この物流会社の倉庫や航空機、それにトラックなど輸送の過程にある30万もの通信機器と2秒に1回の頻度で通信します。

誤差1メートルほどの精度で荷物の位置情報を正確に把握できるため、万一、輸送の途中で急な変更が生じた場合にも柔軟な対応が可能です。

例えば、空港の倉庫からトラックを使って陸路で病院まで運ぶ途中の医療物資。

急きょ、別の場所に届ける必要が出てきたとします。

荷物が今どこにあるのか、正確に把握できていれば、近くを走っている別のトラックに荷物を積み替えるなどして最短ルートで物資を届けることもできます。

センサーは今のところ、位置情報の機能に特化していますが、会社は今後、1年程度をかけて改良し、荷物の温度や湿度、光の通し具合などの情報も追跡できるようになる見通しです。

UPSの冷凍施設

アメリカの物流大手、「UPS」が南部ケンタッキー州に新たに設けた冷凍施設です。

会社は新型コロナウイルスワクチンを全米各地に効率的に運ぶための最適な拠点として、ケンタッキー州を選んだといいます。

今月中旬には新型コロナウイルスワクチンをマイナス80度で保管できる冷凍庫が70台搬入されました。

冷凍庫1台当たり4万8000回分のワクチンを保管することが可能です。

設置された冷凍庫は電源を入れたあと一定の時間を置き、その後、マイナス80度まで温度がきちんと下がるか、1台ずつチェックします。

会社によりますと新型コロナワクチンウイルスの今後の需要に応じて、最大で数百台まで設置台数を増やすことが可能だということです。

一般的なワクチンより低い温度での管理必要

開発中の新型コロナワクチンの中でも「mRNAワクチン」と呼ばれるタイプのワクチンは、保管や輸送にあたって、一般的なワクチンと比べてさらに低い温度での管理が必要となっています。

これらのワクチンには人工的に作られた傷みやすい成分が含まれ、温度管理が適切でないとワクチンの効果が失われてしまいます。

アメリカのCDC=疾病対策センターのワクチンに関する会議で示されたデータでは、アメリカの製薬大手ファイザーがドイツのビオンテック社と開発中のワクチンはマイナス60度から80度、アメリカのモデルナが開発中のワクチンはマイナス20度程度で管理することによって6か月間の保管が可能だということです。

両社ともにこれらの温度や保存期間は今後、開発が進むにつれて変わる可能性があるとしています。

このほかアメリカの製薬大手ジョンソン・エンド・ジョンソンが開発中のワクチンはヒトに害がないように改変したウイルスを使っていますが、これらのワクチンはマイナス20度では2年間、2度から8度で3か月間の保管が可能だということです。

一方イギリスの製薬大手アストラゼネカがオックスフォード大学と開発中のワクチンは、冷蔵しての保管が必要だとされています。

またCDCの会議のデータでは、低温での管理によって輸送し、実際に接種を行う医療機関などに運ばれたあとは、ファイザーのワクチンの場合、2度から8度であれば1日程度保管できるほか、モデルナのワクチンは通常の冷凍庫の温度で10日ほど保管できるとしています。

専門家「日本も環境整備が必要」

アメリカのファイザーが開発中のワクチンは、日本も6000万人分の供給を受けることで基本合意しています。

これについて、新型コロナウイルス対策を検討する政府の分科会のメンバーで、川崎市健康安全研究所の岡部信彦所長はワクチンの輸送にどの程度の低温が必要なのかやそれによって可能な保存期間についてはまだデータがはっきりと分かっていないとしたうえで、「日本でもワクチンの取り扱いについて検討を進める必要がある。
マイナス80度に凍結しておかないと不安定なワクチンを、普通の冷蔵庫に置いてしまうとワクチンが水のようになって、全然効果がなくなってしまう」などと指摘しました。

そのうえで、完成したワクチンを有効に使うためには「どこまで厳密な温度管理が必要なのか、きちんと検証したうえで使う必要があり、ワクチンそのものだけではなく、周辺の環境状況も一緒に整備していく必要がある」として、ワクチンの安全性や効果とともに、輸送や保管の温度管理も合わせて検討すべき課題だという認識を示しました。

厚労省「ワクチンの低温保管は検討課題」

厚生労働省は「ワクチンを必要とされる低温で保管できる設備が、現時点で日本国内に大量にあるとは考えにくい」としたうえで、「どう保管や管理をしていくかは、広く接種を進めていくうえで、検討が必要な課題の1つだ」としています。