個人情報割り出す「特定屋」ストーカー行為に悪用も

報酬を受け取ってSNSの画像などをもとに、第三者の個人情報を割り出す動きが広がっていることが分かりました。こうした人は「特定屋」と呼ばれていますが、ストーカー行為に悪用されるケースも確認されていて、専門家は犯罪につながるおそれもあると指摘しています。

「住所割り出します」「特定してくれた人には報酬あげます」これはSNS上でやり取りされている内容です。

他人から依頼を受けて第三者の個人情報を割り出す動きが広がっていて、こうした行為をする人は「特定屋」と呼ばれています。

「特定屋」は投稿された画像やメッセージをもとに、主にSNSを使ってその人の住所などの個人情報を割り出し、多くの場合は数千円から数万円の報酬を得ています。

NHKが取材した複数の「特定屋」によると、ネットでの商品売買のトラブルなどで相手を特定してほしいという依頼が多い一方で、中には「元交際相手の住所を突き止めてほしい」という依頼もあるということです。

実際に、ストーカー犯罪に悪用されるケース起きていて、ことし6月に警視庁に逮捕された30代の男は「特定屋」に依頼して、被害者の大学や住所などを割り出したことが分かっています。

アカウント特定された女性は

見知らぬ男にSNSのアカウントを特定され、ダイレクトメールを送られた経験があるという女性は、「まったく心当たりがなく、本当に怖くなった」と当時の心境を語りました。

都内に住む20代の女性は先月(9月)、見知らぬ男に電車内でカメラを向けられ、さらに、自宅近くまでつきまとわれたといいます。

女性は別の場所に逃げましたが、その後、インスタグラムとツイッターのアカウントに身に覚えのないダイレクトメールが届き、相手のアカウントを確認したところ、この男の顔写真があったということです。メールはいずれもホテルに誘う内容で、アカウントがなぜ特定されたのか分からず、女性は恐怖を感じたといいます。

こうした経験から、女性はSNSの投稿を他人に見られない設定にあらため、それ以来、男からの接触はないということです。

女性は「SNSには友人と行った観光スポットや自宅で撮った写真も投稿していたので、自宅まで特定されていたかもしれないと思うと今でも怖くて仕方ないです。不特定多数の人に情報を公開することのリスクを実感しました」と話していました。

逮捕された男「5000円で依頼」

「特定屋」が割り出した個人情報が犯罪に悪用されたケースもあります。

ことし6月、ストーカー行為で警視庁に逮捕された30代の男が拘置所でNHKの取材に応じ、「特定屋」に依頼して被害者のSNSのアカウントを伝えてもらったことを明らかにしました。

男は、出会い系サイトで知り合った20代の女性について、通っていた大学にひぼう中傷の電話をかけたなどとして逮捕・起訴されました。

女性とは数回会った後に連絡を絶たれたため、ツイッターを通じて「特定屋」に5000円で調査を依頼したということです。

男が知っていたのは氏名と年齢、それに大学生ということだけで、インターネットで検索してもそれ以上の情報は出てきませんでした。
しかし、「特定屋」からは3日後に「女性のツイッターアカウントを見つけた」と連絡があったといいます。

男はツイッターの情報をもとに、大学への誹ぼう中傷の電話に加え、女性あての郵便物を勝手にほかの住所に転送するなど、嫌がらせを繰り返したということです。

男が「特定屋」に聞くと「SNSの写真に記録された位置情報から割り出した」と伝えられたといいます。

男は取材に対し「期待はしていなかったが、実際にアカウントを見つけ出してくれたのですごいと思った。『特定屋』に依頼しなければ法律を犯してまで女性に嫌がらせをすることはなかったと思う」と話していました。

「特定屋」その実態は

「特定屋」として友人などから依頼を受けているという大阪の20代の女性がNHKの取材に応じ、「非日常を味わえるため趣味としてやっている」などと語りました。

この女性は、小学生の頃からSNSで知り合いのアカウントを特定するのが趣味でしたが、5年ほど前からは友人の依頼を受けて個人情報を調べるようになりました。

依頼される内容は「元交際相手の居場所を知りたい」とか、「お金を貸した相手に逃げられたので取り返したい」といったものが多く、女性はまずSNSのアカウントを調べた上で、投稿された内容をもとに相手の居場所などを特定するということです。

具体的には、▼投稿された画像の位置情報をパソコンで解析したり、▼画像に写りこんだ建物や看板などから場所を割り出したりするほか、▼停電や当日の天気、それにマンホールのふたの絵柄などの情報からもある程度の場所を絞り込めるとしています。

一方、投稿を他人に見られない設定にしている人の場合は共通の趣味を装って近づき、フォローしてもらった上で内容を確認することもあるということです。

女性の場合、依頼主は友人が中心ですが、他人の場合は1000円から5000円ほどの報酬を受け取ることもあるということです。

女性は「非日常を味わえるため趣味としてやっています。友人に対しては人助けという感覚もあり、特定できた時の喜びは大きい」と話しています。

ただ、知り合いの「特定屋」の中には、割り出した住所をもとに依頼主が女性の後をつけてトラブルになったケースもあるということです。

犯罪を手助けすることにつながるのではないかという記者の問いかけに対し、女性は「危ない橋を渡っているという意識はあります。これまで提供した情報が事件に使われたかもしれないと思うと申し訳なさも感じます」と話していました。

「命の危険につながりかねない」と懸念の声も

こうした動きについて、ストーカーの被害者を守る取り組みを進める関係者からは、命の危険につながりかねないと懸念する声も上がっています。

都内で探偵業を営む宮岡大さんは、おととしからストーカーの被害者が加害者に住所を特定されるのを防ぐ取り組みを進めています。

具体的には「SAVE ME」(セイブ・ミー)というサイトを立ち上げて転居先を特定されたくない被害者を募り、加盟する探偵業者の間で共有することで、加害者から依頼があっても応じない仕組みを作っています。

背景には、探偵がストーカーなどの依頼に応じて被害者の住所を伝えてしまうケースが相次いだことがあります。

宮岡さん自身も、8年前に神奈川県逗子市で起きたストーカー殺人事件で、当時勤めていた事務所が加害者の男から依頼を受けて断った経験があり、犯罪に悪用されるリスクを実感したということです。

現在、「SAVE ME」には全国のおよそ50の探偵業者が加盟していて、今後、さらに拡大したいとしています。

しかし、「特定屋」による動きが広がることで犯罪に悪用されるケースが増え、場合によっては被害者の命の危険につながりかねないと宮岡さんは危機感を持っています。

宮岡さんは「探偵は面談で直接依頼を受けなければならないという法律があるが、それでも依頼者を見抜くのは難しい。『特定屋』が提供する情報で最悪の場合、殺人事件に至るケースもあり得ることを自覚してほしい」と話していました。

専門家「自衛のための措置を」

SNSのリスクに詳しい東京都立大学の星周一郎教授は、「スマートフォンがこれだけ普及し画質も向上する中、SNSに投稿した本人が意図していない情報が読み取られ、居場所などを特定されてしまうリスクは相当高まっている。こうした状況を考えれば、『特定屋』と呼ばれる人たちが出てきたのは必然とも言える」と指摘しています。

その上で、「私たちもSNSの投稿などが思わぬ影響を与えることを意識し、自衛のための措置を講じていかなければならない」と話しています。

また、現在の法律では誰もがアクセスできるネット上から個人情報を特定する行為は警察などが直ちに取り締まることは難しいのが現状ですが、悪用されると分かっていて依頼を受けた場合は犯罪のほう助に問われる可能性があるということです。

星教授は「安易な気持ちで割り出した個人情報がストーカー犯罪など違法な目的に利用されることもあるということを認識すべきだ」と注意を呼びかけています。