社会

新型コロナ 広がる自費検査 行政に報告されないケース相次ぐ

症状が無くても自費で新型コロナウイルスのPCR検査が受けられる民間の検査機関が増えています。この自費での検査で陽性となった人が、行政に適切に報告されないケースが相次いでいることが、保健所などへの取材で分かりました。
新型コロナウイルスの検査では、感染が疑われる人などに対して公費で行われる「行政検査」とは別に、症状が無くても自費でPCR検査を受けることができる医療機関や検査機関が増えています。

厚生労働省などによりますと、新型コロナウイルスは、医師が感染を確認した場合は行政への報告が法律で義務づけられていますが、自費検査の場合、医療機関を受診していなければ、陽性でも行政に報告するなどのルールは無いということです。

東京23区の保健所の担当者の会議が調べたところ、民間の検査機関が行った自費検査で陽性となった人について、どこからも届け出が無かったケースが、少なくとも17の区の保健所で、あったということです。

このうち中央区保健所では、検査機関に連絡したものの、電話がつながらなったというケースや、どの医療機関を受診すればいいのか説明がなかったというケースなどがあったということです。

中央区保健所の吉川秀夫健康推進課長は、「届け出が無いと保健所は患者の隔離や接触者の調査ができず、感染拡大が進むおそれがある。自費検査を行う事業者は、医療機関と連携するなどして届け出まで責任を持ってほしい」と話しています。

検査機関が「発生届」出すルールになっていない

保健所などによりますと、通常、保健所は、法律に基づいて医療機関から提出される「発生届」を受けて、濃厚接触者の調査など感染者への対応を行うことになっています。

しかし、自費検査の場合は、陽性となっても、医師の診断を受けるまでは感染が確定しないため、検査機関が「発生届」を出すルールにはなっていないということです。

このため医療機関を受診するまでは「発生届」が提出されず、保健所が把握することも難しいケースが相次いでいます。

保健所によりますと、「発生届」が無い場合、感染者への対応が遅れる可能性があるほか、保健所が、限られた体制の中で改めて一人ひとり確認する必要が出てくるということで、今後、さらに自費検査が増えると、本来の行政検査などの業務にも影響が出る懸念があるということです。

増える自費検査

海外渡航やビジネスなどのため、陰性を確認する検査を求める人たちの需要が高まっていることなどから、この夏以降、症状の無い人を対象に、自費でPCR検査を行うサービスが次々と出てきています。

民間の検査会社だけでなく、クリニックなどの医療機関が行っている場合も多く、事前に予約して施設で検査を行うものや、自宅に検査キットに唾液などを入れて送ると、結果が送られてくるものなど、さまざまな検査の受け方があります。

また、9月下旬には、ソフトバンクグループが、自治体や企業を対象に唾液によるPCR検査を、1回2000円で受けられるようにすると発表しています。

検査会社「支援制度があれば」

自費検査を受け付けている検査会社では、陽性となった人に対応するためのルールの整備や医療機関との連携への支援などを進めてほしいという声も上がっています。

東京 中央区の検査会社では、ことし7月から、企業や団体の自費検査を受け付けていて、ここ最近は陰性を確認するための検査の依頼が増えているということです。

検査の対象を症状が無い人に限定していることもあり、ほとんどが陰性ですが、まれに陽性が出ることもあるということです。

会社では、複数の医療機関と契約して、陽性となった場合は、すぐに受診できる体制を整えていますが、土日や休日でも対応できる医療機関を見つけるのは簡単では無かったということです。

また、自費検査では陽性となって医療機関を受診した場合の診察料などに医療保険が適用されないため、その費用は会社が負担しているということです。

検査会社「プリベントサイエンス」の村上孝司社長は、「陽性者が出た場合のフォローは、義務だと考えているが、体制を維持するにはそれなりの経費がかかる。適切な対応を取る検査機関を支援するような制度があれば助かる」と話していました。

専門家「仕組み作りを」

自費検査で陽性となった後の対応について、臨床検査学が専門の東海大学医学部の宮地勇人教授は、「検査機関と医療機関、保健所の三者が連携し、陽性者が出た場合にすぐに共有できる体制が望ましい。国が指針を出せば、取り組みが広がると思うが、すでに全国展開している検査機関もあり、連携体制が整うまでには時間がかかる。行政に一報を入れる仕組みを作るなど、保健所になるべく負担にならない形で進めていく必要がある」と話していました。

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