迷える私たちのマナー講座

迷える私たちのマナー講座
できる大人のビジネスマナー、婚活でモテるマナー術など、ちまたにはマナーに関する情報があふれています。どうやら成功には、“正しいマナー”を身につけることが大事とされているようです。
でも、あなたは自分のマナーが「絶対に正しい」と自信を持って言えますか?
そもそもマナーっていったいなんでしょうか?
(ネットワーク報道部 記者 野田綾/谷井実穂子)

「了解しました」めぐる議論再び

先日、SNSでは、ビジネス上のことばのマナーをめぐって、こんな投稿がありました。
“仕事の連絡に対し、『了解しました』って
同僚や目下の人に対して使う言葉であって、
目上や上司の人に使うのは失礼にあたりますので、
注意してくださいって、前職で口酸ッぱく指導されたので、
今でも使う人を見ると勝手にヒヤッとする”
目上の人に「了解しました」ということばは失礼にあたるのか、この投稿をめぐってネット上ではさまざまな意見が寄せられました。
「私も目上の方への『了解しました!』すごくヒヤッとします」
「チャット仕事の多い今の状況で『了解しました』で目くじら立てる人がいたら円滑に仕事進まなくて辛いですね」
「私は前職の影響で『かしこまりました』と言っちゃうのですが、ビジネスの現場だと『承知しました』の方が一般的ですか?」
実は「了解しました」を目上の人に使うのはどうなのか、ネット上ではこれまでも議論が起きていました。
そして再び巻き起こった議論。
私たちが日々接する身近なマナーですが、今も受け止め方はさまざまです。

“マナー” 世代によって捉え方違う

マナーをめぐる議論がたびたび起きることについて、教育社会学の視点からマナーを研究してきた専門家に話を聞きました。
香川短期大学 加野芳正学長
「マナーは普遍的なものではありません。それぞれの世代、男女によって、マナーの捉え方は違うと考えられます。このため、若い人は目上の人に対し『了解しました』という言葉を失礼に当たるとは思わず使用することがありますが、年配の世代は違和感を感じたりします。『かしこまりました』という言葉を使えば、年配の世代からは評価される一方で、同世代の人からは堅苦しいと受け止められることもあるのです」
こうした受け止め方の違いは、時代の流れにより人間関係の在り方に変化が生まれてきていることが背景にあると考えられると加野さんは指摘しています。
香川短期大学 加野芳正学長
「マナーは上下関係を意識する部分が大きく、日本は縦の関係が強い国であることから、敬語が発達してきました。ただ、時代とともに人間関係がフラットになる傾向があり、はっきりとしたマナーが見えにくくなっているところはあります」

オンラインがやってきた その時マナーは?

「コロナ禍でテレワークが広がったことで、この半年間で多くの人たちが新たなビジネスマナーの難しさに直面しています」
ビジネスマナーがまた新たな時代に入ったと指摘するのは、日本サービスマナー協会で講師を務める小池美穂さんです。

小池さんによると、企業が在宅勤務を導入するようになったことしの3月ごろから、オンラインで会議や面接をする際のビジネスマナーを教えてほしいという依頼が多く寄せられているということです。

ただ、オンライン上でのビジネスマナーは確立されていない部分も多く、教える講師も、そのつど、どんな風に教えたらよいかを話し合いながら対応しているそうです。

私たち記者も、オンラインでインタビュー取材をする機会が増えました。皆さんは今、どんなことに気をつけて、テレワークに臨んでいるのでしょうか。

たとえば頻繁に行われるようになったオンライン会議のマナーは?
日本サービスマナー協会 講師 小池美穂さん
「オンライン会議は場所を選ばず、時間も比較的自由がきく手軽さがあります。ただ、取引先との会議では最低でも1日前には、スケジュール設定を行って、招待のメールを送っておいたほうがいいというのは慣習になりつつあると思います。確かに早めに知らせたほうが親切ですよね」

名刺交換でも…

名刺交換の場面でも、新たな気遣いが生まれているそうで…。
日本サービスマナー協会 講師 小池美穂さん
「最近では、初対面の相手とオンライン上で名刺交換をする人も増えてきています。アプリを活用して、QRコードやURLを送ると自分の名刺が表示される仕組みですが、その際、目下の人が、先にQRコードやURLを送ったほうがよいと考える人もいるようです」
先日、オンライン会議システムの「Zoom」が、会議の参加者の並び順を任意で替えられる機能を発表し、SNS上などでは、オンラインの会議でも「上座」を気にしなくてはいけないのかと話題となりました。
実際のところどうなのでしょうか。
日本サービスマナー協会 講師 小池美穂さん
「明確な決まりはないと思いますが、個人的には『何もそこまでしなくても』と思います」

「オンライン上でのビジネスマナーは、これから徐々に確立されていくと思います。ただ、私たちが変わらずに教えているのは『感謝を伝える時には笑顔で』とか『おわびする時には申し訳ない気持ちを込めて』などといった基本的なことです。相手と信頼関係を築いていく基礎は、どんな時代や状況でも変わらないと思います」

時代とともに変化「マナーに正解はない」

マナーの形も社会の変化によって移り変わっていますが、これは今に始まったことではないようです。
再び、教育社会学の視点からマナーを研究してきた加野さんに聞きました。
香川短期大学 加野芳正学長
「明治時代や戦前は、家の中においてのマナーや作法が重視されていました。親を敬うことや、ふすまや障子の開閉の作法などを身につけていました。しかし戦後は、家庭での作法の在り方が弱くなっていき、代わって他人に迷惑をかけないなど外でのマナーに目が向くようになっていきました」
加野さんは、外でのマナーの一つがビジネスマナーであると言います。
香川短期大学 加野芳正学長
「戦後は産業も第一次、第二次産業から第三次産業中心に変化していきました。他人とのコミュニケーションの機会が比較的少ない働き方から、人間関係や会話、マナーが重視される働き方にシフトしていったのです。このため、マナーへの関心が高まり、マナーの在り方も変化していったと考えられます」
そしてコロナ禍の今、オンラインなど対面の機会が減る中で、マナーの在り方がさらに変化しているのではないかと言います。
香川短期大学 加野芳正学長
「対人関係が大事になって、就職でもコミュニケーション能力が大事と言われている一方、ネット社会が広がり、対面の訓練が乏しくなっています。特に新型コロナの時代で、他者と親密に関わっていけなくなって、他者との関係を取り繕う力、そしてマナーの力も衰えていくと予想されます」
一方、マナーへの関心の高まりから、いつしかマナーを守らないことに厳しくなりすぎ、ルール化する動きも見られることを心配しています。
香川短期大学 加野芳正学長
「マナーというのは本来、従っても従わなくてもよいあいまいなもので、他人への配慮や思いやりの表れなのです。しかし周りの目が厳しくなり、ルール化していくと、人間を強制するものになっていきます。そうすると配慮の余地がなくなり、生きづらくなってしまうのです」
マナーにおいて大切なことは何なのか。加野さんは、次のように話しました。
香川短期大学 加野芳正学長
「マナーには、あいさつをされたらあいさつを返したり儀式の際は深くおじぎをしたりするなど、広く美しいと受け止められている形があります。しかし、マナーに正解はありません。いろんな配慮のしかたがあり、それは人によって美しく見えたり、そんなに美しく見えなかったりするかもしれません。思いやりをもって対応した結果違う捉えられ方をしたとしても萎縮する必要はないと思います」
相手に配慮し思いやる気持ちから生まれるのがマナー。そこに込める思いも受け取り方もまた人それぞれで、お互いのマナーに少し違和感を感じることもあるかもしれません。
お互いが気持ちよく過ごせるよう、相手には思いやりを込めたマナーで接し、受け取る側としてもその気持ちをくみ取っていきたいと感じました。