終電の時刻繰り上げ 来年春から首都圏17路線で JR東日本

終電の時刻繰り上げ 来年春から首都圏17路線で JR東日本
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JR東日本は来年春、首都圏の17の路線で最大37分程度、最終電車の時刻を繰り上げると発表しました。
新型コロナウイルスの影響で深夜の利用客が減っていることや線路を保守する作業員の労働環境の改善が理由だとしています。
JR東日本によりますと、終電の時刻を繰り上げるのは首都圏を走る
▽山手線や
▽中央線、
▽総武線、
それに
▽京浜東北線など17の路線で、来年3月のダイヤ改正に合わせて実施します。
時間が最も早まるのは高崎線と青梅線で、37分程度、繰り上げられます。

▽高崎線は上野を出発して群馬県の高崎より先の駅に向かう場合、現在の午後11時7分が37分程度、早まります。

▽青梅線は立川を出発して青梅より先の駅に向かう場合、現在の午後11時36分が同じく37分程度、早まります。

また、始発の発車時刻が遅くなる路線もあります。
▽京浜東北線と
▽中央線の各駅停車、
▽総武線の各駅停車、
▽常磐線の快速、
▽常磐線の各駅停車の5つの路線では、
いずれも一部の区間で始発の発車時刻が3分から17分程度遅くなります。

終電の時刻を繰り上げる理由についてJR東日本は、
▽新型コロナウイルスの影響で特に深夜帯の利用客が減少していることや、
▽終電後に線路の保守や点検を行う作業員の労働環境を改善するためだとしています。

終電をめぐってはJR西日本も来年春から関西の主な路線で最大で30分早めるほか、大手私鉄各社も繰り上げを検討するなど見直しの動きが広がっています。

終電時刻繰り上げ その理由は?

最終電車の時間を繰り上げる理由について、JR東日本は2つの理由を挙げています。

理由1.深夜の利用客 減少

1つ目の理由は深夜の利用客の減少です。
JR東京駅のコンコースは、新型コロナウイルスの感染拡大前は深夜も多くの乗客の姿が見られましたが、最近は閑散としていることが多くなっています。
平日の午後11時54分に発車する東海道線の最終電車は乗客はまばらで空席も目立ちます。

JR東日本によりますと、ことし8月の平日で、
▽東海道線の午後11時台の乗客は、去年と比べて61%減少し、
▽山手線の午前0時台の利用も去年と比べて66%減っているということです。

深夜の乗客が減ったのは、
▽企業の中でテレワークが普及し通勤をしない人が増えていることや、
▽深夜まで飲酒する人が減っていることなどが主な要因とみられます。

一方で、仕事の都合で最終電車を利用せざるをえない人もいて、飲食店で働く女性は「仕事が午後11時までなので終電が早まると帰れなくなってしまう」と話していました。

理由2.保守作業員 労働環境改善

2つ目の理由は、終電後に線路の点検や保守を行う作業員の労働環境の改善です。

JR東日本によりますと作業員は昼夜が逆転する働き方を余儀なくされるうえ高齢化も進んでいて今後10年間で担い手の数が1割から2割減少すると見込まれています。
このため、最終電車の繰り上げで1日当たりの作業できる時間を増やし、工事にかかる日数を短縮することで作業員が休みをとりやすくするねらいがあるということです。

他の鉄道会社でも繰り上げの動き

こうした課題は鉄道各社に共通していて、最終電車を繰り上げる動きが広がっています。

▽JR西日本は来年春から関西の主な路線で午前0時前後に出発する電車48本を削減し、最終電車を最大で30分早めます。

大手私鉄では、
▽西武鉄道が最大30分程度の繰り上げを検討しているほか、
▽東急電鉄、
▽小田急電鉄、
▽京浜急行電鉄、
福岡県の
▽西日本電鉄なども繰り上げの検討を進めています。

私鉄との乗り換えに影響か

JR東日本の最終電車の繰り上げは、私鉄や都営地下鉄との乗り換えにも影響が及ぶ可能性があります。

このうち千葉県の船橋駅は、
▽都心とつながる「JR総武線」と、
▽郊外を走る東武鉄道の「東武アーバンパークライン」が接続し、
通勤や通学などで多くの人が利用しています。
東武鉄道は都心から帰宅する乗客の利便性を高めようと、ことし3月のダイヤ改正で中間のターミナル駅にあたる柏まで行く平日の最終電車を、それまでより33分遅い午前0時32分としました。

JR総武線から乗り換えができるうえ、待ち時間も少ない時間に設定されました。
しかし、JRが最終電車を繰り上げれば利用客にとっては待ち時間が長くなったり、これまで乗り換えていた電車に乗れなくなったりするおそれがあります。

船橋駅で乗り換えているという会社員の女性は「うまく乗り換えができ、不便がないように工夫してほしい」と話していました。

また飲食店で働く男性は「仕事が深夜に終わるのでJRや私鉄の最終電車が早まれば乗り遅れないか不安です」と話していました。

JR東日本は乗り換えが多い首都圏の私鉄大手9社や都営地下鉄などに利用客の利便性をできるだけ確保できるよう協力を要請していくとしています。

新橋駅周辺では

新橋駅周辺の飲食店や働く人たちからは、さまざまな意見が聞かれました。

居酒屋店主 営業終了時間早める

このうち、駅の近くで居酒屋を経営する牛島憲一さんは、深夜0時にしている営業終了の時間を30分程度早めることを考えています。

牛島さんと従業員は食器の片付けやテーブルの消毒を行ったあと、深夜1時前の最終電車で帰宅していますが、今後は間に合わなくなるおそれがあるためです。
この店では、新型コロナウイルスの影響で来店客の数は去年の5割程度に低迷しているということで、店を早く閉めてその分の売り上げを失うことは痛手だといいます。

牛島さんは「さらに遅い時間まで電車が走ってほしいと思っているので、最終電車が早くなると売り上げが減ってとても困ります」と話していました。

「賛成」「仕事に影響」 さまざまな声…

一方、駅周辺で働く人からはさまざまな意見が聞かれました。

20代の会社員の女性は「繰り上げには賛成です。新型コロナウイルスの感染で飲み会も少なくなっているので大きな影響はないです」と話していました。

50代の会社員の男性は「管理職なので会社に出勤する必要があり、遅くまで電車が走っていなければ仕事に影響があります」と話していました。

そして、最終電車に乗り遅れた客を乗せることも多いタクシーの運転手からは「お客が増えることを期待したい」という声があった一方で「夜に飲み歩く人が大きく減っているので、最終電車が繰り上げになっても売り上げは変わらない」という声も聞かれました。

終電時刻 その歴史は

最終電車の時刻は、経済成長や生活様式の移り変わりに伴って変化してきました。
終戦直後の昭和20年の首都圏の最終電車は、夜行列車を除くと
▽中央線が午後7時50分、
▽東海道線が午後8時55分と
比較的早い時間でしたが、経済の復興に合わせて遅くなっていきます。
前回の東京オリンピックが開催された昭和39年には、
▽山手線が午前0時38分、
▽中央線が午前0時35分と、
今と同じように日にちをまたいだ時間帯まで走るようになりました。

早朝に会社に出勤し最終電車で帰宅する「モーレツ社員」が日本の経済成長を支え、半世紀以上にわたって最終電車の時刻はほとんど変わりませんでした。
近年では、2回目の東京オリンピックの開催が決まったことや外国人観光客の急増を背景に、夜の経済=「ナイトタイムエコノミー」を強化するねらいから最終電車をさらに遅くするか議論が進められてきました。

ことし1月、国は大阪メトロと協力して御堂筋線の最終電車を午前2時台まで延長する実証実験を行いました。

こうした流れに一石を投じたのがJR西日本です。

去年10月、在来線の最終電車の時刻を早める検討を始めたと表明しました。線路のメンテナンスなどにあてられる時間を長くして、作業員の労働環境を改善し働き手を確保することがねらいでした。

ただ、これはいわば例外的な動きで、全体的には外国人旅行者への対応などから最終電車の時間は遅くする方向で検討が進められていました。

しかし、新型コロナウイルスの感染拡大をきっかけにテレワークの普及や長時間の外食を控えるなど生活様式が一変し、鉄道各社の経営も厳しくなる中、時間の繰り上げを検討する動きが広がるようになりました。