10月から年末商戦?コロナ禍でアメリカに異変

10月から年末商戦?コロナ禍でアメリカに異変
「ブラックフライデー」。11月の感謝祭翌日の金曜日のことを、アメリカでこう呼びます。毎年、大規模なセールが開催され、“どんな店でも黒字になる”というのがいわれ。これを機に年末商戦が本格化するのが通例です。小売り業界の年間の売り上げの30%から40%を占めるとも言われる、アメリカの年末商戦。しかし、ことしは新型コロナウイルスの感染拡大の影響で異変が起きています。(国際部記者 山田奈々)

デパートに行くのが怖い

大勢の買い物客でごった返す店内。こちらはニューヨーク・マンハッタンにある老舗デパート「メイシーズ」の去年のブラックフライデーの様子です。まさに、“密”。しかし、ことしはいつもと様変わりしそうです。

アメリカの調査会社「モーニングコンサルト」は、9月、アメリカに住む2200人余りを対象に、新型コロナウイルスの影響で年末のショッピングがどう変わるかを調査しました。すると、およそ60%の人が、ことしの年末は感染への懸念からシッピングモールに行くのに抵抗があると回答したのです。

店側も、人が密集する店舗でのセールは感染を広げてしまうおそれがあるとして、大規模なセールの開催を取りやめたり、セールの時期を大幅に前倒しして10月からにし、来店客を分散させたりするなど、これまでにない対応に追われています。

オンライン活用が8割に

買い物で“密”になることへの懸念が高い分、ことしの年末商戦の主戦場になりそうなのが、オンラインショッピングです。

上述の調査では、およそ半数にあたる47%が年末の買い物のほとんどをオンラインのみで済ませると回答したほか、31%がオンラインと店舗を両方使い分けると回答。何らかの形でオンラインを活用する人が、80%近くにのぼることがわかりました。

こうした意向を背景に、アメリカの小売り最大手の「ウォルマート」や、大手の「ターゲット」をはじめ、多くの店が10月からオンライン上でセールを始めています。早い時期からセールを始めるのは、物流網のひっ迫を避けるねらいもあります。

おもちゃ選びもバーチャルに

年末商戦に欠かせない子どもたちへのクリスマスプレゼント。「ウォルマート」は、店舗に行かなくてもスマートフォンやパソコン上で、おもちゃの箱を開け、中身を吟味できるバーチャルショッピングのサービスを始めました。専用のサイトには100種類以上のおもちゃが掲載され、好きな商品を選べます。
例えばバービー人形や動物のフィギュアが牧場の模型とセットになった商品。箱を開けるボタンをクリックすると、牧場の模型が組み立てられ、家畜に餌をやる、馬の毛並みを整える、納屋を散策するなど、人形にやってもらいたい動作を選ぶことで画面上で動かせるようになっています。店頭で商品をじかに手に取らなくても、実際に遊んでいるかのように試せるのです。
南部ウェストバージニア州に住む、4歳のブレイディー・セルビー君。店から車で20分ほどの場所に住んでいますが、両親が感染を警戒して、バーチャルショッピングの利用を始めました。母親から、店頭での買い物とどちらが好きかを聞かれたブレイディー君は、「バーチャルショッピングが好き、いろいろ画面上で触れるから」と即答。近所の子どもたちの間でもこのサイトは話題だということです。

店員とのビデオチャットも

自宅にいながら店舗での買い物に限りなく近い体験ができるというサービスも出てきています。

ニューヨークのITスタートアップ企業「HERO」が手がけるのは、ワンクリックで自宅にいる顧客と店舗にいる店員をつなぐチャットサービスです。ナイキやフェンディなど、著名なブランドを含めて150社と契約しています。

契約しているブランドのウェブサイトをスマホやパソコンで開くと、画面の右下に小さな吹き出しのアイコンが出てきます。顧客はこのアイコンをクリックし、商品のサイズ感や在庫の状況など、聞きたいことを入力してメッセージを送ります。
すると、AI=人工知能が、顧客の商品の閲覧履歴や購入履歴から好みの傾向を分析。店員の接客に関する口コミや売り上げ実績などの情報と掛け合わせて、その人にぴったりの店員と瞬時にマッチングする仕組みになっています。ワンクリックで、自宅にいても最適な接客を受けられるというわけです。
文字や写真のやり取りだけでなく、ビデオ通話も選択できます。サービスの本格開始は2017年ですが、新型コロナウイルスの感染拡大をきっかけに利用が伸びていて、特に、ことしの年末商戦では去年と比べて6倍から7倍、利用者の増加を見込んでいます。
クレーンCEO
「多くの人はショッピングモールに出かけることに抵抗を感じているため、利用者は劇的に増えています。このシステムなら、顧客が見ている商品を過去に実際に販売したことがある、商品に精通している店員を自動的に割り出してつなぐことができるため、顧客の満足度が上がるとともに、店側の販売機会も失わずに済むのです」

需要増を見越し追加雇用へ

オンラインショッピングの需要増を見越して、年末商戦の繁忙期を乗り切るための人員確保にあたる動きも出ています。

ネット通販大手のアマゾン・ドット・コムと物流大手のUPSは、それぞれ10万人を新たに雇うと発表。ウォルマートも2万人の追加雇用を表明しています。
アメリカの消費に詳しい第一生命経済研究所の桂畑誠治主任エコノミストは、「実際に商品に触れられない状況なので、ネットの画面上でどういう商品なのかわかるようにする工夫が重要だ」と指摘。

そのうえで、「去年の年末商戦の売り上げは前年比で4%余り増加したが、ことしの伸び率は1%程度にとどまるのではないか」と分析しています。

一方で、アメリカでは所得が前年比プラスの水準で推移し、消費意欲も高いままであること、さらに、オンラインでは他社よりも値段が高いとすぐに商品の値引きが行われ、消費者の購買意欲が高まりやすい傾向があることなどを挙げ、10月から12月までの3か月間で見れば、去年と変わらない伸び率を確保できる可能性もあると話しました。
オンラインが主戦場となる異例の年末商戦は、吉と出るのか。GDPの7割を占めるアメリカの個人消費の動向は、新型コロナウイルスの影響からの立ち直りを目指す世界経済全体への影響も大きいだけに、目が離せません。
国際部記者
山田 奈々
平成21年入局
長崎局、千葉局、経済部を経て現所属
アメリカ・ヨーロッパを担当