“自然体”でいられるクルマ 初の女性開発責任者が込めた思い

“自然体”でいられるクルマ 初の女性開発責任者が込めた思い
創立100周年を迎えたマツダ。今月8日、次世代の車と位置づけた新型車の販売を始めました。この車の開発責任者は、マツダで初めて女性が務めました。車好きが高じて、エンジニアとして入社し、車の開発に携わる一方で、10年近くテストドライバーを務めた経歴の持ち主です。この女性が目指した、新しい価値を持つ車とは。(広島放送局記者 渡邊貴大)

「新たな価値を創造せよ!」

独自に開発したハイブリッドシステムを搭載した小型SUV「MX-30」。来年1月には、マツダで初めての電気自動車の量産モデルも国内で発売する予定です。

エンジンにこだわった車作りを進めてきたマツダにとって、世界的な環境規制の強まりに対応していくための車です。
この次世代の車の設計・開発から販売までのすべてを取りしきる責任者を務めた竹内都美子さん(45)。

5年前、竹内さんが開発責任者に就任したときに、会社の幹部から託されたミッションは「新たな価値を創造せよ」。難しい課題と向き合う日々が始まりました。
竹内さん
「これまでにない物差しで商品開発をするのは初めてのことで、社内的にも非常に難しいチャレンジでした。今まで携わってきたどの車よりも強い思いで臨みました」

二刀流のエンジニア

竹内さんが車好きになった原点は、大学4年生のとき。

通学の手段を自転車から車に切り替えたことで、行動範囲も、交友関係も劇的に広がったことがきっかけでした。
竹内さん
「今まで行ったことのない場所に、いつでも自由に行くことができるようになりました。なんてすばらしい乗り物なんだろうと思って、車に関わる仕事がしたいと思うようになりました」
就職活動では、迷わず地元の自動車メーカー・マツダを選びました。
エンジニアとして電子部品の設計に取り組みながら、入社2年後にはテストドライバーに応募。自社の車だけでなく、他社の車にも乗り、時には時速200キロを超える速度でスポーツカーを操って、車の性能を評価し、開発にフィードバックする仕事です。

10年近くにわたって、エンジニアとテストドライバーの二刀流で、車の開発に関わってきました。この中で、竹内さんは「運転する人が安心感を感じられること」を大切にしてきました。
竹内さん
「車の運転が得意な人だけでなく、不安を持っている人もいることを忘れないことです。その不安や負担を少しでも減らせるようにすることだと考えて開発をしてきました」

世界を回って見いだした新しい価値感

新型車の開発責任者を任された竹内さんは、会社からの「新しい価値を創造せよ」というミッションを実現するために、これまでの経験をもとに、運転支援システムやエンジンの燃費の改善など車の性能を高めることばかりに目を向けていました。
竹内さん
「価値というのを、私自身が新しい技術や機能と捉えてしまっていた。しかし、車の開発は年単位で時間がかかり、発売するころには新しいと思っていたことが新しくなくなっているのではないか、という疑問を抱きました。追い求めているものが何か違うんじゃないかと悩みましたね」
行き詰まった竹内さんは、5年後、10年後にも生き残る新しいビジネスを考えている人に話を聞くことでヒントを得ようとしました。

開発チームのメンバーと一緒に、国内だけでなく海外を飛び回る中で、竹内さんの考えが大きく変わる出来事がありました。
アメリカ・サンフランシスコで起業家やクリエイターに会いに行ったときのことです。

そこは自然があふれる公園で、芝生の上にシートをひいてリラックスしたスタイルの食事に招かれたのです。彼らは、こう話しました。
「自宅でも職場でも、自然体でリラックスして過ごせる空間を大切にしている。そういう中だからこそ、新しいビジネスのヒントが生まれる。車という空間の中で、運転するときもリフレッシュする時間になっている」
竹内さんは自分が追い求めていた価値観だと感じたといいます。
竹内さん
「自然体でいられることをとても大切にしていました。速く移動できるとか広い空間とかそういった物差しでは測れない、車としてのもう1つの価値を見いだした気がしたんです」
竹内さんは2年間かけて、車のコンセプトを「自然体」とすることを決めました。

マツダのルーツ、コルク

どうしたら「自然体」を表現することができるのか。内装には、鉄やプラスチックとは違う、温かさや柔らかみを感じられる自然由来の素材を使うことができないか、試行錯誤が続きました。

そうした中、若いデザイナーから提案があったのが、木の表皮を材料に作るコルクでした。
実はマツダは、コルクの製造からスタートしました。コルクはマツダの原点とも言える素材で、創立100周年を象徴する車にもなると考えました。

しかし、もろくて崩れやすいコルクはこれまで車の内装には使われていませんでした。

木の皮を粒状に砕いて接着剤などで押し固めて作られるコルク。木の質感を残すために大きい粒だけで作ると、隙間ができてもろくなってしまいます。かといって、耐久性を求めて小さい粒だけで押し固めると砂粒のようなざらざらとした触感になってしまうのです。
何百回と試作を繰り返した結果、大きさの違う粒をブレンドすることで、手触りを残しつつ車の内装として十分な耐久性を持ったコルクに仕上がりました。
できあがったコルクをドアのグリップや中央のトレーに用いて、自然素材の手触りを感じてもらえるようにしました。
さらに、SUVでは珍しい観音開きのドアを採用。運転席と後部座席の間の柱を取り払うことで、乗り降りしやすい空間を作り、子どもから大人まで乗り降りの負担を減らすことができました。

課題となった安全性を保つための強度は、ドア側の部品を補強することで克服。

こうして目指してきた「自然体」を表現した車を作り上げていきました。
竹内さん
「今までに出会ったことのない、新しい出会いを提供できる車ができたと思います。次の100年を見据えた新しい価値、新しいマツダへの挑戦を車に乗った人に感じてもらえたらうれしいです」

「わが子の旅立ちを見送る」

発売にあたって、竹内さんはまるで、わが子の旅立ちを見送る母親のような気持ちだと表現してくれました。

新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、世界的に販売が落ち込む一方で、いわゆる3密を防ぐプライベートな空間の移動手段として注目が集まる自動車。

こうした時代に、「自然体」を目指した車が利用者にどこまで受け入れられるのか。これからもマツダの新しい時代への挑戦を取材していきたいと思います。
広島放送局記者
渡邊 貴大
福島放送局、鳥取放送局を経て、広島局では経済を担当