トリチウムなど含む水 “海洋放出が前提” 国の地元への説明で

トリチウムなど含む水 “海洋放出が前提” 国の地元への説明で
東京電力 福島第一原子力発電所で増え続けているトリチウムなどの放射性物質を含む水について、国は15日、福島県内の自治体を訪れ、風評対策を含めた処分方法の説明をしていたことがわかりました。地元の複数の関係者によりますと、海洋への放出が前提での説明だったということです。
福島第一原発では、汚染水を処理したあとに残るトリチウムなどの放射性物質を含む水が、およそ123万トンに上り、経済産業省の小委員会はことし2月、基準以下の濃度に薄めるなどしたうえで、海か大気中に放出する方法が現実的だとする報告書をまとめています。

これに関して経済産業省は15日、福島第一原発が立地する福島県の双葉町や大熊町などに、この水の処分について状況を説明したということです。

地元の複数の関係者によりますと、説明は海洋放出を前提としたもので、トリチウムを薄める濃度や風評被害を抑えるため、官民が参加する会議を早急に設置して、具体的な風評対策を検討することなどが示されました。

国が最終的な方針決定に向けて、これまでに7回開催してきた地元や関係団体から意見を聞く会では、海洋放出に慎重な意見が多く出されていましたが、今後、国は海洋放出の実施を軸に最終的な調整を進めるものと見られます。

福島 いわきの漁業者は…

トリチウムなどを含む水の海洋放出を前提とした説明が行われていたことが明らかになったことについて、漁業者の間では新たな風評が生じることへの懸念が広がっています。

震災のあと、3年前に漁師になったいわき市の佐藤文紀さん(30)は、祖父の代から続く漁師一家の3代目です。

現在は、試験的な漁の中で小型船に乗り、沿岸の魚や貝などの漁を手がけています。

佐藤さんは「原発事故のあと、漁の状況が徐々によくなってきていて、魚の価格も上がっているところだった」としたうえで、「海洋放出ということになれば、また風評が広まって福島の魚は避けようという人が増えてしまうのが心配です。私たちの世代やその次の世代も漁を続けられるような方法を考えてほしい」と話していました。

意見を聞く会 7回にわたり開催

福島第一原子力発電所にたまり続けるトリチウムなどを含む水の処分をめぐり、政府は方針の決定に向けてことし4月から7回にわたって地元自治体や農林水産業者、それに全国の関係団体などから意見を聞く会を開いてきました。

この中では、海や大気への放出を支持する意見もあった一方、風評被害を懸念する漁業関係者や地元住民などから海への放出に反対や慎重な意見も多く出され、このうち、全国漁業協同組合連合会の岸宏会長は「わが国漁業の将来にとって壊滅的な影響を与えかねない海洋放出は絶対反対である」と述べ、慎重な判断を求めていました。

また、敷地外での保管やコンクリートで固める案など、海か大気に放出する以外の選択肢について、しっかり検討されたか疑問だといった意見も出されていました。

このほか、具体的な風評被害対策を示すよう求める意見や、トリチウムの科学的性質や海外での処分状況などについて、国民の理解が進んでいないといった指摘もありました。

これまでの経緯

福島第一原子力発電所の汚染水を処理したあとには、除去しきれないトリチウムなどの放射性物質を含んだ水が残り、これをどう処分するかについて国は、2013年から7年にわたって検討を続けてきました。

まず、専門家チームによる処分方法の技術的な検討を2年半にわたって行ったあと、社会学者や風評の専門家などを交えた経済産業省の小委員会が、総合的な検討を3年余りかけて行い、おおむね6つの方法について議論を交わしました。

そして、経済産業省の小委員会はことし2月基準以下に薄めるなどして、海に放出する方法と、蒸発させて大気中に放出する方法が前例もあって現実的だとしたうえで、海の方が確実に実施できるとする報告書をまとめました。
その後、政府は、ことし4月から7回にわたって地元自治体や農林水産業者、それに全国の関係団体などから意見を聞く会を開いてきました。

この中では、漁業関係者や地元住民などから風評被害を懸念して海への放出に反対や慎重な意見が出されたほか、具体的な風評被害対策を示すよう求める声や、国民の理解が進んでいないなどの指摘が出されました。
一方で、東京電力は現行の計画では、2022年の夏ごろには敷地内のタンクが満杯になるとの見通しを示していて、福島第一原発が立地する大熊町や双葉町からは、この問題が帰還の妨げになっているとして政府に対し、対応策を早急に決定するよう要望が出されていました。

政府は、こうした意見を検討したうえで、トリチウムを含んだ水の処分の方法について、早期に方針を決める考えを示していました。

トリチウムとは

トリチウムは日本語では「三重水素」と呼ばれる放射性物質で、水素の仲間です。

宇宙から飛んでくる宇宙線などによって自然界でも生成されるため、大気中の水蒸気や雨水、海水、それに水道水にも含まれ、私たちの体内にも微量のトリチウムが存在しています。

トリチウムは、通常の原子力施設でも発生し、各国の基準に基づいて、薄めて海や大気などに放出されています。

水素の仲間で、水の一部として存在するため、水から分離して取り除くのが難しいのが特徴で、福島第一原発の汚染水から多くの放射性物質を除去する装置を使っても取り除くことができません。

国内の原発では、1リットル当たり6万ベクレルという基準以下であることを確認したうえで海に放出していて、海外でも各国で基準を定めて放出しています。

トリチウムが出す放射線はエネルギーが弱く、空気中ではおよそ5ミリしか進みません。

このため、人体への影響は外部からのものよりも体内に取り込んだときのリスクを考慮すべきとされています。

国の小委員会は、体内で一部のトリチウムがタンパク質などの有機物と結合し、濃縮するのではないかといった指摘があることについては、体はDNAを修復する機能を備えていて、動物実験や疫学研究からは、トリチウムが他の放射性物質に比べて、健康影響が大きいという事実は、認められなかったと結論づけています。

またマウスの発がん実験でも、自然界の発生頻度と同程度で原子力発電所周辺でもトリチウムが原因と見られる影響の例は見つかっていないとしています。

専門家「人体への影響 濃度の大小がポイント」

放射性物質の性質に詳しく、国の小委員会の委員をつとめた茨城大学の田内広教授は、人体への影響を考える際、濃度の大小がポイントだと指摘します。

そのうえで田内教授は、「トリチウムが体内に取り込まれてDNAを傷つけるというメカニズムは確かにあるが、DNAには修復する機能があり、紫外線やストレスなどでも壊れては修復しているのが日常。実験で、細胞への影響を見ているが基準以下の低濃度では細胞への影響はこれまで確認されていない」と話していて、低い濃度を適切に管理できていればリスクは低いとしています。

新地町の漁師「議論不足で時期尚早」

福島県新地町の漁師、小野春雄さん(68)は、おととし開かれた国の有識者会議の公聴会に参加し、トリチウムを含む水の海洋放出に反対の声を上げていました。

その後も、漁業関係者などから反対の意見が相次いで上がっているなか、国が海洋放出を前提とした説明をしていることが明らかになったことについて、議論が不足しているのではないかと、疑問と憤りを感じています。

小野さんは「全国的に海洋放出に反対の声が多くあがっているなか、風評対策などの議論も全くしないまま、海洋放出の方針で調整を進めている政府の姿勢は全く理解できない。議論不足で時期尚早だ。これまで漁業者は、9年半以上にわたって努力を積み上げ、ようやく来年4月には本格操業に向かいましょうという話も出てきた。その努力を裏切ろうとしている政府の姿勢には怒りがおさまらない」と話していました。