ハイレゾイヤホン、お安くします!中小企業の挑戦

ハイレゾイヤホン、お安くします!中小企業の挑戦
新型コロナウイルスの影響でリモートワークが増え、イヤホンを新たに買った人も多いのではないでしょうか。イヤホンの専門店ではリモートワークなどの影響もあり、去年に比べて売り上げが伸びています。そうした中、「ハイレゾイヤホン」と呼ばれる音質のよさが売りのイヤホンで、ある小さな会社の製品が「低価格・高音質」と注目を集めています。大手がひしめく業界で、なぜ中小企業が販売を伸ばしているのでしょうか。(前橋放送局記者 木下健)

アキバで売れる注目イヤホン

東京 秋葉原にあるイヤホンの専門店。取材に訪れた午後7時ごろには、仕事終わりのサラリーマンが多く訪れ、店内でイヤホンを次々と試聴していました。

この店では、ことし4月から7月までの売り上げは前の年と比べて3割増。新型コロナの影響でリモートワークが増えたことが要因と分析しています。
「ソニー」や「オーディオテクニカ」など大手の製品が幅をきかせる中、ある中小企業の製品が、この店の有線イヤホンの去年の販売個数ランキングで首位になります。

この会社のイヤホンは、音質のよさが売りの『ハイレゾイヤホン』で、数万円するものが主流となる中、4000円という低価格を実現。
低音から高音まであらゆる音の細部まで聞こえる鮮明さを武器に、売り上げを伸ばしています。
岡田取締役
「音がものすごくクリアで、価格を聞いて、さらにびっくりしました。この価格でこの音が出せるのかと、とても技術力の高い会社だと思いました」

強さの秘密はガラケーに

開発した「オーツェイド」は、群馬県高崎市にあります。4年前に創業し、社員はわずか5人と小さいながら、手がけたイヤホンは次々とヒットしています。
低価格を可能にしたのは、「圧電セラミックス」と言われる部品。電気を加えると振動し、高い音を発生させることができるのが特徴です。有名なところでは、魚群探知機の超音波センサーなどに使われています。

社長の渡部嘉之さん(57)は、大手メーカーで30年以上にわたり、圧電セラミックス一筋で研究を続けてきた技術者です。群馬県にある電子部品メーカーに勤めていた時に、高音を生かして、圧電セラミックスのスピーカーを開発します。
当時の携帯電話、いわゆる「ガラケー」のスピーカー機能にも使われ、2000年代前半の着メロの普及にも一役買いました。しかし、圧電セラミックスには低音がうまく出ないという弱点があり、低音に強いほかの部品に取って代わられ、次第に使われなくなりました。
渡部社長
セラミックスピーカーは超音波をメインに得意としています。超音波を得意とするスピーカーを低域まで使おうとしたことに無理があったと思います。低域は無理して出してますから、どうしてもひずみの大きい音になっていました」
その後、携帯電話の機能は進化し、音楽配信サービスも始まります。低音に弱い圧電セラミックスをスピーカーに採用する携帯メーカーはなくなり、会社もスピーカー製造から撤退します。

渡部社長は、その後も圧電セラミックスの研究を続けますが、自分自身で新たな製品を作りたいという思いから、会社を早期退職する道を選びました。

大手が見捨てた技術に革新のヒントが

渡部社長は退職後、高音部が肝となる、ハイレゾイヤホンと出会います。
従来、イヤホンで高音を出すための部品は、コイルと磁石から作られていました。補聴器などにも使われる複雑なもので単価が高くなってしまう欠点がありました。

そこで渡部社長は、安価な「圧電セラミックス」を代わりに使えないかと考えたのです。圧電セラミックスは、繊細な調整をしなければ耳に刺さるような高音ばかりが出るため、音楽には使いづらい部品と考えられていて、イヤホンに採用する会社はほとんどありませんでした。
しかし渡部社長はこれまでの経験から、圧電セラミックスは音の調整さえできれば、既存の部品よりも安価でよりよい高音が出ると確信を持っていました。そして、高音を圧電セラミックスで、弱点の低音は、他の部品で補う新しいイヤホンを開発したのです。

渡部社長は、大手が見捨ててしまった技術のなかにも、革新的な製品を生み出すヒントがあると考えています。
渡部社長
「もちろん、総合力では中小よりも大手のほうが強いです。大手にここだけは負けないというポイント、的をしぼることが中小にとって大事なことです。一点突破で勝ち続けるのが大切だと思います」

“生活者目線”でものづくり再興を

渡部社長がイヤホンの開発に乗り出したのは、息子が使っていたイヤホンがきっかけだったといいます。

大手メーカー退職後、当時大学生だった息子が、「よいイヤホンを買いたくても高すぎて買えない」と100円ショップで買ったイヤホンを使っていました。

それを見た時に「若い人たちによい音を届けたい。本当によい音が聞けるイヤホンを低価格で作りたい」と思い、ハイレゾイヤホンを開発したそうです。

最近のイヤホンやヘッドホンの市場を見ると、毎週のように新製品が発売されていて、競合他社がひしめき合う状態にあります。渡部社長の会社が手がける有線タイプのイヤホンも、最近では中国をはじめとする海外メーカーが台頭してきていて、価格や音質での競争が激しくなってきています。
こうした中、渡部社長は他社との差別化を図るため、音を出す部品などをお客自身が選んで、自分好みのイヤホンを作ることができるサービスを実現したいと考えています。

それに向けて、イヤホンを部品から選び自分で組み立てるイベントを全国各地で開いています。今後も定期的に開催し、将来に向けた布石にしたいとしています。

中国などの新興国が台頭し、日本のものづくりは危機的な状況にあると言われて久しくなっています。

取材を通じて、渡部社長のような「本当に使いたいものを作る」という生活者の目線が、日本のものづくり再興の鍵となるのではないかと感じました。
前橋放送局記者
木下 健
平成20年入局
さいたま放送局、 山口放送局、経済部を経て現所属