コロナ 非常事態宣言のフランス 夜間外出禁止に反発の声

コロナ 非常事態宣言のフランス 夜間外出禁止に反発の声
フランス政府は、新型コロナウイルスの感染が再び広がっていることを受けて、およそ3か月ぶりに公衆衛生上の非常事態を宣言し、パリなどで夜間の外出が禁止されることになりました。すでに大きな打撃を受けているレストラン業界などからは強い反発の声が上がっています。
フランスでは、1日の新たな感染者が2万7000人近くに上る日もあるなど、ことしの春を大きく上回る水準で感染者が増えていて、医療現場の負担も増しています。

これを受けてフランス政府は14日、「公衆衛生上の非常事態」を宣言し、感染状況が深刻なパリとその周辺や、東部のリヨンなど9つの地域で、午後9時から午前6時までの夜間の外出を禁止し、違反した場合、日本円でおよそ1万7000円の罰金を科すと発表しました。

この措置は、今週末から少なくとも4週間行われます。

この発表を受けて、営業が大幅に制限されることになるレストランなどの業界からは強い反発の声が上がっています。

このうちレストランやカフェの経営者で作る組合は声明で、「この措置は、私たちにとっては営業停止と変わらず、すでに大きなダメージを受けている業界に深刻な影響をもたらすのは明らかだ」と強く反発したうえで、営業を制限される店に対する支援を求めました。

フランスでは、この春の感染拡大で、レストランやカフェは店舗での営業が2か月半にわたって禁止され、閉鎖に追いやられた店も少なくありません。

マクロン大統領は14日夜のテレビのインタビューで「ウイルスの広がりを抑えなければならない。今夜伝えたいのはあなた方一人一人の協力が必要だということだ」と述べたうえで、レストランなどの業種への支援を行う方針も明らかにしています。

フランス政府は、感染の拡大を防止しながら、経済への影響を抑えるという難しい課題に直面しています。

市民や飲食店の反応は

フランスのマクロン大統領が今月17日からの夜間の外出禁止を発表したことを受けて、首都パリでは一夜明けた15日、さまざまな声が聞かれました。

このうち34歳の公認会計士の女性は「新型コロナウイルスの感染が拡大する中、何らかの追加の措置は必要だと思っていました。夜間の外出禁止で感染拡大にどのくらい歯止めがかけられるのか、市民が新たな措置をどれだけ尊重するのか、見極めなければいけません」と述べ、夜間の外出禁止に理解を示しました。

18歳の男子大学生は「夜間の外出禁止くらいでは寛容すぎます。危機的な感染状況に至る前に、ことし3月のように日中も外出制限をするべきだと思います」と述べ、より厳しい措置が必要だという考えを示しました。

42歳の建設業界で働く男性は「特にパリとその周辺では人との間に間隔をあけることなど、市民がやるべき対策をきちんと取っていないと感じます。これから措置を始めるのでは少し遅すぎます」と話していました。

一方、連日深夜まで営業している飲食店のオーナーの男性は、ことし3月に営業が禁止され、6月に再開しましたが、業績は今も通常の4割にとどまっていて、自身は3月以降、給料を一切受け取ることができないものの、家賃などの固定費を支払うために営業を続けているということです。
この飲食店では夜の営業が売り上げの8割を占めるということで、男性は「午後9時から外出禁止となるとお客さんは午後8時には店を出なければならず、夕食のサービスは一切できないことになるので、これ以上経営を続けられるか分かりません。今後数か月間休業するか、もう廃業するかもしれません」と話していました。

夜間外出禁止の理由は

フランスでの新型コロナウイルスへの感染は、大学生の集団感染などで若い世代を中心に広がり、1日に確認される新たな感染者の数は、先月になってから1万人を超えました。

今月10日には2万7000人近くに上るなど今月に入ってから累計で21万5000人以上が感染し、ことしの春を上回る水準となっています。

12日には、カステックス首相が「第2波の中にいる」と述べ、危機感をあらわにしました。

特に懸念が強まっているのが医療体制です。

マクロン大統領は、テレビでのインタビューで集中治療室に運ばれる新型コロナウイルスの患者が毎日200人に上り、集中治療室の40%に達したと指摘しました。

感染の第1波となったことし春に比べ感染が全国に広がっていて、どの地域も移送される患者を受け入れる余力がなく、病院や救急サービスの状況は悪化しているとしています。

マクロン大統領は、1日当たりの感染者数の平均を現在の2万人程度から3000人から5000人まで減らすとともに、集中治療室の患者の割合も10%から15%まで減らす必要があるとしています。

このため、夜間の外出禁止を通じて感染が起こりやすいパーティーなどでの接触を減らしたいとしています。

一方で、夜間の外出禁止を行う地域を限定したほか、地域間の移動は制限せず、来月1日の祝日に合わせたバカンスに出かけることも止めないとしていて、経済への影響をできるだけ抑えたいという思惑もうかがえます。

マクロン大統領 休業手当で補償の方針示し理解求める

フランスでは新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため、ことしの春に2か月近く外出制限を行ったことから4月から6月の経済成長率が前の3か月に比べてマイナス13.8%と記録的な落ち込みとなりました。

さらに夏のバカンスの時期も海外からの観光客は戻らず、GDP=国内総生産の8%近くにあたる観光業が深刻な打撃を受けています。

こうした中、フランス政府が先月下旬に感染が急速に広がっている南部のマルセーユで2週間にわたってレストランやバーの営業を禁止したところ、禁止措置の撤回を求めるデモが起きるなど反発を招きました。

その後、同じく感染が拡大したパリなどではバーだけを営業禁止にしレストランの営業は認めるなど感染を抑えながら経済活動をどう維持していくか対応に苦慮しています。

地元メディアによりますと今回、夜間の外出禁止の措置の対象となるのは、フランスの人口の3分の1近くにあたるおよそ2000万人にのぼるということです。

マクロン大統領は発表にあたって影響を受けるホテルやレストラン、観光業などで働く人たちの雇用が維持されるよう休業手当を補償する方針を示し、理解を求めています。

世界では欧米やロシアで感染者増加

アメリカ、ジョンズ・ホプキンス大学のまとめによりますと、最近は、感染者の累計が世界で2番目に多い多いインドと3番目に多いブラジルで新たな感染者数が減少傾向に転じる一方、アメリカとヨーロッパ、それにロシアで再び増加傾向になっています。

このうちヨーロッパ各国の1日当たりの新たな感染者数は現地時間の14日時点で、フランスが2万2160人、イギリスが1万7250人、オランダが7453人、スペインが7118人となっています。

これらの国々は一時、新たな感染者数が減少傾向でしたが、フランスでは先月、イギリスでは今月になって、1万人を超えるようになりました。

15日記者会見したWHO=世界保健機関のヨーロッパ地域事務局のトップ、クルーゲ事務局長は、「ヨーロッパでの感染状況の悪化を非常に懸念している。日々確認される感染者の数も、入院する人の数も増えている」と述べました。