新型コロナ 心の健康は? 悩みや不調に「早期介入」も

新型コロナ 心の健康は? 悩みや不調に「早期介入」も
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新型コロナウイルスの収束が見えない中、懸念されているのが「メンタルヘルス」=「心の健康」です。国内でも外出自粛などの影響で深刻な影響が出ているおそれがあるとして、厚生労働省も実態調査に乗り出しています。
WHO=世界保健機関によりますと、新型コロナウイルスの感染が世界各地で拡大したことで外出制限による孤独感や収入の減少などから、飲酒の量が増えたり、不眠症に陥ったりする人が増加していると見られています。

厚生労働省は、国内でも外出自粛によるストレスや感染への不安などから、多くの人のメンタルヘルスに深刻な影響が出ているおそれがあるとして、先月、実態調査に乗り出しました。

調査はインターネットを通じて1万人以上を対象に行われ、感染が拡大して以降、仕事や生活への不安を感じていないかや、食事や睡眠の量、ゲームをする時間に変化がないかなどを調べます。

厚生労働省は早ければ年内にも調査結果をまとめ、自治体での相談業務などに活用する方針です。

急増する精神疾患 「早期介入」に効果も

厚生労働省によりますと、精神疾患を理由に医療機関にかかっている人は、最も新しい平成29年のデータで国内でおよそ420万人と15年間で1.6倍に急増しています。今では5人に1人が、生涯に1度は精神疾患になるとされているということです。

症状で最も多いのがうつ病などの「気分障害」で127万人余りに上っています。

そこで今、国が注目しているのが、発症前か、発症後のできるだけ早い時期に治療や支援を行う「早期介入」です。国内外の研究者からは、精神疾患のおよそ7割が20代前半までに発症し、「早期介入」によって発症や重症化を抑える効果があることが報告されています。

現在、国の研究班が、若い世代への「早期介入」の効果を検証していて、厚生労働省は「全国で広められるよう検討したい」としています。

「早期介入」 支援施設では

去年、「早期介入」の拠点として、国の助成を受けて東京 足立区に開設されたのが通称「SODA」と呼ばれる支援施設です。

精神科医と精神保健福祉士が常駐し、人間関係の悩みなどを抱える10代から30代前半までの人の相談に無料で応じています。

保健師などとも連携し、必要があれば、医療機関や支援団体などへの橋渡しも行います。

北千住駅近くの繁華街にある一軒家をリフォームし、できるだけ気軽に立ち寄ってもらえるよう入り口をガラス張りにするなど開放感を重視した造りになっています。

SODAによると、去年7月に開設されてから先月までに合わせて200人余りから相談を受けたということです。

1人当たりの相談回数は平均でおよそ14回で、メンタルヘルスに関わる内容だけでなく、引きこもりから抜け出せないとか、仕事が見つからないといった相談も寄せられているということです。

SODAに勤務する内野敬医師は「軽い心の不調や困りごとが起きた段階でいち早く支援に結び付けることが大切だと考えている。なるべく丁寧に話を聞くので気軽に相談してほしい」と話しています。

一方、内野医師は、ことしに入ってから新型コロナウイルスの影響でストレスなどを抱える人が増えたと感じています。

内野医師は「今までと違う生活環境になって人とのつながりが強制的に断たれてしまい、孤独や不安を感じている人が一定数いる」としたうえで「気軽に相談に行ったり、足を運んだりするのが難しい状況なので相談へのアクセスも悪くなっている」と指摘しています。

そこで今、力を入れているのが、LINEなどのSNSやビデオ通話を使った相談です。

このうちLINEでは80人とやり取りをしていて、人間関係などに悩んでいる人から『死にたい』などと打ち明けられることもあるということです。

うつ病になって、LINEやビデオ通話で相談をしている20代の男性は「家で過ごすことが多く、したいこともできず友達とも会えなくてストレスや不安がかなりたまりました。新型コロナウイルスに感染するリスクを考えるとビデオチャットで対応してもらえるのは助かります」と話していました。

SODAの存在を地域や若者にどう知ってもらうかも課題です。

内野医師は、これまで学校や児童施設、それにNPO法人など合わせて50以上の団体を訪れ、「悩んでいる若者がいたら紹介してほしい」と依頼してきました。

依頼を受けた高校の教師は「保護者には、『生徒に問題があるから病院に行ってください』とは言いづらいですし、私たちも通常業務や部活動があって思うように時間が取れない事情もあります。第三者として相談に乗ってもらえるのは頼りになります」と話しています。

支援施設に通う20代男性

千葉県に住む20代の男性は、学生時代に精神疾患を発症し、今は東京 足立区にある支援施設「SODA」に通っています。

1人暮らしをしながら関西の大学に通っていましたが、周囲になじめず、1年生の夏休み明けから自宅に引きこもるようになりました。

サークル活動やアルバイトにも行かず、一日中オンラインゲームに没頭していたと言います。

当時について、男性は「大学に行っても、間違った発言や行動をして相手からの印象が悪くなるのではないかという不安が強く、どんどん孤立してしまいました。ゲームと食事と睡眠だけの生活の中で、『どうにでもなれ』という気持ちになってゲームの世界に逃避しましたが、最後は自分の存在意義を見いだせなくなりました。このままゲームだけをして年を重ねても生きていくのは難しいと思い、逃げる意味で自殺も考えました」と振り返っています。

男性は大学2年生の秋に休学して千葉県の実家に戻り、その後、SODAのことを知った家族に促されて、相談に訪れました。

そして紹介された都内のクリニックで初めて、他人から注目されることに強い恐怖や不安を感じる「社交不安症」と診断されたということです。

男性は「SODAは和やかな雰囲気で堅苦しさもなく、気軽に話せたので自分のことを分かってくれると思いました。不安を打ち明けるといつも励ましてくれて救われました」と話しています。

およそ半年間通い続け、症状も順調に回復していますが、新型コロナウイルスの思わぬ影響もありました。

男性は「人に会おうという時に行けなかったりして苦労しました。何かしようという機会を奪われたという感じです。自分は落ち込みまではしませんでしたが、落ち込んでしまう気持ちも理解できます。人と話さないでいると自分の中で問題を抱え込んでしまうので、解決できずに不安につながって気分も落ち込んでいくんだと思います」と話していました。

今では、新たな目標に向かって受験勉強も始めているという男性は「どん底にいた私でもSODAの人たちに助けてもらってもう1度新しく何かを目指せるようになりました。同じような状況の人を助けられるよう挑戦していきたいです」と話しています。