「あったや、んまんきや?」おじぃと話す消滅危機言語

「あったや、んまんきや?」おじぃと話す消滅危機言語
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「あったや、んまんきや?」と問いかける孫。
「いさなやんき つりとぅいんでぃ」と答える祖父。
話題の動画の会話は限られた人にしかその意味がわかりません。でも孫にとって大事な大事な言葉でした。
(ネットワーク報道部記者 井手上洋子 谷井実穂子 斉藤直哉)

祖父と孫

動画には89歳のおじいちゃんが登場、孫がやさしく話しかけます。
「あったや んまんきや?」
祖父「いさなやんき つりとぅいんでぃ」
孫が「んま※か゜だみわるん※か゜?」と質問する場面もあります。
「あったや んまんきや?」=明日はどこに行きますか?
祖父「いさなやんき つりとぅいんでぃ」=病院へ薬を取りに行くよ
「んま※か゜だみわるん※か゜?」=どこが痛みますか?
2人が話しているのは日本の最西端の沖縄県与那国町のことばです。与那国町の教育委員会に標準語では、どういう意味になるのかを教えてもらいました。
※印のついている「か゜」は「が」よりも「んが」に近い発音と思ってほしいということでした。

動画をツイッターに投稿したのは今は島を離れているというAIKAさん。与那国島に戻っている時に撮影したそうです。
ツイッターより
「祖父はネイティブで、母は聞けるけど話せないので、子どもの時は私も全然理解できていなかったです」

「若い世代に島言葉が継承できていません。私も祖父といれる間に多く学びたいと思います」
一連の投稿には「興奮しています。もう発声のしかたも違うように感じます!すごいです!」という驚きの声や「沖縄本島民だけど、全くわからん」など沖縄県の人でも意味がわからないといった声も寄せられました。

消滅の危機にある言語

AIKAさんが大事にしたいという与那国のことば。実はいま「消滅の危機にある」とされています。

生き物には「絶滅の危機にある」ということばがよく使われますが、言語でもユネスコが、世界でおよそ2500の言語が消滅の危機にあるとしていて、日本ではアイヌ語など、8つの言語、方言があげられています。
<極めて深刻>アイヌ語
<重大な危機>八重山語(八重山方言)、与那国語(与那国方言)
<危険>八丈語(八丈方言)、奄美語(奄美方言)、国頭語(国頭方言)、沖縄語(沖縄方言)、宮古語(宮古方言)
消滅の危機の度合いも話す人の数やどのくらい継承されているかなどを基準に分類されていて、消滅が「極めて深刻」とされているのがアイヌ語。

与那国語(与那国方言)は「重大な危機」となっています。

東京にもあった消滅危機言語

沖縄に多い消滅危機言語ですが、東京都の島である八丈島や青ヶ島のことば「八丈語」(八丈方言)もその1つです。

八丈町のホームページによると奈良・平安時代の古い言葉が数多く残り、アクセントの区別がない(橋も端も箸も区別しない)特徴があるそうです。
八丈町教育委員会 林薫さん
「日常的に使っている人はごく限られています。観光客が多いことや東京に近いこともあるからか、標準語を使うことが多いです」
林さんに聞くと、お年寄りどうしでは話すこともありますが、若い人はほとんど話さないそうです。そこで教育委員会では「自分たちの住んでいる地域の言葉を知って魅力を子どもたちに感じてほしい」と「八丈・島ことばかるた」を作っています。

島内でも5つの地域ごとにことばの違いがあることから、「赤ん坊は寝ていてもかわいいね」に対して、
「あっぱめわ ねてあってもかえーしきゃのー」(三根地域)
「あっぱめわ ねたあってもかえーしきゃ」(大賀郷地域)
などと各地域のことばが書かれています。

地域の言葉にふれる機会をつくろうと、カルタを貸し出したり、小中学校などで島のことばを学ぶ授業を取り入れたりしています。
八丈町教育委員会 林薫さん
「地域の言葉に触れることで、島の文化や歴史についても知ってもらって、魅力を感じとってほしいです」

消滅の危機の背景に学校

地域に根づいていた言語が消えてゆく背景はさまざまなものがありますが「学校での指導も深く関わっている」と指摘しているのは国立国語研究所の副所長・木部暢子教授です。
木部教授
「戦後から1970年頃にかけて、東北や九州南部、それに沖縄では『方言を使わない』という教育が進められていました」
「当時は高度経済成長期です。地域の若者は学校卒業後、“金の卵”として東京や大阪に集団就職しました。その際、標準語を話せないと困るということで、こうした教育が推し進められたようです」

禁じられた言葉

方言を使わないように、標準語が身につくようにと、当時、学校で使われていたものの中に“方言札”と呼ばれるものがありました。
木部教授
「方言を使った子どもが罰のような意味で首からこの札を下げていました。この世代の人たちは、高齢になった今でも『方言は汚い言葉』と認識している人が少なくありません」
「今、高齢者どうしの会話では方言を使っても、孫と話すときは標準語を使うというケースも多いようです」
木部教授はこうした教育に加えて、地方の人口の流出、核家族化、それにテレビの普及などが、地域の言語が使われなくなっていった要因とみています。

「英語の方が便利だから日本語なんていりませんか?」

そして大変失礼な質問だと思いながら聞いてみました。

「言葉はみな同じほうが便利かもしれません、言語を守るのはなぜなんでしょうか?」

ぶしつけな質問の答えはこうでした。
木部教授
「『英語で統一した方が便利だから日本語なんていらない』と言われたらどう思いますか?」
「もちろん広く話されている英語を勉強することは大切ですが、母国語である日本語を話すことも大切ですよね。地域の言語も全く同じです。標準語を勉強するのと同時に、地域に根ざした言語を守り、多様性を維持していくこともとても大切だと思います」

大切な言葉を学びたい、それは…

祖父との会話をツイッターに投稿したAIKAさん。動画を作ろうとしたきっかけを伺うと、思いを込めた返信をしてくれました。ほぼ原文のまま紹介します。
AIKAさん
「日本最西端の小さな島でお爺さんと孫が聞いたこともない言語で会話をしていたら、興味深いと関心を寄せる人がいるかもしれないと思いました」

「今、この与那国語は60代以上の高年層で話されています。私からして親世代は理解できるけど話せない、話さない人が多く、よって私たち若者世代は理解もできず、話せない人がほとんどです」

「私は小さい頃から、祖父が与那国語、母が日本語で会話をしている2人の様子を見て育ちました。その頃はほとんど意味を理解できずにいました。与那国語に関心を寄せたのは、島を出て大学に進学してからです」

「大学の映画学科で卒業制作で与那国を題材に映画を撮りたいと思い、3回生の頃から与那国についていろいろ調べていました。その中で改めて自分のルーツを見つめ直すことになり、与那国語の重要さに気づきました。島に何度も帰ってきては、島の資料を読み、島のおじぃおばぁ、先輩たちに話をきいてまわりました」

「島にいる間は祖父と2人暮らしで、祖父は昔より私に対して与那国語で話しかけてくることが多くなりました。意味がわからない時は聞いたら日本語で返してくれます。おかげで私は与那国語の習得ができつつあり、祖父が与那国語で私に話しかけてくれることが嬉しいのです」
そして最後にこう書いてありました。
AIKAさん
「ネイティブな与那国語を話す人たちは年々少なくなる一方です。祖父や近所のおじぃおばぁが元気でいるうちに、大切な島言葉を多く学びたいです。島は、私のアイデンティティでもあるからです」