同時流行へ診療・検査可能な診療所など指定進むも「不十分」

同時流行へ診療・検査可能な診療所など指定進むも「不十分」
k10012656281_202010091936_202010092002.mp4
新型コロナウイルスとインフルエンザの同時流行が懸念される中、厚生労働省は、発熱患者の診療や検査ができる診療所などを今月中に都道府県を通じて指定する方針です。
一方、これまでに指定した数については「まだそれほど多くの報告が上がっていないが、十分に足りる数字ではない」として都道府県に指定先を確保するよう呼びかけています。
これまで、発熱した患者は原則、保健所などに相談し、「新型コロナウイルスへの感染の疑いがある」と判断された場合に医療機関を紹介されて検査を受けていました。

しかし、インフルエンザの流行で発熱患者が急増すると保健所などに負担が集中することから、厚生労働省は発熱患者を診療して、新型コロナウイルスと両方の検査ができる診療所などを「診療・検査医療機関」に指定するよう先月、都道府県に通知しました。

指定にあたっては、院内感染を防ぐため、発熱患者専用の診察室を設けたり、屋外のテントで検査をしたりしてほかの患者と接触させないことを条件としています。

厚生労働省は、今月中に指定を行うよう都道府県に求めていて、指定を受けた診療所には、検査キットの配布や助成を行う方針です。

田村厚生労働大臣は9日の会見で、これまでに指定された診療所などの数について「まだ10月のはじめで、それほど多くの都道府県から報告が上がっていないが、十分に足りる数字ではない」としたうえで、「対応できない医療機関も当然出てくるだろうが、都道府県は発熱患者を十分に検査できる態勢をとってほしい」と述べました。

受け入れを決めた診療所は

新型コロナウイルスに感染した疑いがある患者を受け入れるのか、各地の診療所は判断を迫られていますが、その対応はさまざまです。

このうち、東京都内にある内科の診療所は、今月から、かかりつけの地域の患者を受け入れて、診察とPCR検査を行うことを決めました。

東京都から「診療・検査医療機関」の指定を受けることになります。

他の地域からの予約の殺到などを避けるため、診療所の名前を出さないことを条件に取材に応じました。

この診療所では、唾液を採取するPCR検査のキットや医師や受付の職員が身につけるゴーグルや使い捨てのガウン、ヘアキャップなど必要な物資を用意しています。

さらに、設備やスペースが限られる中、できるかぎりの工夫を重ねています。

厚生労働省は、感染の疑いのある患者が一般の患者と接触しないよう院内での経路を別にするか診察の時間帯を分けるか、いずれかの対策を実施するよう求めていますが、この診療所ではいずれも行い二重の対策をとる方針です。

感染の疑いがある患者の診察は、午前と午後の2回、通常の診察を終えて一般の患者が全員帰ってから行いますが、電話による事前の予約制で、通常の待合室とは別にあるパーテーションで仕切られた専用のスペースに案内されます。

専用スペースには、感染疑いの患者を1人しか入れないようにして、患者どうしの接触も生じないようになっています。

さらに、患者を診察室に招き入れるのではなく、医師やスタッフがこの場所を訪れ、診察を行うことにしています。

診療所の院長は、受け入れを決めた理由について「感染疑いの患者を受け入れるのはリスクのあることで、純粋に経営面から言えばプラスになることはないが、今後、感染患者が増えていくようなら地域の診療所が担っていく必要があると考えた」と話しています。

そのうえで「今まで保健所でやってきたことを、診療所レベルで行ったときどんな問題がでてくるのかやってみないと分からない部分もある。今できる最大限の感染予防対策をとり、問題点がでてくればそのつど改善して試行錯誤しなければいけない」としています。

受け入れを悩む診療所も

一方、感染疑いの患者を受け入れるか悩む診療所も少なくありません。

東京 新宿区の住宅街にある「木島内科クリニック」は、40年以上にわたって「かかりつけ医」として地域医療を担ってきたことから、感染疑いの患者も受け入れていく責務があると考えています。

国の方針に沿ってPCR検査を行うための申請書類を取り寄せ、途中まで記入しました。

ところが、万が一、診療所内で感染が起きたときのリスクを考え、今も提出できずにいます。

診療所の構造上、感染疑いの患者と一般の患者が通る経路を分けられません。

屋外の空き地にテントを張って受け入れることも検討しましたが、周囲に住む人たちの理解を得ることは難しいと考えています。

一般の外来が終わったあとに、時間を分けて受け入れる方法を検討していますが、残業に対応できる十分なスタッフを確保することも簡単ではないということです。

木島冨士雄院長は「高齢の患者さんが多いので感染の危険があってはいけないということを何より心配している。一方で、患者さんを受け持つ立場として受け入れる責務もあるので非常に迷っている」と話しています。

新宿区医師会の元会長でもある木島院長は「診療所ではなく、広い公園などに検査できる場所を地域ごとに設けて、そこに診療所の医者が出張するような形が望ましいのではないか」と提言しています。