“臓器保存装置”でひらけるか 日本の移植医療

“臓器保存装置”でひらけるか 日本の移植医療
臓器移植法が施行されて20年余り、国内のドナー不足は今も深刻です。こうした中、提供された貴重な臓器を1人でも多くの患者に届けたいという思いから開発されたのが“臓器保存装置”です。傷みが早い臓器の機能を維持できる時間を大幅に延ばすことができるこの装置に、移植を待ち続けている患者からも期待が寄せられています。(旭川放送局記者 山田裕規)

初使用の装置の実力は

ことし8月、仙台市の東北大学病院で行われた腎臓移植手術で、国内で開発されて間もない機器、臓器の「保存装置」が初めて使われました。
ドナーから提供された腎臓の機能を低下させないよう、動脈にチューブをつなぎ、酸素や栄養分を含む保存液をポンプで流し込むことで状態を保つ仕組みです。

腎臓は、30年近く腎不全に苦しむ50代の男性患者に無事に移植されました。
移植手術を受けた男性
「元気になりました。ドナーの方や医師などの医療関係者、そして支えてくれた家族にも感謝しています。人工透析から解放され、普通の暮らしができることを幸せに感じます」

「保存時間」を延ばす

臓器保存装置は、北海道旭川市の旭川医科大学の依頼を受け、地元の機械加工メーカー「中央精工」が5年をかけて共同開発しました。

臓器の状態が手術の成否を左右するとも言われる臓器移植。通常、ドナーから提供された臓器は氷で冷やしながらクーラーボックスなどで患者の元に運ばれます。

この方法では、腎臓で丸一日=24時間、肝臓で12時間、心臓に至っては4時間以内に移植しなければ、機能が低下し手術できなくなってしまうとされています。逆に言えば、この保存時間を延ばすことができれば、移植を待つ多くの患者に臓器を届ける可能性が広がるのです。

臓器の「診断」も可能に

もう1つ、この装置には重要な機能があります。それは、臓器の「診断」です。

例えば、心臓が停止したドナーの場合、心停止によって血の流れが止まり、提供される臓器の傷みが進みやすくなります。担当する医師側に少しでも不安があれば、移植に至らないケースも少なくありませんでした。

この装置では、保存液を臓器に流し込む圧力を高感度のセンサーで計測しています。
臓器の機能が保たれている場合、圧力は小さくても保存液はスムーズに流れ込みます。
一方、傷みが激しく機能が損なわれている場合、血液が血管の内側で目詰まりを起こすなどして、大きな圧力をかけなければ保存液を送り込むことができません。
このため、移植に向いている臓器かどうか、圧力の数値を踏まえて客観的に判断することができるのです。
今回、東北大学病院で行われた手術で提供された腎臓も当初、傷みが進んでいる懸念があったといいます。しかし、装置につないだことで機能が十分に保たれていることが分かり、手術にGOサインを出せたというのです。
東北大学病院 宮城准教授
「ドナーから臓器が提供されても、その臓器が使用できるかできないかマージナル=境界にある場合、移植を断念することがある。使えるかどうかわからず諦めていた臓器が使えるという話になれば、移植を待っている患者さんたちには間違いなく朗報になる」

腎臓だけでなく別の臓器でも

今回開発された装置は東北大学病院のほか、国内4つの医療機関に設置され、患者の同意を前提に移植手術で活用する臨床試験が進められています。
これまでに川崎市にある虎の門病院でも2回使用され、いずれも移植手術の成功につながったということです。

この装置は腎臓専用ですが、開発したメーカーでは、すでに肝臓の保存に活用できる装置の開発も進めていて、来年には完成予定だということです。
今田部長
「移植を待っている患者さんに命のバトンをつなぐ、そういうところに関われるのは、技術や物作りの企業として非常にうれしい。苦しんでいる患者さんたちの役に立ちたい」
同じような装置は、すでに海外では導入が進んでいるほか、国内でも、別のメーカーなどが開発を進めているということです。

多くの患者が待ち続けている

臓器移植法が施行されて10月で23年になります。去年1年間に行われた移植手術は過去最多の480件となりました。

しかし、臓器移植を待つ患者はおよそ1万4000人。実際に移植を受けられた人の割合は3%余りにとどまっていて、世界的に見ると日本のドナー不足は深刻です。

日本臓器移植ネットワークによりますと、移植を希望する患者の待機年数の平均は、肝臓で約1年、心臓で約3年、特に希望者の多い腎臓では約14年となっています。

今回、東北大学病院で腎臓の移植を受けた男性も、登録から実に20年以上待ち続けたということです。

共同開発にあたった旭川医科大学の松野直徒特任教授は次のように話しています。
松野特任教授
「装置の導入に伴い、欧米では、移植手術が増えたという報告もある。装置の臨床試験を積み重ねて、安全性や効果を検証したうえで国内でも広く普及させていきたい」
臓器保存装置によって、1人でも多くの命を救うことにつなげられるのか。実用化に向けた取り組みを今後も取材していこうと思います。
旭川放送局記者
山田裕規
平成18年入局
経済部を経て2回目の旭川局で行政や地域経済など幅広く取材