ノーベル化学賞「ゲノム編集」の新たな手法 国内でも研究進む

ノーベル化学賞「ゲノム編集」の新たな手法 国内でも研究進む
ことしのノーベル化学賞に、「ゲノム編集」の新たな手法を開発したドイツの研究機関とアメリカの大学の研究者2人が選ばれました。この技術を使って国内でも研究が進められています。日本人研究者らの反応です。

身の量を通常よりも1.2倍に増やしたマダイの養殖に成功

ことしのノーベル化学賞を受賞した「ゲノム編集」の技術を使った研究を進めている近畿大学の家戸敬太郎教授は、「ゲノム編集の技術を初めて知ったとき、あまりに画期的な技術ですぐに使ってみたいと思った。予想していたよりも早い受賞だったが、いつか必ず受賞すると思っていた」と話しています。

家戸教授らのグループではこれまでにゲノム編集の技術によって身の量を通常よりも1.2倍に増やしたマダイの養殖に成功していて、現在は、トラフグなどほかの魚の改良にも取り組んでいるということです。家戸教授は「以前は魚を品種改良しようとすると、何世代も掛け合わせて15年から20年かかっていた。それがゲノム編集の技術を使うことで4年ほどに短縮できた。ゲノム編集をしたマダイはエサを食べる量は通常のマダイと変わらないのに身の量が増える」と話していました。

家戸教授たちは、ゲノム編集で品種改良したマダイの流通を目指して、研究を進めているということで、「いま日本の養殖業は横ばいの状況が続いているが、ゲノム編集の技術を使えば、より効率の良く養殖できる魚の品種改良ができるはずだ。今回の受賞が契機となって国内でゲノム編集技術の活用が進み、養殖業そのものが活気を取り戻すきっかけになってほしい」と話していました。

「農作物の品種改良のスピードが飛躍的にアップ」

「ゲノム編集」の技術を使い、トマトの品種改良の研究を行ってきた筑波大学の江面浩教授は、「この技術によって、農作物の品種改良のスピードが飛躍的にアップした。何年も前から受賞すると思っていたので『やっと』という思いだ。受賞によって、ゲノム編集技術が人に役立つ技術の1つとして世界的に認知されたと思う」と話していました。

江面教授は血圧を下げるとされる成分を多く含んだトマトを開発し、販売のための手続きを進めていて、「農業分野では突然変異を利用して品種改良が進んできたので、ゲノム編集を応用することに問題はないとされているが、医療や家畜などそれぞれの分野で議論が必要な部分もあるので今回の受賞で関心が高まってこの技術がより人に役立つようになることを期待したい」と話していました。

「農業での活用は成熟へ 医療面では倫理的な面が課題」

科学技術振興機構の古川雅士調査役は「化学賞でとったというのは遺伝子配列に対する化学反応という点で評価されたほか、農業での活用が成熟してきている点があったと思われます。一方で、医療面ではがん治療などで研究が進行していますが、倫理的な面が解決できていなくてここが課題となっています。今回は論文の発表から8年という短い期間の受賞で、世界的にも注目度が高かったことを反映しています」と話しています。

「ゲノム編集のリスク しっかりと評価する仕組みを」

生命倫理が専門の北海道大学の石井哲也教授は、「今回のノーベル賞は、受賞するべくして受賞したものだと考えている。ただ、ゲノム編集の技術には、意図していない遺伝子の改変が起きるなどのリスクがあることが指摘されている。食品の品種改良や医療への応用など健康に関わる技術になっている以上、このリスクをしっかりと評価する仕組みを国内、あるいは国際的に作ることが求められていると思う。また、中国で行われたようなゲノム編集の技術を使って受精卵の遺伝子を操作して実際に赤ちゃんを誕生させるなどの行為は禁止するべきだ」と話しています。

「この技術を人間にどこまで応用していくか大きな問題」

生命科学や医療の倫理問題に詳しい、大阪大学医学系研究科の加藤和人教授は、ノーベル化学賞の受賞対象になったゲノム編集の手法について、「画期的な技術で、とても有用な技術であることは間違いない」と述べた上で、「技術はまだ未熟な面があり、この技術を人間にどこまで応用していくか大きな問題となる。たとえ、病気を治すためであっても、受精卵にゲノム編集を施し、書き換えた遺伝子が世代を超えて引き継がれる子どもを誕生させるべきではないというのが世界の考え方だ。日本でも研究で行うことは禁止されているが、法的な規制はなく、検討を進めてほしい」と指摘しました。

加藤教授は、世界各国が足並みをそろえてルールを作る必要があるとして、「本当に役立つ技術の研究を自信を持って進めることができるよう、倫理、法律などについて社会全体で考える必要がある」と話していました。

京大 iPS細胞研究所 山中伸弥所長「画期的な発見」

京都大学のiPS細胞研究所の山中伸弥所長は、ツイッターで、ノーベル化学賞の受賞者にジェニファー・ダウドナ氏が決まったことについて、コメントを発表しました。山中所長とダウドナ氏は、アメリカ・カリフォルニア州のグラッドストーン研究所にともに研究員として所属しています。

このなかで山中所長は、「ダウドナ先生、受賞おめでとうございます。グラッドストーン研究所の同僚として、心よりお喜び申し上げます。『CRISPRーCas9』を使ったゲノム編集技術は、医学のみならず、全生命科学における画期的な発見であり、その業績に心から敬意を表します」とコメントしています。

「歴史に革命を起こした技術」

ノーベル化学賞の受賞が決まったジェニファー・ダウドナ氏とエマニュエル・シャルパンティエ氏の2人と親交があり、みずからもゲノム編集技術を用いた治療法の研究などを行っている東京大学大学院理学系研究科の濡木理教授は「あらゆる生命活動の設計図を書き換えることができるもので、歴史に革命を起こした技術だ。この技術が世に出てから加速度的に応用範囲が広がり、社会に与えた影響が大きい。それだけ大きな業績だ」と話しています。

また、濡木教授は、「私自身がライバルでもあるが、2人とは、お互いに研究がうまくいったときに祝福し合ってきた。同じ分野の研究者として今回の受賞決定は喜ばしい。私たちも今後、研究を進め、基礎疾患や難病などの治療法を開発し、苦しんでいる多くの人を救えるようにしたい」と話しています。

「ゲノム編集の産業を推し進めようとする機運を」

日本ゲノム編集学会の会長で、広島大学ゲノム編集イノベーションセンターの山本卓教授は、「遅かれ早かれゲノム編集がノーベル賞を取るのは間違いないと思っていた。受賞が決まった2人は、これまでの方法よりも簡単に効率よく遺伝情報を編集できることを証明し、どの研究者にも使えるようにした点で功績は非常に大きく、受賞はうれしく思う」と語りました。

その上でゲノム編集の技術を生かした新たな治療や食品の開発が世界で進んでいるとして、「今後、私たちの生活を大きく変えていく技術だが、世界と比べ日本は遅れている面もある。ノーベル賞をきっかけに多くの若者に関心を持ってもらい、ゲノム編集の産業を推し進めようとする機運が生まれてほしい」と話していました。

一方で、山本教授は、「どれだけ正確に遺伝情報の書き換えができるのかという安全面の問題やデザイナーベイビーをつくることにもつながりかねないなどといった倫理的な問題が完全にコントロールできている状況ではない。すばらしい技術であることはわかっているが、こうした問題を解決しながら使っていかなければいけない」と指摘しました。