ノーベル物理学賞にブラックホールの研究 英独米の研究者3人

ノーベル物理学賞にブラックホールの研究 英独米の研究者3人
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ことしのノーベル物理学賞に、ブラックホールに関する研究で大きな貢献をしたイギリスのオックスフォード大学のロジャー・ペンローズ氏ら3人の研究者が選ばれました。
スウェーデンのストックホルムにある王立科学アカデミーは、日本時間の6日午後7時すぎ、ことしのノーベル物理学賞の受賞者を発表しました。

受賞が決まったのは、
▽イギリス・オックスフォード大学のロジャー・ペンローズ氏、
▽ドイツのマックス・プランク地球外物理学研究所のラインハルト・ゲンツェル氏、それに
▽アメリカ・カリフォルニア大学のアンドレア・ゲッズ氏の3人です。

ペンローズ氏は、20世紀最大の物理学者と言われたアインシュタインの一般相対性理論によって、ブラックホールの形成を証明したことが評価されました。

また、ゲンツェル氏とゲッズ氏は、宇宙の観測技術を発達させ、私たちの銀河の中心部にあると見られていた、太陽のおよそ400万倍の質量の超巨大ブラックホールの存在を明らかにしたことが評価されました。

国立天文台 本間教授「本当に不思議で魅力的な天体」

世界的な科学雑誌で去年の画期的な10の科学成果にも選ばれた世界初のブラックホールの撮影で国際的な研究チームの一員として成功に導いた国立天文台の本間希樹教授は、「ブラックホールのおもしろさを認められたもので、同じブラックホールの研究者として大きな励みになる」と話しています。

そして「ブラックホールが存在しないと考えられない重い天体があることを非常にクリアに示した重要な研究で、これらの研究があったからこそ次は写真を撮りましょうという私たちのようなプロジェクトが始まったわけで、先人として非常にすばらしい成果だ」と話しています。

そのうえで、今回受賞の対象となった、私たちの住む「天の川銀河」の中心のブラックホールについても、すでに撮影に挑戦して、そのデータを解析しているとのことで、「ぜひ写真として皆さんにお届けしたい。ブラックホールは何でも吸い込む光さえ出さない本当に不思議で魅力的な天体で、今回の受賞の決定は、ブラックホールのおもしろさを認めてもらえたということで、われわれの研究の励みになる」と話していました。

国立天文台 秦助教「存在を確かめた業績はとても大きい」

世界初となるブラックホールの輪郭の撮影に成功した国際研究グループのメンバーのひとり、国立天文台の秦和弘助教はNHKの取材に応じ「10年以上もかけて、地道な努力を重ねて多くの星の軌道を観測し続けて銀河の中心にあるブラックホールの存在を確かめた業績はとても大きい。われわれとはアプローチのしかたや対象としたブラックホールは異なるが、こうした研究の流れの中で、私たちはそのブラックホールの輪郭を撮影することに成功した」と話していました。

国立天文台 井上名誉教授「去年 撮影されるまでに」

電波天文学が専門でブラックホールの観測を行ってきた国立天文台の井上允名誉教授は「100年前に理論の学者が勝手なことを言っているとされてきたブラックホールは、観測事実が積み重なって去年には撮影されるまでに至っている。ブラックホールが実際にあることが確かめられてきた中で、今回受賞が決まった3人が果たした役割は、理論的にも観測の上でも大きい」と話しました。

1995年、井上名誉教授らの研究チームは長野県の野辺山にある天文台で世界で初めてブラックホールの質量を高い精度で観測したということです。

井上名誉教授によりますと、当時は競争が激しかったということで、ゲンツェル氏とゲッズ氏はその後、銀河の中心部にある超巨大なブラックホールの質量を正確に観測しました。

井上名誉教授は、「2人は、ブラックホールの周りにある星の軌道の観測を長年続け、ブラックホールの正確な観測を行った。しのぎを削ってきた競争相手が受賞することになったが、同じ分野の人たちがノーベル賞を受賞することになり、うれしくて震えている」と話していました。

東大 佐藤勝彦名誉教授「大きなテーマに 喜ばしい」

宇宙物理学者で東京大学名誉教授の佐藤勝彦さんは、「いずれもブラックホールについての研究だが、思いつかないような組み合わせで、それぞれ別に受賞してもおかしくない研究成果だ。私たちのブラックホールの研究が物理学でも天文学でも大きなテーマになってきたということで喜ばしい」と今回の受賞をたたえました。

そのうえで「最近は技術が進歩してものすごい精度で観測ができるようになるなど、数学的な理論と最先端の技術がうまくつながる時代となり、その中でブラックホールが観測できるようになり、大きな研究課題になってきたのだと思う。この受賞をきっかけに、若い人たちがおもしろい研究対象としてこの分野に入ってきてくれるようになることがいちばんうれしい」と話していました。

東大 須藤教授「銀河形成の解明に非常に重要」

宇宙物理学が専門で東京大学大学院理学系研究科の須藤靖教授は、「ここ10年から20年ほどの研究で、すべての銀河の中心に巨大ブラックホールがあるのではないかと言われていて、3人の研究は銀河形成の解明にとって非常に重要なものだ。宇宙は、一般の人の科学への興味をかりたてる分野で、研究者としてうれしい」と話していました。

3人のうちペンローズ氏は、難病と闘いながら宇宙の起源やブラックホールなどの研究を続け、おととし、亡くなったイギリスのスティーブン・ホーキング博士とも一緒に研究をしていたということで、須藤教授は「ホーキング氏が存命の間に受賞できていればと悔やまれる」と話していました。

またノーベル物理学賞は、これまで物理学の異なる分野が順番に受賞する傾向があると指摘されていましたが、2年連続で宇宙分野の研究の受賞が決まったことについて、「分野にとらわれず、重要な研究には賞を授与しようという姿勢の表れではないか」と話していました。

名大 立原准教授「多くの若者に興味持ってもらいたい」

ラインハルト・ゲンツェル氏と20年ほど前にドイツの同じ研究所にいたという名古屋大学大学院理学研究科の立原研悟准教授は、「受賞が決まったことを聞いて驚きました。私は別の研究グループでしたが、ゲンツェル氏は当時からすごい研究者で、仲間に対して鋭く厳しい指摘をしていて、いずれも理論に裏付けられたものばかりでした。彼の前では変なことは言えないなという緊張感がありました」と当時を振り返りました。

そのうえで立原准教授は「あれだけの仕事をした人であり、今回のノーベル物理学賞は正しい評価ですが、彼は、まだ現役で今後もより精力的に研究を続けていくのではないかと思います。ブラックホールはこれまでSFの世界でしたが、観測によって証明できる時代になりました。今回の受賞をきっかけに多くの若者にこの分野に興味を持ってもらいたいですし、私も頑張っていきたいです」と話していました。

国立天文台 渡部副台長「辛抱強く観察すごい」

国立天文台の副台長の渡部潤一教授は、「星が寿命を終えたときにブラックホールができることは知られているが、銀河の中心に巨大なブラックホールがあると言われるようになり、これがどのようにできるのかいまだに分かっておらず天文学上の謎とされている。新しい発見や成果がどんどんでてくるので、今後もおもしろさを感じてもらえると思う」とブラックホールをめぐる研究の魅力を語りました。

また、今回の観測については、「ブラックホールの周りで星が回るのは通常は数十年から数百年の周期があり、毎年のように辛抱強く観測をしたところがすごいと思う」と感想を話しました。

ブラックホールとは

ブラックホールは、極めて高密度で強い重力のために物質だけでなく光さえも抜け出すことができない特殊な天体です。

20世紀最大の物理学者と言われたアインシュタインの一般相対性理論の結果として形成されることが理論的に明らかになりました。

そして1990年代の初頭以来、銀河の中心で見えない天体が強い重力で他の天体を引きつけている様子を確認し、観測でも証明されることとなりました。