ノーベル医学・生理学賞にアメリカなどの研究者3人

ことしのノーベル医学・生理学賞の受賞者に、アメリカのNIH=国立衛生研究所などの研究者3人が選ばれました。
スウェーデンのストックホルムにあるノーベル賞の選考委員会は、日本時間の5日午後6時半すぎ、ことしのノーベル医学・生理学賞の受賞者を発表しました。

受賞が決まったのは、
▽アメリカのNIH=国立衛生研究所のハーベイ・オルター氏、
▽カナダのアルバータ大学のマイケル・ホートン氏、
▽アメリカ、ロックフェラー大学のチャールズ・ライス氏の合わせて3人です。

3人は、C型肝炎ウイルスの発見によって多くの慢性肝炎の原因を明らかにし、輸血などの際の検査ができるようにしたほか、多くの人の命を救う治療薬の開発に道をひらいたことが評価されました。

「C型肝炎」とは

C型肝炎はC型肝炎ウイルスによって起こる肝臓の病気で、1度感染するとおよそ70%の人が感染した状態が続く持続感染になるとされています。

国立国際医療研究センター肝炎情報センターのウェブサイトによりますと、肝臓はウイルスによって慢性肝炎になっても自覚症状がほとんどない場合もあるということで、気が付かないまま放置してしまうと20年から30年かけて肝硬変や肝がんへと病気が進んでいくということです。

C型肝炎のウイルスは、汚染された注射器の使い回しなどで血液を介して感染します。国内ではおよそ100万人が感染していると考えられていて、慢性肝炎や肝硬変、肝がんの患者のおよそ60%がこのウイルスに感染しているとされています。

以前は、インターフェロンという注射を打つ治療が行われていましたが、副作用が多く効果も十分とはいえない状況でしたが、ウイルスが増殖する仕組みが解明されたことで新たな薬が開発され、国内では2014年からインターフェロンを使わない治療が始まったということです。

現在は、国内でもこうしたウイルスの増殖を抑える薬を組み合わせて使う治療が主流となっていて、適切な時期に治療を受けることで95%以上の人でウイルスを体内から無くすことができるようになっています。

日本ウイルス学会 松浦理事長「受賞は当然」

日本ウイルス学会の理事長で大阪大学の松浦善治教授は、ノーベル医学・生理学賞の受賞が決まった3人の功績について「ハーベイ・オルター氏はC型肝炎のウイルスの存在を最初に証明した人だ。当時は、A型肝炎でもB型肝炎でもない肝炎と言うことで『ノンエー・ノンビー』と呼ばれていたが、そのウイルスが存在することを証明した。マイケル・ホートン氏はC型肝炎ウイルスの遺伝子を取り出すことに初めて成功し、診断につながる技術を作った研究者だ。この技術によって輸血の際にウイルスが混入するのを防ぐことができるようになり、輸血が原因のC型肝炎が大幅に減ることにつながった。チャールズ・ライス氏は、人工的に増やすことが難しかったC型肝炎ウイルスを複製する仕組みを作ることに成功し、抗ウイルス剤の開発に大きく寄与した」とそれぞれの研究者について解説しました。

そのうえで「いずれもすばらしい業績を上げた人たちで受賞は当然だ。特に私自身、マイケル・ホートン氏と共同研究をしたことがあり、人柄も含めてよく知っている。3人とも長年の研究が報われたということで、よかったと感じている」とたたえました。

患者団体「受賞は遅いくらい」

日本肝臓病患者団体協議会の前の代表幹事で、自身もC型肝炎を患った経験がある渡辺孝さん(81)は「すばらしい研究成果で、受賞は遅いくらいだと思います。患者団体としてはとてもうれしいです。私自身は昭和30年代に輸血によりC型肝炎ウイルスに感染しましたが、以前は薬の副作用が強く、大変苦しい思いをしました。最近は国内でC型肝炎ウイルスに感染する人はまれですが、今回の受賞をきっかけに新たな感染者がゼロになって、私と同じように苦しむ人が出ないよう、さらに研究や対策が進んでほしいです」と話していました。

臨床医「3人の功績は大きい」

佐賀大学医学部の臨床教授で、地域の病院でC型肝炎の患者を治療している江口有一郎医師は「今回受賞した研究、特に1988年にウイルスが発見されたことをきっかけに治療薬が開発され、飲み薬だけで完治する時代になったが、それまでは感染すると肝硬変や肝臓がんになって、国内でも命を落とす人が大勢いた。それが、4年前にはWHOが『2030年までに世界中からC型肝炎を撲滅する』と宣言するまでに、劇的に治療法の開発が進んできた。そのきっかけを作った3人の功績は大きい」と話していました。

国立感染症研究所 脇田所長「功績非常に大きい」

C型肝炎ウイルスの研究者で、国立感染症研究所の脇田隆字所長は「3人の研究によって、C型肝炎がウイルス性の感染症であることが突き止められ、輸血での感染を防ぐことにつながった。さらに抗ウイルス薬開発に道を開き、患者の治療を可能にした点で功績は非常に大きい。かつては世界中に多くの患者がいて、人類の健康上の重大な課題といってよい感染症だったが、3人の功績により、今では撲滅できる病気と考えられている」と述べました。

脇田所長は、3人とは学会などで頻繁に交流があるということで「3人ともとても真摯(しんし)に研究に打ち込む研究者で、労をいとわず地道に研究をする姿勢が受賞につながったと思う。3人とも、いまだに現役で研究を続けていることを大変尊敬している」と話していました。

そのうえで、脇田所長は「新型コロナウイルスの世界的流行によって、感染症が今でも私たちの生活を脅かす存在であることが改めて確認された。ノーベル賞では、これまでにも感染症の研究が選ばれているが、今回の受賞は、今の世界的な状況からみても大きな意義があるといえる。若い世代に刺激を与えるもので、感染症研究の活性化につながってほしい」と話していました。