中国 武漢 都市封鎖解除から半年 街は賑わうも不満くすぶる

中国 武漢 都市封鎖解除から半年 街は賑わうも不満くすぶる
新型コロナウイルスの感染が世界で最初に拡大した中国湖北省の武漢では、都市の封鎖が解除されてから今月8日で半年となります。

中国の建国記念日にあたる国慶節の連休を迎え、街はにぎわいを取り戻していますが、一方で、初期の対応に問題があったとして政府の責任を追及する遺族の訴えは抑え込まれています。
中国政府は、武漢で新型コロナウイルスの感染が拡大したことを受けて、ことし1月に駅や空港などを閉鎖し、都市の封鎖を行いました。

一時は医療崩壊の状態に陥り、当局の発表で、感染者は5万人余り、亡くなった人は3800人を超えましたが感染者が減ったことなどからことし4月8日に、封鎖は解除されました。

地元当局は1000万人近い市民にウイルス検査を実施するなどした結果、ウイルスを効果的に抑え込んだと大々的に宣伝していて、6月以降、海外からの入国者を除き、感染は確認されていないとしています。

封鎖の解除からまもなく半年となる中、中国の建国記念日にあたる「国慶節」の大型連休を迎え、武漢の観光名所には多くの旅行客が訪れ、にぎわいを取り戻しています。

一方で、家族を亡くした遺族の一部は、当局が当初、人から人への感染は確認されていないなどとして十分な警戒を呼びかけなかったために感染が拡大したとして、政府の責任を追及していますが、公安当局から警告を受けるなど、その動きは抑え込まれています。

父親を亡くした男性「責任追及し続ける」

新型コロナウイルスの感染で76歳の父親を亡くした張海さんは当局が情報を隠蔽したのが原因だとして、武漢市の対応を批判してきました。

武漢出身の張さんは、仕事の都合で南部、広東省に移り住み父親も呼び寄せていましたが、ことし1月15日に父親が転倒して骨折しました。

現地の病院から、父親は退役軍人なので戸籍のある武漢ならば公費で手術を受けられると言われたため、張さんは父親を武漢の病院まで連れて行ったということです。

当時、武漢では急速に感染が拡大していたとみられていますが張さんは、当局が人から人への感染は確認されていないなどと説明し、警戒を呼びかけていなかったことから父親を連れて行ってしまったと話しています。

父親の骨折の手術は成功しましたが、その後入院先の病院で新型コロナウイルスの感染が確認され、2月1日に亡くなったということです。

張さんは「私が父親を死に追いやったと感じて後悔しています。当時、武漢の感染状況が重大だと知っていたなら、絶対に連れて行っておらず、当局に強い憤りを覚えます」と話していました。

張さんはその後、武漢市などを相手取り賠償や謝罪を求める訴えを起こしましたが、裁判所からは十分な説明もないまま訴えは受理しないという連絡を受けたということです。

張さんは「責任者が処罰を受けなければ再び重大な問題が発生した時、また隠蔽しようとするでしょう。その時に実際に被害を受けるのは私たち一般市民です。当局が圧力をかけ続けたとしても、私は絶対に責任を追及し続けます」と話していました。

娘失った母親「国営テレビ信じなければ娘死なせず済んだ」

武漢に住む楊敏さんは新型コロナウイルスで24歳の1人娘を失い、当局の圧力を受けながらも真相究明と責任の追及を訴え続けています。

楊さんの娘はことし1月16日に別の病気の治療のため地元の病院を訪れたあと、ウイルスに感染し、2月6日に亡くなりました。

付き添っていた楊さん自身もウイルスに感染し、娘が亡くなったことを知ったのは治療を終えて自宅に戻ったあとでした。

楊さんは当初、インターネット上でウイルスの危険性に警鐘を鳴らすなどした市民が「デマを流した」として警察に取り調べを受けたと伝えた国営テレビの情報を信じていたと言います。このため対策をとれず、娘を守れなかったと今も自分を責め続けています。

楊さんは「1人娘は私のすべてでした。もうその声を聞くこともできません。国営テレビの情報を信じていなければ娘を死なせずに済んだはずです。すべては私が無知だったせいなのです」と泣き崩れるように話していました。

楊さんは、その後、娘の遺影を持って政府の建物の前に座り込み、真相究明と責任の追及を訴えましたが、当局に強制的に排除されました。

また、他の遺族とSNS上で情報交換をしていますが、多くの遺族は当局からの圧力を恐れ、責任の追及を諦めざるをえない状況だということです。

楊さんは、「感染状況を隠蔽した当局者は一体誰で、どうしてそのようなことをしたのか、一般市民の命をどのように考えていたのか教えてほしい。最低でも遺族に説明し、亡くなった人が安らかに眠り、私たち遺族が心のバランスを保てるようにするべきです」と訴えていました。

当局「感染抑えこんだ」とアピール 批判かわすねらいか

中国当局は9月、日本を含む外国メディアなどを対象に武漢の状況を紹介する取材ツアーを実施し、感染の拡大を抑え込んだとアピールしました。

このうち、武漢を代表する観光名所の「黄鶴楼」は、封鎖が解除されて以降、無料で開放されていて地元の住民や観光客で再びにぎわいを見せていました。

また、9月からすべての小学校で授業が再開され、子どもたちは登校時に体温検査を行うなど、感染防止の対策をとったうえで、伝統楽器を演奏したり、漢詩を朗読したりしていました。

このほか中心部にあるナイトクラブでは若者たちがいわゆる「3密」の環境の中、マスクをつけずに音楽に合わせて踊りを楽しむ姿も見られました。

ナイトクラブを訪れた男性は「武漢の感染状況は問題ありません。
私たちは誰もマスクはつけておらず非常に楽しんでいます」と話していました。

中国政府としては、武漢が安全だと宣伝することで新型コロナウイルスが世界で最初に拡大したという負のイメージを払拭し、対応の遅れが世界的な感染を招いたなどとする国際社会の批判をかわすねらいがあるものとみられます。