日本人プラスサイズモデルが見たアメリカの影と光

日本人プラスサイズモデルが見たアメリカの影と光
「アメリカに来て、初めて自分に自信が持てるようになりました」
こう話すのは、ロサンゼルスで“プラスサイズ”モデルとして活躍する藤井美穂さんです。人種差別への抗議活動が広がり、社会が大きく揺らいでいるアメリカ。それでも、藤井さんは、自分の可能性を“発見”してくれたアメリカの可能性を今も信じています。(WorldNews部記者 永楽真依子)

“自分に自信がなかった私”

幼いころから人前で目立つことが好きだった藤井さんは、舞台俳優を目指して東京の短大に進学しました。

しかし、一緒に舞台を目指す仲間は、細身で美しい女性ばかり。藤井さんはこの頃、周りより太めな自分の体型にコンプレックスを感じ、俳優になることを諦めかけていました。
藤井美穂さん
「『きれいじゃないから、体が細くないから、色が白くないから』日本にいたときは、女優になれないのは自分の容姿のせいだと自然に考えてしまっていました」
藤井さんは短大を卒業後、恩師の勧めで、英語もわからないまま渡米します。

現地で悪戦苦闘するなか、転機となったのが、友人の薦めで140万人以上が登録する動画投稿サイトにモデルとして出演したことでした。動画に寄せられた多くのコメントは、藤井さんのこれまでの考えを180度変えてくれたと言います。
藤井さん
「日本にいたときは大きいお尻がコンプレックスだったんです。でも、アメリカではたくさんの人がセクシーだとほめてくれた。日本にいたときは、自分の容姿や体型を直視するのがつらかったんですが、自分を肯定できるようになりました」

プラスサイズモデルとは

やがて、藤井さんのもとにプラスサイズモデルとしての仕事の依頼が舞い込むようになります。プラスサイズモデルとは、通常より大きいサイズの服を身にまとうモデルのことです。

これまでファッション業界では、背が高く痩せた体系のモデルが主流を占めていました。

しかし、アメリカでは2010年代に入って、「ボディ・ポジティブ」、つまり、“ありのままの自分を愛そう”という活動が生まれ、モデルの世界でも、「痩せた=きれい」という既成概念が少しずつ変わっていきました。

プラスサイズモデルは、単に大きめの服を魅せるだけでなく、有名ファッション雑誌の表紙を飾ったり、化粧品メーカーの広告塔に採用されたりするなど、活躍の場を広げています。藤井さんは、当時は珍しかったアジア系のプラスサイズモデルとして注目されたのです。

黒人男性との結婚でわかったこと

藤井さんは、1年前に黒人のリチャードさんと結婚しました。

それまでロサンゼルスに住んで露骨な差別を感じたことはありませんでしたが、夫の話を聞いて、人種差別について深く考えるようになったと言います。

藤井さんが最初に違和感を持ったのが、リチャードさんの話し方でした。初めて会った人に対して、必要以上に丁寧なことばづかいで会話するのです。理由をたずねると、「相手に怖がられないようにするため」とリチャードさんは答えました。

藤井さんによると、アメリカでは、黒人が近づくだけで警戒感を持つ人もいて、ちょっとしたことばづかいや態度が誤解を生み、黒人が警察に連行されたり、逮捕されたりするケースがあるということです。

リチャードさんの丁寧なことばづかいは、黒人がアメリカで安全に暮らすために身につける“処世術”の1つだったのです。
藤井さん
「結婚してから、“夫が突然、警察に逮捕されるかもしれない”ということを常に考えて生活するようになりました。そして、彼が仮に逮捕されたからといって、必ずしも悪いことをしたわけではないということも理解するようになりました。こうしたことは黒人として生まれたからには避けられないことだと、彼は説明してくれました」

黒人が置かれている立場への理解を

藤井さんは、去年6月、黒人の親が子どもに「警察との付き合い方」を教える姿を描いた動画を日本語に翻訳してツイートしました。
「世の中にはいい警察官もいれば、あまりよくない警察官もいます」
「私が恐れているのはあなたがその悪い警察官に出会ってしまうこと」
動画では、黒人のお父さんやお母さんが、自分が警察官との間で経験した不当な行為について、子どもたちに優しく語りかけています。このツイートは3万以上リツイートされ、大きな反響を呼びました。
アメリカでは、ことし5月、黒人のジョージ・フロイドさんが警察官に押さえつけられて死亡した事件をきっかけに、連日、人種差別に抗議するデモが行われています。

藤井さんは、長い歴史の中で形づくられたアメリカの人種差別への意識が、少しずつではあるけれども、変わりはじめていると感じています。
藤井さん
「“Black lives matter(黒人の命も大切だ)”ということばは10年以上前から使われてきました。でも、これまでは“All lives matter(全員の命も大切だ)”だよねと言い返されることも多かったらしいんです。これってある種の開き直りだと思うんです。黒人が受けてきた差別をある意味、無視してしまっている。今回の抗議活動では、こうしたことばを聞かなくなりました。みんな、黒人が置かれている状況を理解し始めたんだと思うんです」

アメリカは“多様性を受け入れてくれる国”

藤井さんにとって印象深かった仕事があります。去年、写真や動画の投稿アプリ「インスタグラム」の新機能をPRする動画に出演したことです。

動画のテーマはダイバーシティ(多様性)でした。
藤井さん
「急にオーディションの案内が来て、内容も分からずに参加したら、私と同じようなプラスサイズモデルや、性的マイノリティの人たちが集まっていました。私とは全く違うタイプの人ばかりで、すごく刺激を受けたんです。実際に彼らと会って話すことで、また、自分の視野が広がったように感じました」
大統領選挙が近づくなか、新型コロナウイルスの対応をめぐる対立や黒人差別への抗議活動など、アメリカ社会の分断の深刻さを示すニュースが目立つようになっています。

それでも、「アメリカは今でも多様性を受け入れてくれる国だ」と話す藤井さんは、アメリカの持つ“底力”を信じて前を向いています。
WorldNews部記者
永楽真依子
平成20年入局
鳥取局などを経て、WorldNews部でウェブの特集を担当