「いのちの電話」がつながらない 相談員減少にコロナ影響も

「いのちの電話」がつながらない 相談員減少にコロナ影響も
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自殺を防ぐため電話で相談に応じている全国の「いのちの電話」は、ボランティアの相談員の減少や運営資金の不足に加え、新型コロナウイルスの影響などで十分に相談に応じられていないケースがあり、専門家は、「いのちの電話は自殺を食い止める最後のとりでで、ボランティアの善意に頼ってしまわず、財政的、人的な支援が必要だ」と指摘しています。
「いのちの電話」は、イギリスの自殺予防の電話相談を参考にドイツ人の宣教師が呼びかけ、いまからおよそ50年前の1971年に活動が開始されました。

現在、全国50の事務局で専門の研修を受けたボランティアおよそ6000人が悩みや不安を抱える人に寄り添う活動を続けていて、年間60万件もの相談に対応しています。

しかし、「日本いのちの電話連盟」によりますと、ことしは、新型コロナウイルスの感染拡大で緊急事態宣言が出された4月以降、東京や神奈川県、それに岐阜県や三重県など少なくとも25%余りにあたる13の窓口が一時、相談の受付の休止を余儀なくされました。

その後、すべての窓口が再開していますが、相談員の減少や高齢化、それに新型コロナの感染への懸念から本来のシフトを維持できずかかってくる電話をとれないケースもあるということです。

また、多くを寄付に頼っている運営資金の確保も厳しく、相談員を増やすための広報活動などが十分にできない事務局も出てきています。

長崎 相談員確保が課題

「長崎いのちの電話」でも相談員の確保が課題となっています。

「長崎いのちの電話」は、研修を受けた相談員が、悩みを抱える人の相談を毎日、電話で受け付けていますが、多い時で120人ほどいた相談員は現在、84人まで減っています。

相談員のシフトは、1日4交代2人体制が理想ですが、維持するために少なくとも130人が必要で、1人で対応することも少なくないと言います。また新型コロナウイルスの影響で、8月は20日間ほど活動を休止せざるを得なかったと言います。

相談員になるために、およそ6万円の受講料が必要な研修を1年半受けなければなりません。

22年間活動を続けてきた70代の相談員の女性は、「活動が生活の一部となっています。相手の話を聞いて、一緒に考えることで、電話の相手と心がつながったと思うことがあります。それが少しでも相手の役に立てばと思っています」と話していました。

そのうえで、人手不足で相談に1人で対応することについては、「事務所に相談員が2人いればつらい話を聞いた後や、対応がうまくできず落ち込んだときも、互いに相談ができるので、そうなってほしい」と話しました。

運営は県からの補助金を受けていますが、大半を寄付で賄う厳しい状態だということです。

「長崎いのちの電話」の田村繁幸事務局長は、「できることは限られていますが、たまっている悩みを一生懸命聞くことはできるので悩んだらいつでも相談してほしい」と話していました。

活動維持へ各地で模索

各地の「いのちの電話」では、活動を維持するための模索が続いています。

このうち「北海道いのちの電話」は、不足する運営費をクラウドファンディングに託し、札幌を拠点とするロックバンドが支援者にオリジナル曲をプレゼントするなどして資金集めに協力しました。

また、「あおもりいのちの電話」は、多い時で80人ほどのボランティアがいましたが高齢化が進み、いまでは40人程度まで減少しています。

関心を持つ人を対象した研修会がことしは新型コロナの影響で例年のようには開けませんでしたが、インターネットを活用して研修会を行うなど相談員を確保しようと模索を続けています。

専門家「財政や人的支援の仕組み欠かせない」

社会福祉学が専門の日本福祉大学の川島ゆり子教授は、「自殺を食い止める手段としてSNSの活用などもありますが、いのちの電話は人が声でつながっているという実感を得られることがほかのツールに代えがたい特性だ」といのちの電話の必要性を訴えています。

また、相談員の確保が課題になっていることについて、相談員になるための長い研修期間の見直しや、心理的な負担が続く相談員の心のケアが必要だとしています。

これについて、川島教授は、「いのちの電話は隣近所や家族というつながりをたちきられている人が必死になってかけてくる最後のとりでだ。電話を受ける『人』が財産だが高齢化やなり手不足になっているうえ、悩みを聞く相談員がつらくてやめてしまうケースもあるのではないかと思う」と指摘しています。

そのうえで「人の命に関わる重い仕事をボランティアの善意に頼ってしまわず、活動を支える財政的支援や保健所や社会福祉協議会など専門性を持った人との連携といった人的な支援の仕組みも欠かせない」と話しています。