消費増税から1年 暮らしに変化は?

消費増税から1年 暮らしに変化は?
去年10月、消費税率が8%から10%に引き上げられて1年がたちました。軽減税率に、キャッシュレス決済のポイント還元。初めての取り組みもセットで導入され、大きな話題となりましたが、1年が過ぎて、私たちの暮らしにどんな変化をもたらしたのでしょうか?(経済部記者 新井俊毅 茂木里美)

敏感すぎる?

「消費税率の引き上げに、日本の消費者は他国と比べて、どうしても敏感に反応してしまう」ーーー財務省の担当になって、まだ2か月の私が何度か耳にしたことばです。

振り返ると、消費税率を上げるたび、消費者には生活防衛の動きが広がって経済が冷え込んだことが、GDP・国内総生産からもうかがえます。

回復の途上で…

1年前の消費税率引き上げでも、やはり落ち込んだ消費。

ただ、キャッシュレス決済のポイント還元などの対策もあって、比較的早く立ち直りそうだという見方もありました。

小売業界の関係者からは「従来の消費税率引き上げと比べて、消費の戻りが早い。年明けから徐々に回復してきた」という実感も聞きました。

夏の東京オリンピック・パラリンピックに向けて、日本経済はさらに活気づくという期待を踏みつぶしたのが、新型コロナウイルスの感染拡大でした。

その影響は厚い雲のように日本経済を覆い、消費税の影響だけを見ることは難しくなってしまいました。

消費者の意識に変化?

ただ、消費増税に新型コロナの影響も加わった今、小売業界では、消費者の“節約志向”が高まっているという見方が広がっています。
いち早く対応に乗り出したのが、大手スーパーの「西友」。

9月上旬、食品や生活用品など765品目の値下げに踏み切りました。

値下げした主な品目の売り上げは、去年の同じ時期より20%程度伸びているということです。

大規模な値下げは、消費税率が引き上げられた去年10月以来。

足もとの業績は“巣ごもり消費”の効果で好調ながら、あえて値下げを決断したといいます。
荒木徹さん
「去年10月に非常に強まった節約志向はいったん弱まったが、コロナ禍でまた一層強くなった。消費者には、所得面での不安感が高まっていると感じる」
大規模な値下げは、これだけではありません。

ホームセンター大手の「カインズ」は、9月、掛け布団からコピー用紙まで幅広い分野で7200品目を一斉に値下げ。
「無印良品」は、秋冬モノの衣料品70点余りを順次、値下げしています。

食品や日用品は、ここ数年、人件費の上昇を背景に値上げのニュースを多く耳にしてきましたが、流れが変わろうとしているのかもしれません。

ただ、消費者の意識は必ずしも“節約一辺倒”というわけではないのかもしれません。

今回の取材でも「外出が制限される中、買い物が楽しみなので、節約はしていません」という声も聞かれました。

自宅で楽しむ商品が売れる“巣ごもり消費”が盛り上がっていますし、ある高級時計店では、需要の高まりを背景に、中古品の買い取り価格が過去最高の水準に高騰しているという話もあります。

国内の経済情勢を分析する政府関係者は「デフレに戻りそうかと言えば、その足音はまだ遠い。ただ、コロナによる消費の停滞が長期化すれば、警戒はしないといけない」と話します。

経済対策の指令塔である西村経済再生担当大臣は折に触れて、「絶対にデフレの状況に戻さないという決意のもとで取り組んでいく」と消費を下支えして、デフレへの逆回転を食い止める姿勢を示しています。

景色 様変わり

この1年で、はっきりと変化を実感するのが、コンビニなどの店内で飲食ができる「イートイン」のコーナーです。
酒類を除く飲食料品の税率は8%の軽減税率が適用される一方、外食と見なされるイートインでは10%。

調査会社の「エヌピーディー・ジャパン」が行った調査では、コンビニやスーパーのイートインの売り上げは、増税直前の去年7月から9月までの3か月間は、前の年に比べて20%余り増加しましたが、10月から12月までの3か月間は一気に8%減少。

さらに、ことし4月からの3か月間は、新型コロナウイルスの感染拡大で、イートインスペースの縮小や閉鎖が相次ぎ、マイナス45%に落ち込みました。

それまで、コンビニや食品スーパーの間では、イートインを近くの住民の「集会場」のようにして固定客をつかむ戦略を進めていました。
都内にある薬局を併設したローソンの店舗では、体操教室も開いて活性化を図ってきました。

しかし、ことし4月以降は、座席をわずか3つに減らし、イベントも休止を余儀なくされています。

店を訪れた女性客は「にぎわいがあって楽しい場所でしたが、今は寂しい」と話していました。

店と地域になんとか活気を取り戻したいーーーこの店舗では、10月から消毒などを徹底して、参加人数を絞ってイベントを再開することにしています。
金子大作さん
「イートインがコンビニへの来店の理由にもなっていたので、感染に注意を払いながら再開していきたい」

肝心の社会保障は?

そもそも、消費税率の引き上げによる増収分は、社会保障の充実に役立てられることになっています。

「全世代型の社会保障」への転換を目指し、幼児教育や保育の無償化などに充てられます。
消費税は、所得税や法人税と比べて景気による税収の変動が小さく、安定した財源とされてきました。

しかし、新型コロナウイルスの影響で、税収のもととなる消費は旅行や外食を中心に記録的な落ち込みに見舞われただけに、税収への影響が懸念されます。

新型コロナウイルスの影響で、生活が苦しい家庭や業績の悪化に苦しむ企業が多くなっています。

一方で、財源が苦しい中、この年末には、75歳以上の人たちの病院での窓口負担を一定所得以上に限って引き上げる具体的な仕組みについて、結論が出される見通しです。
税収のもととなる経済の再生を図りながら、膨らみ続ける社会保障費をいかに賄っていくかは、消費増税から1年を前に発足した菅新政権に立ちはだかる難題です。
経済部記者
新井 俊毅
平成17年入局
北見局・札幌局を経て経済部
現在財務省の取材を担当
経済部記者
茂木 里美
フリーペーパーの編集者を経てNHKに入局。
さいたま局、盛岡局を経て平成29年から経済部