【詳報】座間9人殺害裁判~弁護士と食い違う主張なぜ?~

【詳報】座間9人殺害裁判~弁護士と食い違う主張なぜ?~
「起訴状のとおり間違いありません」
証言台の前で白石隆浩被告は、はっきりとした声で起訴された内容を認めました。
一方、弁護士は「被害者は殺害されることに同意していて、承諾殺人の罪にとどまる」として、主張の食い違いが浮き彫りになりました。

神奈川県座間市のアパートで、15歳から26歳の女性ら9人の遺体が見つかった事件。被告がいま何を思っているのか、謎が深まる初公判となりました。
(座間9人殺害事件 取材班)

白石被告のツイート一覧

初公判で検察官は、被告がツイッターのアカウントを5つ開設していたと明らかにしました。
被告がツイートした内容です。
「忘れたい」

「死にたい」

「静かに死にたい」

「もう終わりにしたい」

「誰かきっかけになっていただけませんか?道具は全部そろっている」

「誰か一緒に死にたい」
また、『首吊り士』と名乗ったアカウントでは次のようなツイートをしていました。
「首吊りは苦しくない」

「本当に困っている方はご相談下さい」

「もしどうにもならなかったら言ってください。お力になります」
一方、「友人、家族などにこれから死にますと連絡を入れるのはNG。場所を特定される」など、周到な計画性がうかがえるツイートもありました。

12月の判決まで23回の審理が行われる今回の裁判。真相はどこまで明らかになるのでしょうか。

2年ぶりの被告

記者が法廷に入ったとき、白石被告はすでに入廷していました。
事件の1年後に接見して以来、2年ぶりとなる被告の髪は、肩のあたりまで伸びていました。

白いマスクに黒縁めがねをかけ、時折、天井を見るなどしていたものの、表情は落ち着いているように見えます。

午後1時半、ほぼ定刻どおりに裁判は始まりました。最初に行われるのが、名前や職業などを尋ねる「人定質問」です。

大きくはっきりとした声で

<人定質問>
ゆっくりとした足取りで証言台の前に向かった被告は、裁判長に質問されると、「白石隆浩」「無職です」とよく通る声で答えました。

<起訴状朗読>
続いての検察官による起訴状の朗読の際は、10分ほどの間、ひざを少し曲げて片足重心で立ち、首を横に傾けるなどして聞いていました。
<罪状認否>
次に行われたのが「罪状認否」。起訴された内容について、被告に直接尋ねます。

裁判長
「間違っている点やあなたの言い分があれば教えてください」

被告
「起訴状のとおり間違いありません」

裁判長
「18個の事実についてどうですか」

被告
「はい、いずれについても間違いありません」

被告は、人定質問のときと同じく、大きくはっきりとした声で、起訴された内容を認めました。

弁護士と食い違う主張なぜ?

被告が全面的に認めたのに対し、弁護士は違う意見を述べました。「犯行時に何らかの精神障害があり、心神喪失だったか、こう弱の状態だった」と刑事責任能力について争うとしました。

さらに「被害者は殺害されることを承諾していて、承諾殺人罪が成立する。財物についても、被告が取得することを承諾していて、犯罪は成立しない」と主張しました。

なぜ、異なる主張をしたのか。閉廷後、弁護士の1人が報道陣の取材に応じました。
弁護士
「開示された証拠を見て、弁護士としては承諾があったと判断しました。被告はそうではない考え方をしています。初公判を迎えるまでに一致すればよかったと思いますが、残念ながら違う主張をすることになりました」
弁護士の主張する「承諾殺人罪」は、同意を得たうえで相手を殺害することで、刑の重さは「6か月以上、7年以下の懲役または禁錮」です。

一方、被告が起訴されている「強盗殺人罪」は、「死刑または無期懲役」で大きな違いがあります。

弁護士は、被告にとって利益になることを法律の専門家として主張することになるので、違いが出たとみられています。

それでも弁護士と食い違う主張を行った被告が、いま何を思っているのか、謎が深まったと感じました。

検察冒頭陳述~女性のヒモになりたい

検察官の冒頭陳述では、事件までの経緯などが明らかにされました。
以下、要旨をまとめました。

<被告の経歴と犯行に至る経緯>
高校卒業後にスーパーマーケットやパチンコ店など職を転々とした被告は、事件2年前の平成27年、インターネットを利用して女性を風俗店などに紹介するスカウトの仕事を始めた。
事件の起きた平成29年、2月にスカウトに関係して職業安定法違反の罪で起訴され、その後、保釈を機に実家に戻り、父親と2人で暮らしながら、倉庫会社でのアルバイトに就いた。

この際、被告は「父親のもとを離れて働かずに楽して暮らしたい」「女性のヒモになりたい」と考え、スカウト時代の経験上「自殺願望のあるような女性なら言いなりにしやすいだろう」と考え、3月15日にツイッターのアカウントを開設した。
こうした女性を主なターゲットにしてやりとりを始め、自分にも自殺願望があるかのようなうそのツイートを掲載したり、女性らに「一緒に自殺しよう」と誘ったりした。

5月29日に職業安定法違反の罪で、執行猶予の付いた有罪判決を受け、倉庫会社でのアルバイトをやめた。

検察冒頭陳述~Aさん殺害で“味をしめる”

<最初の被害者Aさん>
8月上旬ごろにツイッターで自殺願望を表明していたAさんと知り合い、自殺を思いとどまらせた。

同居を持ちかけ、Aさんから預かった金で今回の犯行現場のアパートを借りた。

この際、Aさんのヒモになれそうもなければ、部屋でAさんの首をつって殺害しようと考え、あえてロフト付きの部屋にした。

いずれはAさんが自分から離れると感じたため、預かった金や所持金を奪う目的で殺害を決意した。

8月23日、Aさんの首を絞めて失神させ、性的暴行を加えて殺害し、金を奪った。被告は大金を手に入れたことなどに味をしめた。

この方法なら働かずに金を手に入れられ、性的な欲求も同時に満たせると考え、同様の犯行の継続を決意した。

検察冒頭陳述~共通の手口

<その後の犯行>
8月28日から10月23日にかけて、BさんからIさんまで8人を殺害した。検察官は、女性の被害者に対する共通の手口があったと述べました。

1 自殺願望を表明している女性をだまして会う約束を取り付け、アパートに誘い入れる。

2 女性が金づるになりそうか見極める。

3 金づるになりそうもなく、本気で自殺する気もないと判断するや、いきなり首を絞めて性的暴行を加える。

4 その後、首をつって殺害して金を奪い、証拠隠滅を行う。

動機は女性を失神させて性的暴行を加え、かつ、その所持金を奪うこと。

男性被害者のCさんを殺害した経緯は、CさんはもともとAさんとのつながりがあったことなどから、口封じと金を奪う目的で殺害した。

検察冒頭陳述~争点について

<争点に対する検察の主張>
裁判の争点について、検察官は、「被害者が殺害を真意にもとづいて承諾したかどうかが最大の争点だ。被告は一貫して目的にかなった行動をしていて、責任能力に問題はない。もっぱら自己の欲望を充足するための計画的犯行で、卑劣かつ残虐だ」と主張しました。

弁護士冒頭陳述~多面的に証拠検証を

<争点に対する弁護士の主張>
これに対する弁護士の主張。最初に触れたのは、自殺が相次いでいるという社会問題でした。

「日本では去年までの10年間で年に平均2万5000人が自殺で亡くなっている。毎日のようにどこかで自殺が起きている。自殺は社会問題で、今回の9人も自らの死を望む気持ちがあった」

<被害者は自分の意思>
そのうえで、被害者は自分たちの意思で現場アパートを訪れていたと強調しました。

「被告と死についてやりとりしたのは、時期や場所、方法など具体的なものだった。9人がアパートに行ったのは、強制したわけでも脅して誘拐したわけでもない。9人には殺害されることについての承諾があった」

<証拠検証を>
もう1つの争点の刑事責任能力については、「心神喪失もしくはこう弱の状態だった疑いがある。裁判所にあらためて精神鑑定を行うよう求めている」としたうえで、次のように述べました。

「9人にどんなことがあったのか、一人ひとりの関係者の証言や被告とやりとりしたSNSなど、それぞれの証拠を多面的に検証してほしい」

傍聴に来た人は

傍聴券を求めて裁判所に来た40代の女性は、こう話していました。
傍聴希望の女性
「被害に遭った人たちは『自分の気持ちを分かってもらえるかも』とか『寂しさを埋めてもらえるかも』と感じていたのかもしれない。被告にはいま思っていることをちゃんと述べてほしい」
今後の裁判では、被害者の同意があったのかどうかなど、被告がどのような言葉で説明するのか、注目したいと思います。