日銀短観 大企業製造業の景気判断 悪化に歯止めも厳しい水準

日銀短観 大企業製造業の景気判断 悪化に歯止めも厳しい水準
日銀が発表した短観=企業短期経済観測調査で、大企業製造業の景気判断を示す指数は、マイナス27ポイントと、過去2番目の大幅な落ち込みとなった前回の調査から7ポイント改善しました。悪化に歯止めはかかりましたが、新型コロナウイルスの影響で企業の景気判断は依然として厳しい水準が続いています。
日銀の短観は、国内の企業およそ9500社に、3か月ごとに景気の現状などを尋ねる調査で、景気が「良い」と答えた企業の割合から「悪い」と答えた企業の割合を差し引いた指数で景気を判断します。

今回の調査は8月下旬から9月末にかけて行われ、大企業製造業の指数はマイナス27ポイントとなり、リーマンショック直後に次ぐ過去2番目の大幅な落ち込みとなった前回から7ポイント改善しました。

業種ごとでは、世界的に需要が回復している「自動車」や「電気機械」が改善した一方、「生産用機械」は工作機械の受注の減少が続き、前回よりも悪化しました。

大企業製造業の景気判断が改善するのは、2017年12月以来、2年9か月ぶりで、悪化に歯止めはかかりましたが、景気判断は依然として厳しい水準が続いています。

また、前回の調査で過去最大の下げ幅を記録し、マイナス17ポイントに落ち込んでいた大企業の非製造業の景気判断は、5ポイント改善して、マイナス12ポイントでした。

先行きについては、大企業の製造業がマイナス17、非製造業がマイナス11と、いずれも改善を見込んでいますが、その幅は緩やかなものにとどまっています。

経済活動は徐々に再開していますが、感染の第2波への懸念など、先行きの不透明感から多くの企業が慎重な見方を示しています。

中小の製造業で雇用過剰感

今回の日銀短観では、企業の景気判断が低い水準にとどまっている影響が製造業の雇用情勢に波及していることがうかがえます。

従業員などの数について、「過剰」だという企業の割合から「不足」だという企業の割合を差し引いた指数は、中小企業の製造業でプラス14ポイントと、前回・6月の調査からさらに1ポイント上がりました。

新型コロナウイルスの影響による売り上げの減少や先行きの不透明さから、従業員の数が多すぎるという見方が増えていることを表しています。

一方、製造業の大企業はプラス6、中堅企業はプラス8と、いずれも前回よりはいくぶん過剰感は弱まりました。

加藤官房長官「経済動向を注視」

加藤官房長官は、午前の記者会見で、「新型コロナウイルス感染症の影響により、厳しい経済状況にはあるが、社会経済活動のレベルの引き上げが行われていく中で、各種施策が打たれていることも相まって、持ち直しの動きが見られる状況になっているのだろう。引き続き、内外の経済動向を注視しながら経済財政運営に万全を期していきたい」と述べました。

コロナで自動車部品工場は

新型コロナウイルスの影響で大きく落ち込んだ企業の生産活動には、持ち直しの動きが見えますが、感染の収束が見えず、先行きは不透明な状態が続いています。

宮城県丸森町にある自動車部品メーカーの工場では、エンジンに使うねじやボルトなどの金属部品を生産しています。

新型コロナウイルスの感染拡大によって自動車メーカーからの注文が減り、ことし5月から7月までの売り上げは、去年の同じ時期の3割近くにまで落ち込みました。

8月以降は、納入する自動車メーカーの中国やアメリカなどにある工場で生産が再開したため、売り上げは去年の8割近くにまで回復したということです。

これに伴って、先月まで設けていた臨時休業日も今月は設けずにすむ見通しですが、会社では感染が再び拡大し、受注が落ち込まないか懸念しています。

東北三之橋丸森工場の持木光記工場長は、「自動車の生産は夏くらいからかなり回復し始めているものの、経営的には厳しく、なんとかやっている状況です。感染が収まるには時間がかかるという前提で経営的な戦略や戦術を考えなければならない」と話していました。

感染拡大前水準に戻らない状況にも備える動き

新型コロナウイルスの影響で世界的に落ち込んだ自動車の販売は持ち直しつつありますが、部品メーカーの中には、“8割経済”ということばもある経済状態が当面、感染拡大前の水準に戻らない状況にも
備えようという動きが出始めています。

茨城県にある工場でエアバッグの部品などを生産している「昭芝製作所」は、ことし5月と6月の売り上げがいずれも去年の半分以下に落ち込みました。

一時は、週2回の休みを4回に増やさざるをえませんでした。

その後、各国の経済活動の再開に伴って受注も回復し、最近の売り上げは去年の9割近くまで持ち直しているということです。

ただ、こうした回復傾向は各国の経済対策に支えられている部分も大きく、この先も以前の水準まで戻るのか、確信を持てずにいます。

そこで、“8割経済”ということばもある経済規模が当面、感染拡大前の水準には戻らない状況にも備えようと動きはじめました。

金属部品を成形する生産工程では、一部のラインに導入しているロボットアームを、計画を前倒しして来年春までにすべての主要ラインに導入することにしました。

このロボットアームを使うと、4人で行っている工程が1人で済むようになります。

また、工場の中で部品を運ぶ自動走行車も導入して、効率化を急ぐことにしています。

三原寛人社長は「人々が通常の生活スタイルに戻れず、経済がしばらくはもとに戻らないことへの懸念が強い。来年度以降も売り上げの減少が見込まれる中、コスト競争力を上げていけるかがカギとなっていく」と話しています。

東京ディズニー 出演者などから切実な声

新型コロナウイルスの感染拡大による雇用への影響は続き、テーマパークで働く人たちからは「希望する仕事を続けたい」という切実な声が上がっています。

9月に東京ディズニーランドと東京ディズニーシーを運営するオリエンタルランドは、感染拡大の影響で業績が悪化したことから、正社員と嘱託社員を対象に冬のボーナスを7割削減することを決めました。

さらに契約社員など、非正規雇用で働くショーやパレードに出演するダンサーなどについては当面、本格的な再開が見込めないとして、今後の対応について3つの選択肢から選ぶよう求めています。

このうち非正規雇用の従業員が加入する労働組合や会社によりますと、出演者に示された選択肢は、
▽園内のほかの業務への配置転換か
▽80万円の「支援金」を受け取って退職する、
もしくは、
▽契約期間が終わるまで雇用は継続するものの、労働時間は短縮するという内容となっています。

労働組合には、これまでに本人や家族など、およそ80人から相談があり「ディズニーで踊ることが好きでしたし、これからも続けていきたい」とか「ダンサーの権利を喪失するというのは私にとって命を奪われるくらいの衝撃でした」などといった切実な声が、メールや電話で寄せられています。

労働組合は会社に対して、どの選択肢を選んだとしても、パレードなどが再開した際には優先的に出演者として雇用することなどを求める要求書を提出して団体交渉を行っています。

なのはなユニオンの鴨桃代委員長は「3つの選択肢は出演者の人たちにとって選べる提案ではない。あすにでも倒産する状況ではないと思うし、夢の国を作る花形として頑張ってきた人に対して、あまりにも乱暴で納得できない」と話しています。

出演者に対する選択肢の提示について、オリエンタルランドは「厳しい経営環境が続く中、より多くの従業員に、できるかぎり東京ディズニーリゾートに残っていただき、一緒にコロナ禍を乗り越えていきたいと考えていますが、出演者という職種の性質上、出演機会を提示できない責任を果たすことも必要と考え、今回の施策を実施しました」とコメントし、今後も事業を継続して、雇用の維持を図っていく考えを示しています。

専門家「娯楽業は制約受ける状況続く」

テーマパークの雇用問題に詳しい、みずほ総合研究所の嶋中由理子エコノミストは「緊急事態宣言が明けて、多くの企業は営業を再開しているが、ソーシャルディスタンスの確保など感染防止対策によって、稼働率が上げられない業種が一定程度出てきている。製造業などは比較的、売り上げの回復は早いとみているが、娯楽業は制約を受ける状況が続くため、今後、労働市場は二極化が進むのではないか」と指摘しています。

そのうえで嶋中さんは「現在の国の支援は全業種を対象に行っているが、今後は業種を絞った対策が求められる。例えば、経営への影響が長引く業種に絞った給付金の支給や、雇用調整助成金の拡充が考えられる。さらに中長期的には、希望する人に対して職業訓練の支援を強化し、柔軟にほかの業種に移れるよう促すことも求められる」と話しています。

日商 三村会頭「雇用調整助成金の特例措置延長を」

日銀が1日発表した短観について、日本商工会議所の三村会頭は1日の定例会見で、「指数はわずかに改善しているものの、レベルとしては低く、先行きについても期待できる内容とはなっていない」と指摘しました。

そのうえで、政府に対しては「中小企業が自助努力するのが第1だが、価値のある企業を存続させるためには、雇用調整助成金の特例措置の延長や、一時的でもよいので人手が余っている企業から不足している企業に労働力をシフトさせる政策を進めてほしい」として、中小企業対策のさらなる充実を求めました。