“知ってほしい” その投稿でつらくなる人がいる

“知ってほしい” その投稿でつらくなる人がいる
相次ぐ芸能人の訃報にSNS上では連日、さまざまな声が寄せられています。中には、残された家族に触れ、「なぜ自殺を」という言葉を投げかけるものもあります。
しかし、こうした反応を目にするとつらい気持ちになる人たちがいることを知っていますか。「自分が親にとっての命綱になれなかったのではないかとずっと責める気持ちがありました」。家族を自殺で亡くした人たちの声です。
(ネットワーク報道部記者 大窪奈緒子 出口拓実)

“自分を責めてしまう人がいることを知って”

「親の命綱になれなかった自分を責めてしまう子供もいる事を知ってもらえたら有難い」

SNSに、そう投稿したのは17歳の時に母親を自殺で亡くした俳優の高知東生さんです。投稿は多くの反響を呼びました。
高知さんの一連の投稿
「自死遺児の俺は『子供がいたのになんで?』と目にすることが一番辛い。それは俺自身が一番知りたかった事。愛されなかった子供とずっと信じていた。心を閉ざしている時は、周囲の人が良かれと思って何を言ってくれても届かなかった。俺も愛されていたと思えたのは55歳になった今年のこと」
高知さんの一連の投稿
「お袋は自死したけど、俺のことを最後まで大切に考えてくれ、愛してくれていたと今は信じている。例えそれが真実でなかったとしても、自死遺児の俺にとって自分が心からそう思えるようになったことで、自分を赦せた。親の命綱になれなかった自分を責めてしまう子供もいる事を知ってもらえたら有難い」
投稿の背景にはどのような気持ちがあったのでしょうか。高知さんに直接話を聞くと、「ひとごととは思えなかった」という言葉が返ってきました。
高知東生さん
「自分が親にとっての命綱になれなかったのではないかとずっと責める気持ちがありました。自分は愛されていなかったのかとか、自分がいなければ良かったのかという気持ちを心の中に閉まってモヤモヤをずっと抱えていたのです。自分自身は周囲の仲間に支えられ、その手助けの中で母親との関係を見つめ直すことができましたが、ひとごととは思えず、自分の今の気持ちを投稿しました」
高知さんは投稿の中で、周囲の人たちに向けてもメッセージを届けています。
「人は自分の頭で理解できない出来事に出会うと、何とか理解したいという作用が働いて想像で結論付けがちだけど、今の様な心が病みやすいネット時代は『理解できないけれどそっとしておこう』という練習を自分の頭にさせることも大切じゃないかな。残されたご家族の人生を最優先に考える練習とでもいうか」
高知東生さん
「原因を勝手に決めつけるような話が耳に入るとつらくなるのです。とにかく言えることは『そっとしておいてほしい』、これに尽きます。当事者が、自分なりに助けを求められるようになった時に助けてほしいのです」

広がる共感の声

ネット上では、同じような経験をしたという人たちの共感を呼び、多くのコメントが寄せられています。
「すごくわかります。私も父が自死しました。妻も子も父を留める理由にはならなかったんだな、と落ち込みました。でもそういうことではないんだと、最近は思うようにしてます」
「同じく自死遺児です。自分の存在がありながら『なんで?』という思いが強すぎて『自分のせいで』自死を選んだという思考になっていました。13年以上経ちいまだにその気持ちは拭えませんが、沢山苦しんでいただろうその気持ちを今は理解できます」
「共感する部分が沢山ある。『子供がいるのに…』『遺された子がかわいそう…』その言葉がどれだけ遺された側の傷をえぐるか」
「私も同じ経験しましたが同じ意見です。それに可哀想と言われる方が嫌でしたね。どんな思いがあって自死したのかは今も考えても誰にもわからないんです」

自分責めてしまう子どもたち 支援のヒントは

自分を責めてしまう子どもたちを周囲はどう支えればいいのか。そのヒントを教えてくれたのが親と死別した子どもの心のケアを長年行う「あしなが育英会」です。

病気や災害、自殺で親を亡くした高校生や大学生などに奨学金を貸与して経済的な支援を行っています。

ここで20年以上、小中学生を中心に支援に携わってきたのが、心のケア事業部の西田正弘部長です。
西田さんによると、自死遺児の多くが「なぜみずから死んだのか」「何が原因なのか」「どうして気付かなかったのか」「あのとき声をかけていれば止められたのか」と考え続け、親が死んだのは自分のせいではないかと責めてしまうと言います。
育英会が2001年に親を自殺で亡くした高校生に行ったアンケート調査では、回答した95人のうち3割が「親の死は自分のせいだ」と答えたほか、「遺された母親も死ぬのではないか」と考える子どもも3割に上りました。

さらに、世間体から親の自殺を話さないよう促されるケースもあり、心理的な負担はより大きいといいます。
「あしなが育英会」西田正弘部長
「自分を責めるだけでなく、周囲から『親が自死したと言ってはいけない』などと言われ、抑圧されてしまう子どももいます」

原因を臆測で語るのは一種の暴力

最近はネット上で自殺の原因を臆測で語るような投稿も見られます。

でも西田さんは、こうしたことばは、親を亡くした子どもにとっては一種の暴力にあたると指摘します。
「あしなが育英会」西田正弘部長
「子どもたちの話を聞くと、自死した親は、自分の状態や苦しさをギリギリまで抱えていて、家族に迷惑をかけたくなくて、悩みをひとりで抱えて死んでしまうことが多いようです。自死の理由について、たとえ遺書があったとしても、そこに書いてある言葉がすべてではないし、言葉で正確に伝えられる状態の人は少ないのではないでしょうか。家族やその本人でさえ、自死の原因について分からない中で、原因についての『見方』や『臆測』『解釈』が広がることは、一種の暴力のように感じる」
そして、いつもどおり見守ることが大切だといいます。
「あしなが育英会」西田正弘部長
「同じ経験や思いをもつ子どもたちどうしが集まり、痛みや感情をわかちあうことで、ゆっくりと少しずつ変わっていく姿を見てきました。ごく普通の元の生活どおりの関わりを通して、レッテルや偏見に当てはめずに過ごしていくことが大切なのだと気がつきました。気持ちをはき出すことができる当事者会などの情報を伝え続けることも大切です。自分のタイミングで当事者会などに参加できるよう社会が見守っていくことも必要なんです」

「そっとしておいてほしい」

さまざまな意見を簡単に発信できる環境が整う今、もしかしたら何気なく書き込んだ投稿が人を傷つけているのかもしれません。

取材のなかで話を聞かせてもらった高知さんのことばが心に残りました。
「『そっとしておいてほしい』、これに尽きます。当事者が、自分なりに助けを求められるようになった時に助けてほしいのです」
私たちはそのメッセージを心にとめなければいけないと感じました。

悩みを抱えている方へ 相談窓口の情報

厚生労働省は、悩みを抱えている人に対して、相談窓口の利用を呼びかけています。

厚生労働省のホームページでは、自治体などの電話相談の連絡先や、複数のNPO法人がSNS上で行っている相談窓口のQRコードなどを掲載しています。「厚生労働省 SNS」で検索できます。

厚生労働省のホームページ「まもろうよ こころ」https://www.mhlw.go.jp/mamorouyokokoro/
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