夢 諦める若者も「ヤングケアラー」

夢 諦める若者も「ヤングケアラー」
18歳未満で、大人が担うような介護や家族の世話にあたる子どもは「ヤングケアラー」と呼ばれています。
生活もままならず、学校生活や進路にも支障をきたす子も多いのが現実ですが、その実態はほとんどわかっていません。
「ヤングケアラー」が抱える悩みはどんなものなのか。ある高校生の1日に密着しました。
(「おはよう日本」ディレクター 岩井信行)

終わらない家事「1日が短い」

高校1年生の優輝君(仮名)は、母親と弟との3人暮らしです。

脳性まひの母親は、手足が自由に動かず、着替えや入浴も一人でできないため、小学生の頃から介護をしています。
夜8時ごろ、部活を終えて学校から帰ってきた優輝君がまず取りかかったのは、洗濯です。
夜9時すぎ、洗濯機を回している間に、食材の買い出しへ。
料理をして、夕食を食べたのは10時を回っていました。

この日、優輝君が寝たのは深夜0時半ごろでした。
優輝君
「1日が短く感じる。これが当たり前です」

高校生なのに…勉強も、好きなこともできない

母親は12年前に離婚、その後、体の状態は悪化しました。

介護保険など公的な支援も活用し、週に数回ヘルパーに来てもらっていますが、それだけでは足らないため家事の多くを優輝くんが担っています。

一家の生活は、生活保護と養育費が頼り。朝と昼のご飯は、手間のかからない菓子パンで済ませることがほとんど。
さらに、小学4年の弟が学校で必要なものを買いそろえるなど、親代わりに面倒を見ることもあります。

普通の15歳なら、高校生活をおう歌するはずですが、ほかの友達と同じように遊ぶ時間は持てず、家で勉強することもほとんどできません。

「友達には知られたくない…」

4月に入部したばかりのダンス部では、友達との自主練習に付き合えず、送ってもらった映像に合わせて一人公園で練習することもあるといいます。
優輝君
「頭の中を占めるのは『家事』『友達』『ダンス』『勉強』という順番。家事を一番優先しちゃっていますね。家事に自分の時間を奪われるのが嫌だというのは思います。友達には自分の家族のことは知られたくないので話していないです」

制度のはざまに陥る「ヤングケアラー」

15~29歳以下で家族の介護や世話をしている若者は全国で約21万人。(平成29年就業構造基本調査より)

15歳未満の人数は、統計もとられておらず、その実態は把握できていません。

今回取材した優輝君のケース以外にも、「親が仕事のため高齢の祖父母の介護」、「病気の“きょうだい”の介護」や介護以外にも、「アルコールなどの依存症、精神疾患などの家族のケア」など、さまざまなケースがあり、子どもへの負担は千差万別です。
しかし、十分な支援策が講じられていないのが現状で、背景には「家庭の中の事情に介入しづらい」という問題があります。

子どもとの接点が多い学校は、本人に悩みや不安を聞くことはできても、家庭内の事情に介入することはできず、行政も、ケアマネージャーなどを通して介護を受ける家族の情報は把握できても、家庭内の子どもの状況まで把握するのは難しいのが現状です。

また、「家族の世話が当たり前」と思っている子は、自分から「ヤングケアラー」だとは言わないことも多いと言われています。
成蹊大学教授で、若者の介護について研究を続けてきた澁谷智子さんは「ヤングケアラーは、制度のはざまに陥りやすい」と指摘したうえで、部活や勉強、将来の夢をあきらめざるを得ない子どもたちも多いと指摘しています。
成蹊大学 澁谷智子教授
「過度な負担を強いられた子どもたちが不登校になり、そして中退という道を選んでいくと、十分な賃金を得る仕事に就くのが難しくなる時もある。このまま放置しておけば、その子たちに不利さがたまっていき、これ以上頑張れないとなった時に、今度は彼らにケアが必要な状況になってしまう」

同じ体験した“先輩”が支える

行政の支援がなかなか整備されない中、「自分たちの力でなんとかしよう」と立ち上がったのが、かつて自身も「ヤングケアラー」だった経験者たちです。

介護に悩む若者が書き込むチャットページには、悲痛な声が多数書き込まれます。
「お母さんがいる限り我が家は普通の生活は無理」
「もう疲れました」

このページを立ち上げた宮崎成悟さんも難病にかかった母親の介護を16歳から始めた「ヤングケアラー」の経験者です。

「誰にも相談できず孤独でつらかった」という自らの体験から、オンライン上で交流できる当事者同士のネットワークを作ろうと考えました。
宮崎成悟さん
「同じ屋根の下に暮らしていると、家族との距離が測りづらくなってしまう。先輩たちに悩みを話して、それに対して先輩からアドバイスをもらって、というやり取りの中で自分の状況を客観的に把握していくことが、若い人にとっては大事だと思う」
宮崎さんが月に1度開くオンラインでの悩み相談会では、参加者たちが、自分では抱えきれない悩みを打ち明けます。

この日初めて参加した高校2年の女子は、母親が精神的に不安定なため、毎日話し相手になったり、日常の世話や家事をしたりしてきました。

ところが周りからは、いつも母親といて「親離れできないのか」と言われたそうです。
母親の世話をする高校2年の女子
「『あなたがお母さんに依存しているんじゃないの』と言われてとても困りました。みなさんはそんな経験ありますか?」
悩みに答えてくれるのは、自身もかつて「ヤングケアラー」だった先輩たちです。
元「ヤングケアラー」の女性(23・会社員)
「私も同じ事を言われた事がある。高校生にもなってお母さんと一緒にいたいと思われていたら、恥ずかしいから、『そんな事ないです』と言っていたけど、『家族だから当たり前』と思ってやってきたことを周りからわかってもらえないのはつらいよね」
元「ヤングケアラー」の男性(26・会社員)
「状況を変えることも大事だと思う。自分のやりたいことをやるために、ケアに使っていた時間や役割を第三者につなげることで助けてもらうことは悪いことじゃない。自分に自信を持つために自分の時間を持つことも必要だと思うよ」

“「ケアラー」をポジティブに”

介護をする中高生がいずれぶつかるのは、就職の壁です。宮崎さんはいま、そうした若者の就労支援にも力を入れています。
2月に始まったこの取り組み、実際につながった数はまだ少ないですが、今後、介護に理解のある会社を見つけ出し、家族の介護や世話をしていても気がねなく働ける就労先につないでいきたいと考えています。
宮崎成悟さん
「介護の経験は、絶対に仕事に生きると思うので、そのノウハウを伝えていきたい。『ケアラー』という言葉が、“ワーママ”や“イクメン”と同じように、ポジティブな印象を持って受け入れられて、介護を抱えていても負い目を感じずに働けるような社会になっていってほしい」

自治体も動き始めた

国に先駆けて自治体も動き始めました。

埼玉県は今年3月に、「ケアラー支援条例」を制定し、「ヤングケアラー」を支援する人材を育成するなど具体的な施策を進めるとしています。

さらに、すべての高校2年生にアンケートによる実態調査を行っていて、10月に公表予定ということです。

苦しい状況を抱え込んでいるにもかかわらず、声を上げられない子どもたちが私たちの身近にもいるかもしれません。

公的な支援の仕組み作りはもちろん必要ですが、周りの大人に何ができるのか、一人一人が考えていくことも大切なのではないかと感じました。
「おはよう日本」ディレクター
岩井信行
2012年入局。
大阪局、沖縄局、さいたま局を経て、現所属。
「子ども」をテーマに取材。