地価調査 コロナ影響 で「下落」 一部テレワークで「上昇」も

地価調査 コロナ影響 で「下落」 一部テレワークで「上昇」も
ことしの都道府県地価調査では新型コロナウイルスの影響による経済の落ち込みや外国人観光客の減少などによって全国平均では「商業地」は下落に転じ「住宅地」は下落幅が拡大しました。

その一方で外出自粛やテレワークなどへの対応で東京23区や長野県の別荘地など、需要が高まって地価が上昇するところもあり、新型コロナウイルスの影響が下落と上昇の双方に現れる結果となっています。

都内の観光地 地価下落

今回の地価調査で新型コロナウイルスの影響を大きく受けたのが商業地です。

訪日外国人が多く訪れていた都内の観光地も、ホテルや店舗の収益性が低下し、地価が下落しました。

このうち、▽東京 台東区浅草は去年は34.5%と大幅な上昇でしたが、ことしはマイナス0.5%と下落に転じました。

また、▽東京 新宿区歌舞伎町の飲食店や店舗のある地域も、去年のプラス17.2%から一転してマイナス5.0%となりました。

▽東京 中央区銀座の飲食店が立ち並ぶ繁華街も、去年はプラス7%でしたがことしはマイナス5.9%と、都内の商業地では最も大きく下落しました。

観光客が激減 東京 浅草では

東京を中心とした都市部の地価の上昇幅が縮小する中、都内有数の観光地 浅草では、地価が下落に転じるところもあり新型コロナウイルスの影響がすでに深刻になっている実態が見えてきました。

浅草周辺の120のホテルなどをNHKが調べたところ、少なくともおよそ4分の1が休業や廃業になっていることがわかりました。

近年、外国人旅行者が急増してきた東京 浅草では東京オリンピックも見据えて新たなホテルや旅館が相次いで開業し、去年9月の地価は東京 台東区浅草1丁目周辺で前年と比べて34.5%上昇と東京23区で上昇率が最も高くなりました。

しかし、新型コロナウイルスの影響で観光客が激減し、ことしの地価は去年上昇率が最も高かった地点でも下落に転じるなど一変しました。

NHKが台東区浅草地区と雷門地区のホテルや旅館などのうち、ことし3月時点で営業許可を受けている120について取材したところ、少なくともおよそ4分の1にあたる29の宿泊施設が新型コロナウイルスの影響で経営が厳しくなったとして休業や廃業になっていることがわかりました。

浅草観光連盟の冨士滋美会長は「新型コロナウイルスで休廃業しているという話があちこちから聞こえてくるようになり、深刻な影響と受け止めている。近年のインバウンド需要に加えて東京オリンピックを見据えたホテルの建設が少し過剰になっていた印象がある。今後、感染対策とともにどう立て直していくか検討していく必要がある」と話していました。

大阪の商業地ミナミと梅田が逆転

新型コロナウイルスの感染拡大によって外国人旅行者が来なくなった影響で、大阪の商業地では、2年連続でトップだったミナミのビルの地価が下落し、梅田のビルが3年ぶりに首位に返り咲きました。

去年まで2年連続で大阪の地価トップだったミナミの道頓堀にある「住友商事心斎橋ビル」は、今回、4.5%下落して、1平方メートルあたり2330万円となりました。

ミナミの地価はインバウンド需要で高値が続き、このビルの地価は去年は前の年から45%も上昇しましたが、今回は、インバウンド需要の激減が地価にあらわれた形です。

一方、最も地価が高かったのは大阪・梅田にある「グランフロント大阪 南館」で8.8%上昇して、1平方メートルあたり2360万円でした。

2年連続の2位から今回、3年ぶりに首位に返り咲きました。

商業地最大の下落率 奥飛騨温泉郷では

9.3%の落ち込みを記録し全国の商業地で最大の下落率となった岐阜県高山市の奥飛騨温泉郷では、国内からの個人旅行客に期待する声が上がっています。

奥飛騨温泉郷にあるバスセンターは、高山市の中心部や東京、長野などを結ぶ中継地点になっています。

新型コロナウイルスの感染が拡大する前のことし1月ごろまでは、乗り継ぎや休憩のために多くの外国人観光客や国内の団体旅行客が訪れていました。

バスセンターに併設された商業施設「アルプス街道平湯」には飲食店や土産物店があります。客のおよそ6割を外国人観光客が占めていましたが、ことし2月から利用がほとんどなくなっています。

現在の売り上げは去年の同じ時期と比べて飲食店では1割、土産物店では3割にとどまっているということです。

一方、国内からの個人旅行客はやや回復していることから、土産物店は、「高山ラーメン」や「飛騨牛のレトルトカレー」、それに地酒などを国内からの観光客に売り込もうと店の目立つ場所に並べる工夫をしていますが、まだ売り上げには直結していないということです。

「アルプス街道平湯」の松本修一支配人は「感染拡大の前までは、香港や台湾などから多い時には1日に400人の客が来て食事や買い物をしていましたがそれが『ゼロ』になってしまいました。インバウンドに頼ってきましたが、今は国内の個人客しか動いていないので、店作りを工夫しています。少しでも多くの人に来てほしいです」と話していました。

奥飛騨温泉郷観光協会の扇田昌幸常務理事は「ことし2月から外国人観光客がいなくなり、国内の客も少なく影響は深刻になっている。特にこれからの冬の時期は、雪を見ようと訪れていたアジアからの観光客がいないので、日本のお客さんに来てもらえるようPRしたい」と話していました。

別荘地など需要高まり地価上昇のところも

首都圏からアクセスがよい人気のリゾート地、長野県軽井沢町では、新型コロナウイルスの影響によるテレワークの普及などで別荘地の需要が高まり、住宅地の6つの調査地点のうち4地点で地価が上昇しました。

このうち、JR軽井沢駅から車で5分ほどの別荘地の一角、軽井沢長倉往還南原は6.9%上昇し、長野県内で最も高い上昇率となりました。
上昇の幅も去年より2ポイント以上拡大しています。

軽井沢町の別荘地は、首都圏から新幹線でおよそ1時間と利便性が高いうえ、夏は涼しく、冬はスキーも楽しめる県内有数のリゾート地です。

新型コロナウイルスの影響で富裕層だけでなくサラリーマンなどの層にもテレワークをしながら人口が密集する都市部を離れて生活したいという需要が高まり、町内の不動産会社によりますと、緊急事態宣言の解除後は別荘の購入件数が例年のおよそ3倍に急増しているということです。

また、スキーリゾートなどで外国人にも人気の長野県白馬村では新型コロナウイルスの影響で外国人観光客などが減少しているにもかかわらず商業地の調査地点2地点でいずれも地価が上昇しました。

このうち、村の中心部で飲食店やペンションなどが建ち並ぶ白馬村北城新田では、去年より30.3%上昇し、全国で4番目に高い上昇率となりました。

新型ウイルスの影響で外国人観光客などは減少しているものの、新たにペンションが建つなど、いわゆるアフターコロナを見据えた外国人などの投資目的での不動産需要が堅調なことが要因とみられています。

また、軽井沢町と同じく、人口密集地を避けるための別荘の需要なども要因の1つとみられ、地元の不動産会社などによりますと貸し別荘の利用やテレワーク用の設備を整えたマンションタイプの別荘などへの関心も高まっているといいます。

住宅地 東京23区は1.4%上昇

住宅地の地価は全国の42の道府県で下落しましたが、東京23区は1.4%上昇しました。

住宅メーカーの間では、通勤やテレワークに便利な都心部を中心に戸建て住宅の販売が6月以降、去年の同じ月を上回る企業が相次いでいます。

このうち東京都心を中心に戸建て住宅を販売している「オープンハウス」は、7月の販売件数が、去年の同じ月と比べておよそ50%増加しました。

会社では、新型コロナウイルスの影響で自宅で過ごす時間が増えたため、マンションに比べて周囲の音が気にならず、仕事用のスペースを確保しやすい戸建て住宅の需要が高まっているとみています。

ショールームを訪れた都内の30代の男性は、「子どもが生まれるので、家を建てたいと思って来ました。コロナの影響で家で仕事をする機会も増えたので、ちゃんと仕事ができるスペースがあればいいと思う」と話していました。

ことし6月、東京 荒川区に住宅を購入して、今月、引っ越したばかりの原田雄二さんと妻のななみさんは感染のリスクを減らすため、職場に近い場所で住宅を探したといいます。

原田さんは「テレワークはしていますが、出勤もしなければならないので、郊外だと通勤時間が長くなると思い、アクセス面や利便性から都心の戸建てを選びました」と話していました。

オープンハウスの矢頭肇 営業推進部長は「テレワークの増加が、戸建て販売にとても追い風になっている。一方で、夫婦そろって完全にテレワークになるケースは多くないので、出勤する際にアクセスがよい都心の住宅のニーズは今後も高いと思う」と分析しています。

工業地 幹線道路にアクセスしやすい地域など値上がり

工業地では、ネット通販の拡大などで物流施設の需要が高まる中、幹線道路にアクセスしやすい地域などが値上がりしています。

住宅大手の「大和ハウス工業」がおととし、埼玉県川口市につくった物流センターには、大手のネット通販や食品関連の企業がテナントとして入居しています。

高速道路のインターチェンジに近く、配送や通勤に便利なことからほかの企業の物流施設も集積しています。

いわゆる「巣ごもり消費」でネット通販の利用が増えていることに加え、メーカーなどが部品や製品などを備蓄したいというニーズもあり、物流施設の需要は高まっています。

このため、会社では、ことし6月に経営計画を見直し、物流施設への投資費用を従来の計画よりも3000億円、率にして85%増やしました。

大和ハウス工業の井上一樹Dプロジェクト推進室長は、「物流業界は競合も多く新規参入もあり、今後も旺盛な投資が見込まれる。まだ施設を展開できていない地域にも積極的に投資していきたい」と話しています。

専門家「新型コロナウイルス影響を実感」

今回の調査結果について、不動産の調査会社「東京カンテイ」の井出武上席主任研究員は、「観光業や外食産業に依存したエリアでは、下落率が大きく、あまり影響がないと予想されていた住宅地でも下がり、新型コロナウイルスの影響を改めて実感した」と指摘しました。

そのうえで「都心部ではマンションが高額なので、狭くても都心で価格が安定している戸建てを選ぶ動きが出ていて、今回の地価に居住地を郊外へ移す動きは出ていない。今後、テレワークがどの程度定着するかなど、ウイルスの収束の度合いと密接に関連するので、住宅の借り替えや買い替えで郊外へ移る動きが出てくるのはもう少し、先ではないか。今は買い物のしやすさや生活のしやすさなどで、逆に都市の優位性が発揮されている面がある」と分析しました。

工業地については、「ここ数年で、物流施設は多く建設されてきたが、コロナ禍の巣ごもり消費で、一層ニーズが高まっているので、今後も伸びしろがあるのではないか」と話しました。

今後の地価の見通しについては、「観光に強く依存した地域は、国内だけの需要では回復しない可能性があると思う。今後の影響を注視していきたい」と話していました。