地方銀行の数が多すぎる? ~地銀再編の行方~

地方銀行の数が多すぎる? ~地銀再編の行方~
地方銀行の再編がにわかに注目を集めている。きっかけは、菅総理大臣が自民党総裁選挙への立候補を表明した直後に発した次の発言だ。
「将来的には、(地銀の)数が多すぎるのではないかと思う」
なぜ菅総理大臣は、地銀の再編の必要性に言及したのか。そして、実際に再編は起きるのか。関係者の言葉からその行方を探った。(経済部記者 白石明大)

2度にわたる発言

最初にその言葉が飛び出したのは9月2日、自民党総裁選挙への立候補を表明した記者会見だった。そのときの記者の質問はこうだ。
記者
「日本銀行の異次元の金融緩和をこのまま続けていくと地方金融機関を中心に様々な弊害が出ていると思うが、この金融政策どこまで続けていくのか」
これに対して当時官房長官だった菅氏は、次のように答えた。
菅官房長官(当時)
「今の状況の中で、やはり雇用を守り企業を存続させていく。そのために政府としては状況を見て必要であればそこはしっかり金融対策をさらに進めていきたい。
それと地方の銀行については、数が多すぎるという話をさせていただきました。企業が今このような状況の中で、金融は企業の皆さんを支えるためには必要だというふうに思っていますが、将来的には数が多すぎるのではないかというふうに思っています」
質問の趣旨からやや外れて、わざわざ地銀の数について言及したのだ。

翌3日の官房長官会見で、発言の真意を問われた菅氏は再び次のように発言した。
菅官房長官(当時
「地方銀行は、人口減少の中で経営環境も厳しく、みずから経営改革を進めて経営基盤を強化し、地域に貢献していく必要がある。個々の銀行の経営判断の話になるが、再編も1つの選択肢になるという趣旨を申し上げた」

広がる波紋

2度にわたる発言で、地方銀行の関係者の間には動揺が広がった。ある地方銀行の幹部は、取材に次のように話した。
地方銀行幹部
「我々のような弱小銀行にとって、メリットが少ない再編はしたくない。ただ総理大臣が地銀再編に関心を持っている以上、国からそれを迫られた場合にそれが断ることができるのか、対応は考える必要がある」
地銀を指導・監督する立場の金融庁の関係者も「少しびっくりした」と驚きを隠さない。

地銀の数は多いのか

そもそも地方銀行の数は多いのだろうか。

預金保険機構によると国内には現在、比較的規模の大きい「第一地銀」と、規模の小さい「第二地銀」合わせて102の地銀がある。おおむね1つの県に2つ、最も多い福岡県は5つだ。
バブル経済が崩壊する前まで13前後あった大手銀行は、合従連衡が進み大きく4つの銀行に再編された。

その一方で、地銀の数はこの30年で2割しか減っていない。減った理由もバブル崩壊による破綻や、救済のための合併といったケースがほとんどだ。

また、減った地方銀行のほとんどが「第二地銀」で、「第一地銀」の数は64行のまま維持されてきた。

こうした現状に、アメリカやドイツと比べれば数としては決して多くはないという意見もある一方で、専門家の間では人口減少が進み、地域の会社の廃業・倒産で企業の数が減っていく中では、多すぎるという指摘も多い。

地銀取り巻く厳しい経営環境

地銀を取り巻く経営環境も厳しさを増している。

金融庁が令和2年3月期の102行の地方銀行の決算をまとめたところ、純利益の合計は前年より10%余り減少した。

地方銀行はこれまで預金で集めたお金を企業などに融資し、その利ざやで稼ぐというのが主なビジネスモデルだった。しかし、長引く低金利で融資の利ざやが縮小し本業で収益をあげにくくなっているのだ。

そこに新型コロナウイルスが追い打ちをかけ、ことし6月までの3か月間の足元の決算は、上場している地方銀行の6割が減益となり、福島銀行とみちのく銀行は最終赤字になった。

金融庁の危機感

こうした地銀をとりまく現状に対する金融庁の危機感は強い。

地銀の現状について金融庁の関係者は次のように話す。
金融庁関係者
「昔ながらの預金を集めて企業に貸し出しするだけでお金が儲かるという、何十年も続いてきた銀行のビジネスモデルが成立しなくなった。このままだと潰れてしまう銀行も出てくるような状況なのに、まだ同じようなことをやっている銀行がたくさんある」
金融庁は、地銀の経営統合は最終的には経営者の判断だとしながらも、再編が進みやすいような環境整備を進めてきた。

再編のハードルが下がる?

その1つが、11月27日に施行される独占禁止法の特例法だ。

この法律は、地方銀行や路線バス事業者が経営統合する際、仮に地域でのシェアが高くなっても、一定の条件を満たせば、独占禁止法の適用を除外するものだ。
この法律が出来たきっかけの1つが、ふくおかフィナンシャルグループと長崎県の十八銀行の経営統合だ。

公正取引委員会が長崎県の貸し出しシェアが7割にも及ぶことを問題視して審査は難航。地方金融機関の再編を進めたい金融庁と私的独占を排除したい公正取引委員会が対立し、実際の統合は当初の計画より2年遅れることになった。

関係者によると菅総理大臣は、官房長官時代にこの特例法の調整に関わり、地方銀行の再編に関心を持ったとされる。

何のために再編するのか

菅総理大臣の発言と再編のハードルを下げる法律の施行で、地銀の再編の機運は高まっているように見える。

しかし、そもそもなぜ、そして何のために再編が必要なのか。

地域金融に詳しい「地域の魅力研究所」の多胡秀人代表理事は、新型コロナウイルスの感染拡大で地域経済の厳しさが増す中、再編ありきの議論に警鐘を鳴らしている。
多胡秀人代表理事
「地方銀行がまず今やるべきことは、50年や100年に1回のパンデミックで苦しむ地元の顧客への支援だ。銀行が一丸となって企業の資金繰り支援や事業者とともに知恵を出すことに取り組むべきときで、それをやりながら膨大なコスト、時間も人もとられる合併や経営統合にリソースが割ける状況ではない」
そのうえで再編は、「顧客のためになるかどうか」という視点が最も重要だと指摘する。
多胡秀人代表理事
「新しい政権になったからといって、今すぐ地銀の経営統合が起こるかといえば、経営者はそういう選択肢はとらないのではないか。企業支援を先送りすれば、地元の顧客から銀行が見捨てられる。
一方で、少し時間がたってから、地域のお客様を支えるための資本が足りないということになれば、選択肢の1つとして、合併や経営統合を選択するということは考えられる。(再編は)お客のためになるかどうか、ここにつきると思う」

地銀のあるべき姿

地方経済は人口減少などで厳しさが増していたところに、新型コロナウイルスによって深刻な打撃を受けている。その地方が元気を取り戻すには、地元に根ざして消費者や中小企業などを支える存在でもある地銀の経営が安定していなければならないのは言うまでもない。
ただ、再編によって銀行だけ経営基盤を強化したとしても、それは「疲弊する地方経済を活性化する」という本来の目的を達成したことにはならない。

地銀の経営基盤を強化するのと同時に、銀行の取引先の企業も元気にしていくことが必要だ。お金を借りる企業が減ってしまえば、地銀の経営そのものが成り立たなくなるからだ。

地銀の側には地域の企業ときちんと向き合い、産業の育成や底上げを図ること、政府の側も地域に根ざす企業の経営が持続可能なものになるような政策を同時に取り組むことも必要だ。
経済部記者
白石明大
平成27年入局
鉄鋼や化学業界担当を経て、ことし9月から金融庁や地方銀行を取材