ルーツは寺子屋?学校の掃除

ルーツは寺子屋?学校の掃除
ほうきやちりとり、それにぞうきん。多くの人が小中学校時代に一度は経験したことがある学校の掃除。海外では、専門の業者などが行う国もありますが、なぜ日本では子どもたちが行っているのでしょうか。新型コロナウイルスの広がりもあっていまネット上で議論となっています。
(ネットワーク報道部記者 目見田健 秋元宏美 高杉北斗)

掃除をめぐって激論

「学校教育の掃除時間、マジで掃除機を導入しませんか?1日の勤務時間がパツパツで、給食時間も休憩時間も余裕なし。」

こうツイートした九州の中学校で働く30代の教員に話を聞くことができました。
真由子さん
「学校では業務が増えることはあっても減ることはありません。新型コロナウイルスの影響で放課後に教室やトイレの消毒の業務も増え、教員はさらに多忙になっています」
この教員は、時間が限られる中で「今よりも効率的に業務を進めるためにはもう掃除の時間の見直しくらいしかない」と感じているそうです。

コロナ禍で一部の学校で、子どもたちによる掃除を縮小したり一時中止したりする動きも出る中、このつぶやきをきっかけに子どもが掃除を行う意味やその必要性について、保護者などからも多くの意見が出ています。
「掃除ロボットでよくないですか」

「掃除の業者を雇えばいいのに・・・」


「ほうき、ちりとりの正しい使い方は1度は学んでほしい」


「みんなで行うことによって責任感や協調性が身につき主体的になるというのが狙いなのでは」

学校掃除 日本だけ?海外では?

日本では一般的な日々の学校掃除。海外ではどうなのでしょうか?
国立教育政策研究所が出した2017年の報告書によりますと、研究当時、日本、アメリカ、中国など8か国の中で、子どもが学校の掃除を行っている国は日本と中国、それに韓国の3か国でした。

それ以外のアメリカやイギリスなどの国では守衛や掃除専門のスタッフが行っていました。

このうちシンガポールでは、身のまわりをきれいに保つ心構えを身につけてもらおうと、日本を参考にその後、すべての公立小中学校で、子どもたちによる掃除が取り入れられました。

文科省に聞いてみた

そもそも、なぜ日本では子どもたちが毎日、小中学校の掃除をしているのでしょうか?文部科学省の担当者に話を聞いたところ、意外な答えが返ってきました。
「実は毎日の掃除に関しては明確な根拠はないんです」
えっ明確な根拠がない・・。
さらに聞いてみると文科省が定めている学校カリキュラムの基準、「学習指導要領」を解説するページに、少しだけ記述があるだけだそうです。
「清掃などの当番活動や係活動等の自己の役割を自覚して協働することの意義を理解し、社会の一員として役割を果たすために必要となることについて主体的に考えて行動すること」。

つまり、学校をきれいにするのが目的ではなく、あくまで社会性を身につけてもらうのが狙いなんです。

さらに、担当者は「日常の掃除を義務づけるものではないです」と話していて、学習指導要領では学校の掃除を毎日のように行うことは求めていないというのです。

明治時代に学校が設置されてから、子どもたちによる掃除がいつどのように始まったかについては、文科省でもわからないということでした。

ルーツは寺子屋?

謎は深まるばかりですが・・。
学校の掃除に詳しい東京電機大学の山本宏樹准教授によると始まりは仏教や神道の修行に関係するのではないかということです。
たとえば、仏教では一心に掃除をして悟りを開いたというおしゃか様の弟子・周利槃特の逸話が知られています。

特に禅宗で修行に取り入れられていたことから、掃除によって人格を高めるという考え方が日本人に根づいたのではないかと指摘しています。

江戸時代には、読み書きを教わる寺子屋でも、子どもたちによる掃除が広まったといいます。

明治時代に入って、学校が設置された当初は、教職員が掃除を行っていた学校もあったそうですが、寺子屋で掃除が行われていたこともあって子どもたちにさせる学校が多く、やがてそれが慣習化されていったそうです。
戦後は当時の文部省から「学校における清掃の指導訓練は、衛生教育の一環として系統的に実施される」ことが示され、その後の学習指導要領で「教室内外の整とんや美化」の必要性があげられましたが、教科などと異なり子どもに毎日、必ず掃除をさせるといった具体的な決まりは、現在までありません。

山本准教授は「子どもが主体の学校掃除は、人手が足りない中、学校の裁量で行われてきた部分が大きい」と話しています。寺子屋などで広まった慣習がきょうまで脈々と続いてきたというのが実態のようです。

無言!ルンバも!?

小学生の頃、掃除の時間に雑巾を投げ合い友だちと騒いで怒られたという人もいるかもしれませんが、取材を進めると「無言清掃」という聞き慣れない習慣があると耳にしました。
調べてみると福井県永平寺町の永平寺中学校では、掃除の時間は声を発しない「無言清掃」を行っています。礼を重んじるための大切な習慣と位置づけているからです。

全校生徒が参加する15分の掃除の時間は私語は厳禁。乾いた雑巾を使って校内をくまなく拭きます。

30年以上前に荒れた学校を立て直そうと導入したのが始まりで、生徒からは「心が落ち着く」といった声が聞かれるといいます。
永平寺中学校の担当者
「無言で掃除をすることが目的ではなく、1日のうち15分間だけでもいいので、静かな心で自分自身と向き合い感謝の心や心地よさを感じてもらうのが目的です」
このほか、長野県の小中学校でも「無言清掃」が浸透しています。
一方で、効率的な掃除にかじを切った学校も。

福島県葛尾村では原発事故の影響で、子どもの数が大幅に減少し教室などの掃除の負担軽減が課題となっていました。このため村内の小中学校ではお掃除ロボットが活用されています。

ただ、掃除をすることの意義を理解してもらおうと、自分たちが使う教室は子どもたちが掃除しています。

コロナ禍の注意点

脈々と続いてきた学校の掃除。気になるのは、コロナ禍での掃除のあり方です。どんな点に気をつければよいのでしょうか。

文科省は、新型コロナウイルスに対応するため学校での衛生管理マニュアルをことし5月に作成しました。
作成に携わった川崎市健康安全研究所の岡部信彦所長は、子どもたちによる学校での掃除は地域で大きく流行していないことや、校内で感染者が出ていないことが前提だとした上で、「ふだんの掃除で気をつけていることをしっかり守っていくことが大切です」と話しています。

掃除は子どもたちが共同作業で行っているため、
1 しっかり換気をする。
2 マスクを着ける。
3 掃除が終わったあとは必ずせっけんを使って手洗いする。

この3点を守ってほしいということです。
そして、子どもたちが掃除で消毒剤を使うことについては、消毒剤を吸い込むおそれもあることなどから、推奨はしていないといいます。
岡部所長
「もし学校で感染者が出た場合は消毒が必要になってくるので、保健所と連携して対処して欲しい」

目的・狙いがあいまいでは?

子どもたちによる学校掃除については、専門家からもさまざまな意見が出ています。

「不思議な慣習だと思います」
学校の業務改善アドバイザーで教育研究家の妹尾昌俊さんは学校の掃除について疑問を感じているといいます。
「サッカーの試合のあと日本人サポーターがゴミ拾いをしている光景が海外から称賛されるなど街なかにゴミが少ないことは清掃指導の効果かもしれません。だからといって毎日・強制的に子どもたちに掃除をさせる必要があるのでしょうか」
さらに妹尾さんは掃除の目的や狙いがあいまいだと指摘しています。

「きれいにするのが狙いなら、ほうきとちりとりではなく掃除機を使えばいいですし、業者を雇ってもいい。子どもたちの心の教育が狙いなら毎日やることは疑問で、家庭科や道徳の授業の一部で行えばよいと思います。毎日、掃除をする効果がどれほど出ているのか検証もなされないまま、なんとなく続けるのは疑問です」と話しています。

教育的活動としては賛成

東京電機大学の山本准教授は「最新の清掃技術を導入する必要はありますが、役割分担などを子どもたちが自ら考え、自分たちの身の回りをきれいにするという教育的活動としての掃除は賛成です」と話しています。
掃除を全国一律で行ったりやめたりする必要はなく各学校で状況に応じて話し合って計画することが重要で、必要に応じて追加の財政支出もすべきだとしています。

一方で、山本准教授は他の国のように業者などが掃除を行うことについては、必要に応じて活用すべきだが、全面的に委託することには反対だといいます。
山本准教授
「掃除は誰かがするものという考えを子どもたちが持つ可能性があります。自らの体験を通して掃除の大変さを知ることで、掃除をする人の立場にたって物事を考えることができるようになると思います」
子どもたちによる学校の掃除、あなたは、どう思いますか?