新型コロナ 国の貸し付け107万件余 リーマン後3年間の5倍以上

新型コロナ 国の貸し付け107万件余 リーマン後3年間の5倍以上
新型コロナウイルスの影響で収入が減少した人が、当面の生活費を借りることができる国の制度で、ことし3月からの貸し付け件数は107万件余りに上ることがわかりました。リーマンショック後の3年間の貸し付け件数の5倍以上となっていて、厚生労働省は「生活や命を守るために引き続き迅速な支援を行っていきたい」としています。

支給決定は107万件超 金額で3524億円余

生活に困った人が当面の生活費を借りることができる「緊急小口資金」と「総合支援資金」の制度は、ことし3月から新型コロナウイルスの影響による失業や休業で収入が減少した人も対象となっていて、全国の社会福祉協議会が窓口となり申請の受け付けなどを行っています。

厚生労働省によりますと、申請の件数はことし3月25日から今月12日までで111万5868件あり、このうち支給が決まったのは107万2646件で金額にして3524億円余りにのぼるということです。

リーマンショック後の平成21年度からの3年間の貸し付けの件数はおよそ20万5000件で、ことし3月からのおよそ5か月間ですでに5倍以上となっています。

厚生労働省は「新型コロナウイルスの影響が長期化する中で、制度の利用を申請する人は今後も多いとみられる。生活や命を守るために引き続き迅速な支援を行っていきたい」と話しています。

制度利用者「本当に大変なのはこれからではないか」

東京都内の都営住宅で1人で暮らす79歳の女性は、1か月におよそ6万7000円の年金だけでは生活ができないため、シルバー人材センターに登録し、清掃の仕事を3か所掛け持ちして働いてきました。その収入は1か月およそ7万円で、生活費として使うことができるのは年金と合わせて13万円余りです。

収入が少ないことなどから都営住宅の家賃は1か月5000円に減免されていますが、それでも食費や光熱費などに使うと貯金はほとんどできず、ギリギリの生活を続けてきました。しかし、新型コロナウイルスの影響で清掃の仕事が減ってしまい1か月の収入はおよそ3万円と半分以下になってしまったということです。

当時、手元にある現金は10万円余りしかなく国から特別定額給付金の10万円を受け取りましたが、このままでは生活できなくなる可能性があると思い、ことし5月に、緊急小口資金を利用し20万円を借りました。

女性は「これから先仕事がどうなってしまうのか見通しがたたず暮らしていけるのだろうかと不安だったので貸付金を利用できたのは本当にありがたかったです」と話していました。

しかしその後も、清掃の仕事は元に戻らず収入が大幅に減った状況が続いているため、貯金と国の給付金、社会福祉協議会の貸付金の合わせて40万円余りを少しずつ取り崩して生活しています。

また、女性は白内障と診断され、自覚症状はまだないということですが医師からは病気が進行しないためにもできるだけ早く手術を受けるよう言われています。手術などでおよそ5万円がかかるということで、手元に残るお金はさらに少なくなります。シルバー人材センターに新たな仕事を紹介してほしいと相談しても、新型コロナウイルスの影響で求人が減る中、それも難しいのではないかと感じています。

女性は「もともとこれ以上切り詰めようがない生活をしていましたが、幸い体が元気なので仕事をしていれば何とかなるという思いでやってきました。しかし、新型コロナウイルスの影響が今後も続くと思うので、本当に大変なのはこれからではないかと思っています」と話しています。

専門家「再就職の支援 生活再建できない場合は生活保護も」

制度の現状に詳しい明治大学の岡部卓専任教授は「緊急小口資金と総合支援資金の制度を利用することで生活の困難を回避できた人も多く、緊急避難的には有効な対策だと思う」と話しています。

そのうえで「制度では、本来は国からお金を貸すことと生活再建のための支援を必要としているが、現在は生活が困難になっている人をできるだけ早く支援するために書類での申請が多くなっているので、きめ細かな相談に応じることが難しくなっている。このため生活においてどのような困難を抱えているのかや、生活再建ができる条件が整っているかどうかの見極めができない」と指摘しています。

また、「貸し付けの期間が長期間になってしまうと、返済のために将来の家計の圧迫にもつながってしまう。仕事を失った人の場合は再就職ができなければ収入を得ることも難しい。再就職を後押しするためのその人のスキルや経験を生かした企業とのマッチングなど再就職の支援をする一方で、すぐに生活を再建できない場合は生活保護の利用も必要になる」と話しています。

厚生労働省 特例措置を12月末まで延長を決定

「緊急小口資金」と「総合支援資金」は、仕事を失った人などが国から一時的に当面の生活費を借りることで生活の再建につなげることが目的で、各地の社会福祉協議会が窓口となり申請の受け付けなどが行われています。住宅費用の給付や就労支援などと合わせて総合的に自立を支援するこれらの制度は、「第2のセーフティネット」とも呼ばれています。

厚生労働省は、「緊急小口資金」と「総合支援資金」については、ことし3月から新型コロナウイルスの影響による失業や休業で収入が減少した人を対象にするなどの特例措置を行っています。

「緊急小口資金」は無利子で借りることができ、上限を10万円から20万円に引き上げ、返済の期限も1年以内から2年以内としています。また「総合支援資金」は2人以上の世帯は1か月最大で20万円を、単身の世帯は1か月最大で15万円を、いずれも3か月無利子で借りることができます。必要に応じてさらに3か月期間を延長することができ、返済の期限は10年以内となっています。

厚生労働省は、これらの特例措置を今月末までとしていましたが、新型コロナウイルスの影響が続いていることから12月末まで延長することを決めました。このうち「総合支援資金」については、来月1日からは、再就職や生活再建に向けて自治体などの「自立相談支援機関」と呼ばれる専門の窓口で支援を受けることが要件になるということです。

窓口の社会福祉協議会は

東京都の大田区社会福祉協議会では、ことし3月から今月14日までに、緊急小口資金と総合支援資金の申請が合わせて1万2098件に上っています。

申請者の内訳を見ると、飲食店の経営者などの自営業の人や派遣やパート、アルバイトといった非正規雇用で働く人が多いということです。

新型コロナウイルスの影響で貸し付けの要件が緩和され、急増したニーズに対応するため、別の部署や区役所などから応援をもらい、通常の7倍近いおよそ20人の体制で電話相談や面談での相談に応じていて、ことし3月から今月14日までの相談件数も、合わせて4万3447件となっています。

しかし、感染予防対策で窓口が混雑するのを避けるため、面談の受け付けをしているのは高齢者や外国人など申請にあたってサポートが必要な人で、それ以外は郵送で申請を受け付けています。

先月面談に訪れた65歳の男性は、ことし6月に緊急小口資金を利用しましたが今度は総合支援資金を利用しお金を借りる予定だということです。

男性は「仕事がなくなってしまったので、ハローワークに通って探していますが、求人募集がなく、なかなか見つかりません。先が見えず困っています」と話していました。

再就職できなかったり収入が減少したままの状態が続いたりしているケースが増えていて、原則3か月間の総合支援資金を延長し、6か月にわたって貸し付けを受ける件数も1321件になりました。

厚生労働省は、総合支援資金での貸し付けを延長する場合は再就職や生活再建のサポートにあたる自治体などの「自立相談支援機関」の支援を受けることを要件としています。しかし、現在はほとんどの申請が郵送で、一人一人の状況を細かく把握することはできません。

このため、厚生労働省は「総合支援資金」については、新たに貸し付けを申請する場合と期間を延長する場合のいずれについても来月1日からは、「自立相談支援機関」の支援を受けることを要件とすることにしています。

大田区社会福祉協議会では制度の申請件数がすでに昨年度の100倍以上に膨れ上がる中、生活の再建と返済に向けてどのようなサポートができるのか、頭を悩ませています。

大田区社会福祉協議会の石川幸子さんは「これまではなるべく簡単な申請方法で早く貸し付けをすることに重点を置いてきましたが、社会福祉協議会としては、一人一人に寄り添って生活実態を丁寧に聞き取り、生活再建を支援したいという気持ちもありますので、それができずに歯がゆい思いもしています。ただ、一人一人と向き合うには、職員の数も面接の場所も必要ですし、課題も多くあると思います」と話しています。