“偽りの自己都合退職” 行き場失う外国人技能実習生

“偽りの自己都合退職” 行き場失う外国人技能実習生
「3時間にわたって会社の担当者に囲まれ書面にサインせざるを得なかった」。
ベトナム人の技能実習生のことばです。いま、支援団体には「自分から希望して退職したことにされ、行き場を失った」と助けを求める実習生が相次いでいます。新型コロナウイルスの影響でこれまで多くの問題が指摘されてきた制度のひずみが吹き出していると感じます。(社会部記者・大西由夏)

「意思確認書」迫られたサイン

ベトナム人の技能実習生、カオ・バン・ソンさん(27)は「ビルクリーニング」の技能を身につけるために、去年10月に来日し、東京都内の会社で働いていました。

会社の寮に住み、主にホテルでの業務を担当。ベトナムにいる高齢の両親に仕送りをしながら、仕事の合間に日本語の勉強に励む生活を送っていました。

しかし、ことし3月、新型コロナウイルスの影響でホテルでの仕事が激減。会社の寮で待機する日々が続き、5月には退職して寮を出るよう、会社に迫られたと言います。
退職する際に会社にサインを求められたのが、「意思確認書」という書面です。

「実習を途中で中止して帰国すること」、「意思に反して帰国するものではないこと」などと記され、ソンさんがみずから希望して仕事を辞めることを念押しする内容です。

来日する手続きの費用などとしておよそ100万円の借金があったソンさんは、会社に働き続けたいと訴えました。しかし、3時間にわたって会社の担当者に囲まれ書面にサインせざるを得なかったと話します。
カオ・バン・ソンさん
「本当に絶望しました。こんなにどうすればいいかわからないようなことは経験したことがありません。私の仕事が無くなったら、ベトナムの家族はどうやって生活していけばいいのかわかりません」

実習生の解雇実態 把握しきれず

新型コロナウイルスの感染拡大で仕事を失った外国人技能実習生はどれくらいいるのでしょうか。
厚生労働省によりますと、新型コロナウイルスの影響で会社の経営状態が悪化したとして解雇された実習生は8月28日時点で3248人に上っています。

しかし、この数字は、会社の都合で解雇したという国への届け出があったものに限られています。このため、ソンさんのように実習生側の都合で辞めたことにされたものは含まれていません。

国も実際には解雇された実習生がどこまで増えているのか、実態を把握しきれていないといいます。

再就職を阻む「自己都合退職」

仕事と住まいを失い、行き場を失ったソンさんは、東京・港区の支援団体「NPO法人日越ともいき支援会」に助けを求めました。
支援団体の助けを得ながら新たな仕事を探そうとしましたが、それを阻んだのがさきほどの「意思確認書」です。

この書面では、会社の都合による解雇ではなく、ソンさんみずからが希望して退職したことになっていたことが新たな仕事を見つける際の大きな壁となったのです。

実習生の「解雇」と「退職」の違いは

なぜなのか。

そもそも外国人技能実習生は、職場や仕事の内容があらかじめ決められていて、制度上、国内での自由な「転職」は認められてきませんでした。
しかし、国は、ことし4月から新型コロナウイルスの影響で「解雇」された実習生は、在留資格を「技能実習」から切り替えることで、農業や介護など14の業種で働くことができるようにしました。この特例措置で、最大で1年間、日本で働くことができるようになったのです。

ただ、実習生自身の都合で「退職」した場合は、原則としてこの特例措置の対象にはなっていません。
カオ・バン・ソンさん
「私たちのような外国人技能実習生は、日本の法律や制度についての情報がなかなか手に入らないので、よくわかりませんでした。来日して1年もたっておらず、借金を返済できていません。ベトナムの家族の生活は僕にかかっていて、仕事を辞めたいわけがありません」
一方、会社側はNHKの取材に対して次のように回答しました。
ソンさんが働いていた会社
「本人が帰国したいというので退職届を受理した。
今後の生活のための資金と退職後も会社の寮の部屋を提供していたが、本人の希望で支援団体に頼るということなので、その後の対応は任せている」
会社側の都合による「解雇」と、実習生自身の都合による「退職」では、なぜ、このように対応が違うのか。

国は次のように説明しています。
法務省の担当者
「外国人技能実習生は、あくまで『技能実習』の在留資格に基づき活動するものとして入国を許可している。
みずからの希望で退職した実習生の自由な転職を認めてしまうことは、受け入れ先の企業などで技術を身につけて帰国してもらうという技能実習の目的や理念にそわない。
今回の特例措置は、新型コロナウイルスの影響で仕事が失われた場合に限って適用する」

支援団体「実習生だけでは対応できない」

ソンさんを保護した支援団体には、「日本で働き続けたいのに、みずから希望して辞めたことにされた」という相談が相次いでいます。
支援団体ではソンさんのケースについて、4か月の間、法務省に何度も相談し、新型コロナウイルスの感染拡大で仕事がなくなっていたことや、会社から辞めるよう求められたと、経緯を説明してきました。

その結果、在留資格の切り替えに向けた手続きを進められる見通しがつき、栃木県内の食品加工会社への就職が決まったということです。

法務省は実質的に新型コロナウイルスの影響で仕事を失ったと確認できれば、特例措置の対象になり、在留資格を切り替えて別の会社で働くことはできるとしています。

しかし、支援団体は日本語をうまく話すことができない実習生が多く、仕事を失うまでのいきさつを国に詳しく説明することは難しいと感じています。
NPO法人 日越ともいき支援会 吉水慈豊代表
「私たちに助けを求めることができた技能実習生は氷山の一角だと思います。支援団体につながることができた実習生は救うことができる。しかし、異国の地で言葉も制度もわからない中で、仕事を辞めさせられ、生活が限界を迎えようとしている実習生はまだまだいると思います」

「解雇」避けたい企業の意図は

なぜ、外国人技能実習生から「自主退職は偽りだ」という相談が相次ぐのか。
実習生の支援活動に取り組み、外国人の労働問題に詳しい神戸大学の斉藤善久准教授は、国から実質的にコロナ禍を背景とする解雇だと認められる可能性が高いとしたうえで会社側の意図やその背景について次の2点が考えられると指摘しました。
▽今後、新たに実習生を受け入れる時に国の審査が厳しくなる可能性
▽トラブルを避けたいという意図
そのうえで、仕事と住まいを失った実習生の支援を民間だけに任せずに国が積極的に取り組むべきだと訴えます。
神戸大学 斉藤善久准教授
「今、日本は外国人技能実習生を実質的な労働力として受け入れており、日本社会がどれだけ彼らに依存しているかは、コロナ禍でより顕在化した。国の制度の中で来日したからには、国が前面に出て仕事を失った実習生を保護したり、新しい仕事へのマッチングをしたりするべきだ。それが財政上、難しいのであれば、別の会社で働きやすくするなど、柔軟な対応をすべきだ」

国は実態把握と対策を

厚生労働省は、こうした実態を把握するため、まずは外国人技能実習生の相談に母国語で対応できる窓口について周知を徹底していきたいとしています。

そのうえで、実態をより正確に把握できるよう、対策を検討していきたいとしています。
国内では、去年12月の時点で、およそ41万人の外国人技能実習生が働き、あらゆる産業を支えています。

制度上、「技術を身につける」ことが目的とされていますが、日本の労働基準法で守られている「労働者」でもあります。

しかし、この認識が薄いがためにさまざまな問題が起きているとみられます。

非常事態の今だからこそ、国は技能実習生の「労働者」としての権利が守られるよう、きちんと対策をとるべきで、それができなければ『ポストコロナ』の時に日本を働く場所として選ばない外国人が多くなってしまうのではないかと思います。
社会部記者

大西由夏
平成23年入局
松山局を経て現所属