人生最後のお金 どう使う?

人生最後のお金 どう使う?
私もあなたもいつかはこの世を去ります。その時遺産をどうするか、考えたことがありますか。ほとんどの人は家族に残すつもりだと思いますが、一部をNPO法人や公益法人などに寄付をして社会貢献に使ってもらうという選択肢があります。遺産を寄付することを「遺贈寄付」と言います。今、少しずつ関心が高まっています。(経済部記者 寺田麻美)

遺贈寄付は「未来への種まき」

先日、60代のさち子さんにお話を聞かせてもらいました。児童養護施設の子どもたちや難病の子どもとその家族を支援する基金に遺贈寄付の手続きをした女性です。
さち子さんは20代で結婚し、夫の仕事の関係でアメリカや中東諸国を転々としながら暮らしてきました。

しかし夫が40代の若さで病気になり、突然、他界しました。

その後、英語教室を開いて生活費を稼ぎ、2人の子どもを1人で育てあげたそうです。生活は楽ではなく、近所から子ども服のお下がりをもらうこともあったと言います。

そんな中でも夫が残してくれたお金には手をつけず大切にしてきました。
さち子さん
「夫が企業戦士として、がむしゃらに働いて残してくれたお金は、命と引き換えみたいに思えて、どうしても手をつけられなかった」
60歳手前の頃、さち子さんは体調を崩しました。ひどい時には半日起き上がれないこともありました。

そのとき自分の弱さに向き合い、弱い立場にある子どもたちの存在がひと事とは思えなくなったそうです。

「未来ある子どもたちに何かできることはないか」そういう思いを抱く中、テレビなどで遺贈寄付のことを知ったと言います。
さち子さん
「このお金はそのためだったと、探していたものがここにあったと感じました。遺贈寄付は『種まき』だと思っています。私が残すのは小さな種かもしれませんが、亡くなったあと、いつか芽が出て実をもたらし、山を動かす力があるのではないか。これからの子どもたち、新しい世代を後押ししたいと思ったのです」

遺贈寄付 広がる関心

遺贈寄付に関心を持つ人は徐々に増えています。

NPO法人の「シーズ」の求めに応じて国税庁が開示した資料を見ると、遺贈寄付は平成22年には62億円でしたが、平成30年には467億円になりました。
司法書士など相続の専門家で作る日本承継寄付協会は、ことし8月に50代から70代の1000人に意識調査を行いました。

「遺贈寄付を考えたことがある」と答えた人は22.9%に上り、ほぼ5人に1人が関心を持っていました。

生涯独身で相続人がいない人が増えていることや、社会貢献の意識が高まっていることが背景にあると考えられています。

印象は「お金持ちが行うこと」

しかし、寄付するために遺言書を作成して準備を済ませたと答えた人はわずかに1.2%でした。関心はあっても手続きするところまで届いていないのです。

遺贈寄付の印象について尋ねたところ、「お金持ちが行うこと」が45.7%、「情報が少なく理解が進まなそう」が24.6%と続きました。

興味はあれど、どこに相談すればいいかわからないという現状が浮かび上がってきます。
日本承継寄付協会の三浦美樹代表理事はこう呼びかけます。
三浦代表理事
「遺産の一部を応援したい団体などに寄付することは、人生最後の自己実現と言えるのではないでしょうか。大金である必要はなく、亡くなったあとに財産が余れば寄付をするという形なので、老後の生活資金を心配する必要もありません」
協会は全国10の司法書士法人に電話窓口を設け、遺贈寄付に詳しい専門家が寄付の手続きや税金の相談に応じています。

全国レガシーギフト協会という団体も、全国にある14のNPOや財団に窓口を設けて相談体制の充実を進めています。

資産の流出と集中に歯止めの効果も

遺贈寄付が支援を必要とする人たちのもとに届けば、さまざまな課題解決につながる可能性があります。

それだけにとどまらず、実は意外なところに効果が及ぶという指摘もあります。

1つは資産の分散です。

高齢化が進む日本社会では、80代から90代で亡くなり、その子にあたる60代から70代の人が遺産を相続する、いわゆる「老々相続」が増えています。

金融庁によりますと、すべての世帯のうち60歳以上の世帯が保有する金融資産の割合は、平成11年には47.4%でした。それが平成26年には65.7%になり、高齢世帯への資産の集中が進んでいます。
もう1つは地方からの資産流出に歯止めをかける働きです。

親の世代が地方で築いた財産を都市部に住む子どもが相続することで、地方の資産が都市へと流出しています。

大和総研が平成28年からの10年間の都道府県ごとの相続資産の出入りを推計すると、首都圏や大阪は流入額のほうが多く、北海道や多くの県は流出のほうが多くなるということです。

遺贈寄付が広がれば、遺産が地方の活性化や若い世代の支援に役立てられる可能性が広がると指摘しています。

遺贈寄付 どんな準備が必要か

では、どうやって遺贈寄付をするのでしょうか。
専門家は、遺言に寄付の意思を明確に書いておくよう勧めます。そうすれば死後、遺産が直接、意中のNPO法人などに寄付されます。

銀行などの信託の仕組みを使って契約を結び、寄付の手続きを託す方法もあります。

手紙やエンディングノートなどで相続人になる家族などに自分の意思を伝え、遺産をいったん相続してから寄付してもらう方法もあります。

一定の条件を満たせば、寄付した分が相続税の課税対象から除外されます。

寄付する団体などをどうやって選んだらいいかわからない人も多いと思いますが、遺産をどんな活動に役立ててほしいかを考えれば、遺贈先が見えてくるのではとアドバイスしています。

また、団体が遺贈を受け入れているかどうか、寄付金の使い道や会計処理が明確に決まっているかも確かめるべきだと勧めています。

取材を終えて

コロナ禍で、困っている飲食店や農家の役に立てればと、私は先日、クラウドファンディングを通じて寄付をしました。今回取材したさち子さんの思いは、少し、わかる気がします。

将来、遺贈寄付をするかどうか、私はまだ具体的に考えていません。ただ、さち子さんの話を聞き、財産の一部を社会のために残すことは、その人の生き方を映し出す、最後のお金の使い方だと感じています。
経済部記者
寺田 麻美
平成21年入局
高知放送局をへて経済部で消費の現場から相続問題まで幅広い分野を取材