授業どうなる?アメリカの大学新年度

大学の「学び」はどうなるのかー。
日本では9月から順次、大学の授業が再開されます。新型コロナウイルスの感染対策としてオンライン授業を続けるのか、それとも対面授業を再開するのか。学生たちの生活に大きな影響を及ぼす問題です。一足早く新年度が始まったアメリカでは、いまも試行錯誤が続いています。
(国際部記者・山田奈々、岡野杏有子、佐藤真莉子
アメリカ総局記者・及川利文、添徹太郎)
日本では9月から順次、大学の授業が再開されます。新型コロナウイルスの感染対策としてオンライン授業を続けるのか、それとも対面授業を再開するのか。学生たちの生活に大きな影響を及ぼす問題です。一足早く新年度が始まったアメリカでは、いまも試行錯誤が続いています。
(国際部記者・山田奈々、岡野杏有子、佐藤真莉子
アメリカ総局記者・及川利文、添徹太郎)
オンライン授業に「学費返せ!」

「授業料を安くしろ!」
8月、ニューヨークのコロンビア大学。『公正な授業料を』と書かれたプラカードを掲げた学生たちが、声を張り上げていました。
コロンビア大学は、新型コロナウイルスの感染拡大を受け、キャンパスを閉鎖してオンライン授業に切り替え、9月からの新年度も多くの授業をオンラインで続けています。
8月、ニューヨークのコロンビア大学。『公正な授業料を』と書かれたプラカードを掲げた学生たちが、声を張り上げていました。
コロンビア大学は、新型コロナウイルスの感染拡大を受け、キャンパスを閉鎖してオンライン授業に切り替え、9月からの新年度も多くの授業をオンラインで続けています。

デモに参加した大学院生マギー・タルボットミンキンさんは、映画監督を目指し、年間約690万円の学費を払っていますが、大学の撮影機材などを使った実践的な授業が受けられなくなったとして、「大学には、春学期の学費の半分を返還することと、今学期の学費を半額に減免することを求めます」と語気を強めました。
こうした学生たちの不満は広がっています。
オンライン授業によって教育の機会が損なわれたとして、全米70以上の大学を相手取って、学費の返還・減免を求める訴訟が起きています。
南部サウスカロライナ州にある弁護士事務所のロイ・ウィリー弁護士は、「学生や親から、訴訟に関する問い合わせが毎日のように来ます。学費には大学の施設や設備を使う費用も含まれるので、大学は返還や減免に応じるべきです」と話しています。
こうした学生たちの不満は広がっています。
オンライン授業によって教育の機会が損なわれたとして、全米70以上の大学を相手取って、学費の返還・減免を求める訴訟が起きています。
南部サウスカロライナ州にある弁護士事務所のロイ・ウィリー弁護士は、「学生や親から、訴訟に関する問い合わせが毎日のように来ます。学費には大学の施設や設備を使う費用も含まれるので、大学は返還や減免に応じるべきです」と話しています。
ようやく対面授業再開も…
こうした中、南部ケンタッキー州にある私立ジョージタウンカレッジは、新学期から対面授業の再開に踏み切りました。
再開にあたって、最も重視したのが感染対策です。約1100人いる学生と職員全員を対象にPCR検査を無料で行い、今後も3週間おきに検査する計画です。
再開にあたって、最も重視したのが感染対策です。約1100人いる学生と職員全員を対象にPCR検査を無料で行い、今後も3週間おきに検査する計画です。

授業の多くは、屋外の芝生にいすを並べて行っているほか、教室内では学生どうしが密集しないよう使える席を減らし、強力な換気装置も取り付けました。学生寮にも各階に消毒液が置かれ、寮生全員に手袋が配られているほか、廊下などの共有スペースではマスクの着用が求められています。

寮に住む、3年生のプレストン・クランプさんは、「マスクを着けていても、友だちに直接会えるのは最高です」と対面授業の再開を喜んでいます。
しかし、対面授業を再開した大学の中には、新型コロナウイルスの感染が拡大し、対面授業の中断や学生寮の閉鎖を余儀なくされるところもあります。
南部アラバマ州のアラバマ大学は8月から対面授業を再開しましたが、学生や教職員の間で感染が広がり、これまでに約1900人の感染が確認。地元の市長が、学生が利用する飲食店の閉鎖を命じる事態になりました。
インディアナ州のノートルダム大学も対面授業を再開した8月以降、感染が拡大したため、授業をオンラインに戻しました。
また、東部のニューヨーク州立大学オネオンタ校では500人以上の感染が確認され、寮生を自宅に帰す措置をとるなど、全米各地の大学で対面授業の再開後、感染者の増加が確認されています。
9月11日付けの全国紙「USAトゥデー」によりますと、人口10万人あたりの感染者が過去2週間で最も多かった25地域のうち18が、大学のある地域だということです。対面授業を受けるため、学生が大学に戻ってきたことが感染拡大につながったと指摘しています。
しかし、対面授業を再開した大学の中には、新型コロナウイルスの感染が拡大し、対面授業の中断や学生寮の閉鎖を余儀なくされるところもあります。
南部アラバマ州のアラバマ大学は8月から対面授業を再開しましたが、学生や教職員の間で感染が広がり、これまでに約1900人の感染が確認。地元の市長が、学生が利用する飲食店の閉鎖を命じる事態になりました。
インディアナ州のノートルダム大学も対面授業を再開した8月以降、感染が拡大したため、授業をオンラインに戻しました。
また、東部のニューヨーク州立大学オネオンタ校では500人以上の感染が確認され、寮生を自宅に帰す措置をとるなど、全米各地の大学で対面授業の再開後、感染者の増加が確認されています。
9月11日付けの全国紙「USAトゥデー」によりますと、人口10万人あたりの感染者が過去2週間で最も多かった25地域のうち18が、大学のある地域だということです。対面授業を受けるため、学生が大学に戻ってきたことが感染拡大につながったと指摘しています。
「オンライン活用」は約8割
新年度もオンライン授業を続けるのか、それとも対面授業を再開するのか。アメリカの大手予備校「プリンストン・レビュー」はことし7月、全米の大学を対象にアンケート調査を行い、179大学から回答を得ました。

その結果、「対面授業」が21%、「オンライン授業」が12%、両者を組み合わせた「ハイブリッド方式」が67%と、授業のすべて、または一部をオンラインで行うとした大学が全体の79%に上りました。
「苦渋の決断」でオンライン継続

「苦渋の決断」でオンライン授業の継続を決めた大学もあります。東部メリーランド州の私立ガウチャー大学は、州内で感染拡大が深刻になったことし3月以降、すべての授業をオンラインに切り替えました。7月ごろには感染が収まると見越し、教室に換気性能の高い最新の空調を導入するなどして、対面授業の再開に向けた準備を進めていましたが、その後も感染収束の見通しが立たず、9月からの新年度もすべての授業をオンラインのまま続けることにしました。

それでも対面と変わらない、質の高い授業を提供しようと、教室に高性能カメラや大型スクリーンを設置したり、インターネット回線を強化したりしたほか、コンサルタントを雇って、オンライン授業に必要な機器の扱い方などを教授陣に教える研修会も開きました。こうした設備投資などに費やした金額はこの半年間で合わせて900万ドル、日本円で9億5000万円余りに上るということです。

ガウチャー大学のケント・デベロー学長は、「最も大事なのは授業の質なので、投資は惜しまなかった」と話しています。ただ、多額の設備投資をしたこともあり、オンライン授業に対して学費の返還や減免を求められても、応じられないとしています。
「オンライン授業=質の低下」ではない
ここまで読んできて、対面のほうがオンラインに比べて、「質の高い学び」が得られるという印象を受けるかもしれません。
これを真っ向から否定しているのが、アメリカのミネルバ大学です。新型コロナウイルスの感染拡大とは関係なく、立ち上げ当初の2014年からすべての授業をオンラインで実施。卒業生の就職先企業などから高い評価を得ています。
これを真っ向から否定しているのが、アメリカのミネルバ大学です。新型コロナウイルスの感染拡大とは関係なく、立ち上げ当初の2014年からすべての授業をオンラインで実施。卒業生の就職先企業などから高い評価を得ています。

1クラス20人程度。学生が教授の講義を聞くだけでなく、1問1答形式で投げかけられる質問に対して意見を述べたり、数人ごとのグループでディスカッションをしたりするなど、「アクティブラーニング」を心がけています。
授業はすべて録画されます。映像は学生の復習のほか、大学側が教授を評価する際にも使われ、緊張感のある、質の高い授業につなげるねらいがあります。
オンライン授業以外の、生活を通じた学びも重視しています。学生たちは学期ごとに生活の拠点を移し、世界の7都市をめぐります。はじめはサンフランシスコ(アメリカ)。続いてソウル(韓国)、ハイデラバード(インド)、ベルリン(ドイツ)、ブエノスアイレス(アルゼンチン)、ロンドン(イギリス)、台北(台湾)と移動します。
同学年の学生には同じ家に住んでもらい、共同生活を通じて対人関係を向上させたり、身につけた知識を社会でいかすための試行錯誤を促したりしています。
キャンパスはありませんが、各都市の研究機関や図書館などと連携することで、理系の研究などにも支障はないと言います。学費も年間約280万円と、アメリカの一般的な私立大学より安くなっています。
授業はすべて録画されます。映像は学生の復習のほか、大学側が教授を評価する際にも使われ、緊張感のある、質の高い授業につなげるねらいがあります。
オンライン授業以外の、生活を通じた学びも重視しています。学生たちは学期ごとに生活の拠点を移し、世界の7都市をめぐります。はじめはサンフランシスコ(アメリカ)。続いてソウル(韓国)、ハイデラバード(インド)、ベルリン(ドイツ)、ブエノスアイレス(アルゼンチン)、ロンドン(イギリス)、台北(台湾)と移動します。
同学年の学生には同じ家に住んでもらい、共同生活を通じて対人関係を向上させたり、身につけた知識を社会でいかすための試行錯誤を促したりしています。
キャンパスはありませんが、各都市の研究機関や図書館などと連携することで、理系の研究などにも支障はないと言います。学費も年間約280万円と、アメリカの一般的な私立大学より安くなっています。

大学のアジア担当責任者、ケン・ロスさんは、「対面授業をそのままオンラインで行うだけではつまらない。オンラインで主体的に参加してもらうためには、授業の内容はもちろん、教え方も大切だ」と強調します。
学生の不安を解消できるか

対面とオンラインのすみ分けについて、教育経済学が専門で、日米の教育に詳しい慶應義塾大学の中室牧子教授は、「二者択一ではなく、授業の特性に合わせ、両者をうまく組み合わせて運用するのが理想的だ」と述べ、実験や体育など実技を伴い、オンライン授業だけでは十分な成果を得るのが難しい場合は対面授業も活用するべきだとしています。
そのうえで、学費など日米の大学の収入基盤の違いも指摘します。
そのうえで、学費など日米の大学の収入基盤の違いも指摘します。
慶應義塾大学 中室牧子教授
「アメリカの大学は基金や寄付金などを活用し、学費収入への依存度が低い経営を目指しているが、日本は収入の8割から9割を学費に頼っている大学もある」
「アメリカの大学は基金や寄付金などを活用し、学費収入への依存度が低い経営を目指しているが、日本は収入の8割から9割を学費に頼っている大学もある」
つまり、アメリカの大学は、学費の減免に応じなければならない場合でも、ある程度持ちこたえられますが、日本の大学は学費収入への依存度が高いため、学生のニーズに応えられなければ収入が大幅に減り、直ちに経営が立ち行かなくなるおそれがあるのです。逆に、感染対策や学習環境などへの不安を解消できれば、学生にとっては魅力的な大学になり得ます。

新型コロナウイルスをめぐる状況が日々変わる中、対面授業とオンライン授業のどちらがいいのか、はっきりした答えはありません。それぞれをどのように使い分け、学生の不安を解消していくのか。スピード、透明性、そして実効性の伴った経営判断を下すことが、各大学にとって極めて重要になります。

アメリカ総局記者
添徹太郎
平成17年入局
神戸局、科学文化部、国際部などを経て
令和元年からアメリカ総局
添徹太郎
平成17年入局
神戸局、科学文化部、国際部などを経て
令和元年からアメリカ総局

国際部記者
山田奈々
平成21年入局
長崎局、千葉局、経済部を経て
現在、国際部でアメリカ、ヨーロッパを担当
山田奈々
平成21年入局
長崎局、千葉局、経済部を経て
現在、国際部でアメリカ、ヨーロッパを担当

国際部記者
岡野 杏有子
平成22年入局
前橋局、岡山局を経て、大阪局
平成30年から国際部
岡野 杏有子
平成22年入局
前橋局、岡山局を経て、大阪局
平成30年から国際部

国際部記者
佐藤真莉子
平成23年入局
福島局、社会部を経て
平成27年から国際部
佐藤真莉子
平成23年入局
福島局、社会部を経て
平成27年から国際部

アメリカ総局記者
及川利文
平成24年入局
千葉局・国際部を経て
平成30年からアメリカ総局
及川利文
平成24年入局
千葉局・国際部を経て
平成30年からアメリカ総局