最後のチャンス? 国際金融都市への道

最後のチャンス? 国際金融都市への道
東京をニューヨークやロンドンと並ぶ国際金融都市に
ーーーこの20年以上にわたって、何度も提唱されては道半ばで足踏みしてきたテーマです。政府は、ことし7月にまとめた「骨太の方針」に“国際金融都市の確立”を盛り込み、具体策の検討が始まりました。なぜ、いま改めて国際金融都市を目指すのでしょうか。今度こそ実現するための道筋は見えているのでしょうか。(経済部記者 新井俊毅 白石明大)

世界3位に大躍進!?

ことし3月、新型コロナウイルスの対応に追われる東京都の関係者に吉報が届きました。イギリスのシンクタンクが半年ごとに発表している「国際金融センター指数」で、東京がアジア最高の3位にランクアップしたのです。

この10年ほど、東京の定位置は5位か6位。ニューヨークやロンドンだけでなく、同じアジアのシンガポールや香港の後じんを拝してきました。

都は、2017年から海外の金融機関や投資家の誘致に力を入れていて、担当者は「取り組みが認められた」と手応えを感じていました。ただ、8月には世界最大級の資産運用会社であるアメリカの「バンガード」が、事業戦略や拠点の見直しを理由に、東京からの撤退を表明したばかり。世界3位への躍進は、はたして東京の“成長”を反映した結果なのでしょうか。
「都の地道な取り組みの効果もあるが、“敵失”で相対的に順位が上がった部分が大きいのではないか」というのが、ある金融業界の関係者の分析です。

今回、ライバルの香港は3位から6位に大きく順位を下げました。「香港国家安全維持法」が施行され、金融機関や投資家の間で「今までどおり、自由に事業や投資を続けられるのか」と不安が高まっていることが背景にあるとみられています。

なぜ目指すのか?

そもそも、シンガポールや香港といった強力なライバルがひしめく中、なぜ、東京は国際金融都市を目指すのでしょうか?

期待される効果は、金融関係の雇用だけではありません。有望な技術を持つ中小企業やベンチャー企業へのリスクマネーを呼び込んで、日本経済の活性化につなげようというねらいがあります。

さらに、資産運用の“メジャーリーガー”が集まり、国内の投資家向けの商品が充実すれば、長年の懸案である「貯蓄から投資へ」という流れを後押しできるという期待もあります。

実現に3つの課題

不安定な情勢にある香港から金融機関や高度な人材を誘致できないか、自民党がプロジェクトチームを開いて具体策を検討するなど、動きが加速しています。しかし、改めて課題も浮かび上がっています。大きく3点あります。
1 税制
国際金融都市への最大の壁として、常に立ちはだかるのが「税制」の問題です。

控除などもあって単純には比較できませんが、例えば所得税。年間の所得が3000万円ならば、日本の税率は40%。これに対し、香港は17%、シンガポールは22%です。所得が1億円なら、日本の税率は45%まで上がります。株式の配当や売却益などの「金融所得」に課される税率は、香港とシンガポールが非課税であるのに対し、日本は国税だけで15%。さらに地方税も課されます。

税金をすすんでたくさん払おうという人や企業は多くないでしょう。こうした税率を引き下げられれば、金融機関や人材を呼び込みやすくなるというわけです。

しかし、財務省の関係者は「特定の人材を対象に減税することは、税負担の公平性に反する」と慎重です。「日本の所得税がシンガポールや香港と比べれば高いのは事実だが、中国や韓国、オーストラリアとはほぼ同等の水準だ」と反論します。

さらに、新型コロナウイルスへの対応で財政状況が一段と悪化していることを考慮しますと、「減税」への道はなおさら険しそうです。
2 言語

日本の行政機関には英語で対応できる職員が少なく、海外の金融機関にとって不便だと指摘されています。

改善に向けて、金融庁も動き始めました。英語で専門的な内容を含めて対応できる人材を配置したり、世界中で資産運用を行うファンドが日本に参入する要件の緩和を検討したりしています。

3 暮らしやすさ
香港やシンガポールで投資家などの生活を世話してきたシッター(家政婦)の帯同は1人しか認められず、シッターの家族は入国が認められません。子どもが通うインターナショナルスクールの不足も指摘されています。

証券業界の関係者は「金融機関の経営者や従業員にとって、税制面のインセンティブが大きいのは事実だが、欧米とはほぼ同水準であり、絶対的な条件ではない。生活も含めた総合的な視点で環境整備をしていくべきだ」と訴えます。

東京の魅力とは?

では、金融機関や投資家にとって、東京や日本ならではの魅力はどこにあるのでしょうか?

2014年、シンクタンク3社がまとめた国際金融センターに関する提言に関わったみずほ総合研究所のチーフエコノミスト、長谷川克之さんは次のように指摘しています。
長谷川克之さん
「香港やシンガポールなどと比べて、日本には分厚い産業と個人の金融資産がある。少子高齢化の日本では、中長期の資産運用が必要になるので、資産運用関連のビジネスはカギになる。そのためには、日本での金融ビジネスに将来性があることを感じてもらうことが必要だ」

“ラストチャンス”の覚悟を

今回の取材で、金融庁の幹部は「内向きな日本の金融市場を『開国』するチャンス。外国人を何人連れてくるかということが勝負ではなく、日本人のための資産運用市場をレベルアップして、グローバル化するための勝負になる」と話していました。

海外の金融機関の誘致に関わる関係者は、香港情勢やイギリスのEU離脱といった状況を念頭に「今が本当のラストチャンス。もう『次はない』という覚悟で臨むべきだ」と力を込めます。

欧米の金融機関がこぞって参入したバブル期と異なり、無条件で海外の金融機関を誘致できるわけではありません。

「最後の戦い」で大きな成果をつかみ取るには、何を強みとするのか、そのために何を改善するのか、メリットをどう知らせていくのかを明確にして、着実に具体化していくことが必要です。
経済部記者
新井 俊毅
平成17年入局
北見局・札幌局を経て経済部
現在財務省の取材を担当
経済部記者
白石 明大
平成27年入局
松江局を経て令和元年から経済部
現在金融機関の取材を担当