イスラエルとUAEなど国交正常化もパレスチナ問題解決は見えず

イスラエルとUAEなど国交正常化もパレスチナ問題解決は見えず
アメリカのトランプ大統領の仲介で、長年対立関係にあったイスラエルとUAE=アラブ首長国連邦、およびバーレーンがそれぞれ国交正常化の文書に署名しました。しかし、対立の原因となってきたパレスチナ問題は置き去りにされた形で、解決の糸口は見いだせていません。
イスラエルとUAE、およびバーレーンの代表は15日、ワシントンのホワイトハウスで合意文書に署名しました。

署名式を前に仲介したトランプ大統領は、今後、国交正常化に合意する国が複数出てくるとの期待を示し、イスラエルとアラブ諸国のさらなる関係改善に自信を示しました。

しかし、パレスチナは強く反発していて、暫定自治政府は「合意は地域に平和をもたらさない」と述べて非難しました。

また、ガザ地区を実効支配するイスラム原理主義組織ハマスは、式典に合わせてロケット弾をイスラエル側に撃ち込み、これに対してイスラエルは戦闘機で空爆するなど武力の応酬に発展しました。

今回の合意でイスラエルは過去に直接、戦火を交えたことがない中東のアラブの2か国と関係の改善に乗り出しましたが、対立の原因となっているパレスチナ問題は置き去りにされた形で、解決の糸口は見いだせていません。

トランプ大統領のねらいは

トランプ政権がイスラエルとアラブ諸国との関係改善を積極的に仲介する背景には、大統領選挙でのアピールと中東和平の実現に向けたパレスチナへの圧力、敵対するイランへの包囲網構築といったねらいがあるとみられます。

《外交はねらい目》
トランプ大統領は先月以降、イスラエルとUAE、バーレーンとの国交正常化に加え、イラクに駐留するアメリカ軍の削減やヨーロッパで民族紛争を経て対立を続けてきたセルビアとコソボの交渉の仲介を大々的に発表し、連日の演説でみずからを平和の調停者、「ピースメーカー」と呼んで実績を強調しています。
トランプ大統領としては、大統領が主導しやすい外交安全保障政策で、選挙を目前に控えたタイミングで支持者に訴えかける実績を積み上げ、実行力や指導力をアピールするねらいがあるとみられます。

《保守層へのアピール》
トランプ大統領が外交安全保障の分野で強く意識しているのが、支持基盤としているキリスト教福音派です。
福音派は、アメリカ最大の宗教勢力ともいわれ、ユダヤ人の国イスラエルは「神の意志で建国された」としてイスラエルへの支援を重視しています。
そのイスラエルは1948年の建国以来、パレスチナとこれを支援するアラブ諸国と対立してたびたび戦火を交えてきました。
それだけに、アラブ諸国との対立解消の動きをイスラエルを支援する福音派の人たちは紛争の要因を減らし、安全保障環境を改善させると受け止めて歓迎しています。

《中東和平を後押し》
また、トランプ政権にはイスラエルとパレスチナの対立をめぐる中東和平問題で、パレスチナに譲歩を迫る環境を醸成するねらいもあるとみられます。
トランプ政権は中東和平を「究極のディール」と呼んで独自の和平案を示し解決に取り組んでいますが、和平案がイスラエル寄りの立場を色濃く反映した内容だったため、パレスチナ側が強く反発し事態は進展していません。
このためトランプ政権としては、パレスチナを支援するアラブ諸国に働きかけ、先に対立を解消して関係を改善することで、パレスチナに圧力をかけて譲歩を引き出す戦略とみられます。
トランプ大統領は、11日の会見で「われわれは異なるアプローチをとっている」と述べて、今後もパレスチナに先駆けてイスラエルとほかのアラブ諸国との国交正常化を呼びかける考えを示しています。
ただ、パレスチナ側は強く反発していて、トランプ大統領の思惑どおりに展開するかどうかは現時点では見通せません。

《対イラン包囲網》
さらに今回のイスラエルとアラブ諸国の関係改善には、イスラエルと敵対し、アメリカも中東最大の脅威と位置づけるイランへの包囲網を構築するねらいもあります。
アラブ諸国の中には、イスラム教の宗派の違いなどからイランと敵対関係にある国も少なくなくありません。
アメリカとしては、こうした国とイスラエルとの関係改善を促すことで、イスラエル対アラブ諸国の構図をイスラエルとアラブ諸国対イランの構図へと転換させ、イランを孤立させようとしているとみられます。

専門家「外交成果を自分の手柄に」

大統領選挙に向けたトランプ外交の今後について、米中関係を研究するブルッキングス研究所のジョナサン・ポラック上級研究員は「トランプ大統領は、いわば毎日、実績の宣伝をしている。選挙が近づくにつれてさらに強まるだろう。トランプ大統領は最大限、外交成果を主張し、自分の手柄にするのではないか」と述べ、今後、さらに実績のアピールに力を入れるという見方を示しました。

そして、トランプ大統領が争点に位置づける対中国政策について「大統領の考えは純粋かつシンプルで、政治的に得かどうかで判断している」と指摘しました。
そのうえで、アメリカ国民の間で反中感情が高まっているとして「実際に効果があるかどうかは別にして、象徴的なものであっても、中国に対して圧力を強めるだろう」として、「TikTok」をはじめ中国企業がアメリカ国内で事業を展開できなくしたり、経済面や技術移転の分野で強硬姿勢を取ったりする可能性があるとしています。

「北朝鮮との交渉 大きな動きない」

トランプ大統領が、大統領選挙に向けて外交面での実績づくりに力を入れる中、北朝鮮の非核化交渉で進展を期待できるかどうかについて、保守系のシンクタンク、ヘリテージ財団で東アジアの安全保障問題を研究するディーン・チェン上級研究員は「再び首脳会談を開くような大きな動きは考えにくい」という見方を示しています。

その理由として「核を保有するという北朝鮮の戦略的な目標は変わることはなく、いわば動かない岩のようなものだ」と述べ、北朝鮮側の譲歩が全く見込めないためだとしています。

そのうえで「アメリカ側も北朝鮮に核兵器を持たせないというスタンスは変わらないため、首脳会談というよりは在韓米軍の司令官や北朝鮮問題を担当するビーガン国務副長官など首脳の下のレベルでの発言が大統領選挙までは続くのではないか」として、当面はこう着状態が続くのではないかと分析しています。

ネット上で国交正常化反対の署名活動

イスラエルとUAE=アラブ首長国連邦、およびバーレーンがアメリカの仲介のもと、それぞれ国交正常化の文書に署名したことを受けて、インターネット上ではパレスチナ問題の解決にはつながらないとして、国交正常化に反対する署名活動が行われ、これまでに60万人以上の賛同が集まっています。

この署名活動は、パレスチナ問題を支援する団体らがイスラエルとUAE、およびバーレーンがそれぞれ国交正常化の文書に署名した15日に合わせて、インターネット上で呼びかけたものです。

特設サイトに自分の名前と国籍を入れると、イスラエルとの国交正常化に反対する意思を示す、アラビア語と英語の証明書が発行されます。

署名した人たちがみずからの証明書をSNSなどに掲載して、支援を呼びかけたことなどから、日本時間の16日午後3時現在、アラブ諸国を中心に60万人以上の賛同が集まっていて、広がりをみせています。

元アメリカ政府高官「風穴あけるも和平は遠い」

駐イスラエル・アメリカ大使を2度務め、オバマ前政権でも特使として、イスラエルとパレスチナの中東和平交渉の再開に取り組んだ、マーティン・インディク氏は今回の合意について「イスラエルがアラブ諸国との国交を正常化するための風穴を開けるものだ」として高く評価しています。

その一方で、イスラエルとパレスチナの紛争を解決する中東和平の進展については「パレスチナは後ろ盾としていたアラブ諸国の一部を失うことで裏切りと感じ、孤立を深めている。トランプ大統領は不動産王だった時のようにふるまい、圧力をかけ続ければパレスチナ側が折れて交渉のテーブルにつくと思っているようだが、そうはならないだろう」として懐疑的な見方を示しました。

さらに、イスラエルもパレスチナ側に大きな譲歩をすることなくUAE、およびバーレーンとの国交正常化にこぎ着けられたことから、今後もイスラエルからの歩み寄りは期待できないとしています。

そして、今回の合意で注意を払うべきことについて「署名式の式典にパレスチナがいないことだ。アメリカもパレスチナ側と話をできる状態ではなく、今回の合意はイスラエルとパレスチナの紛争解決には寄与しないだろう」としています。

一方、大統領選挙に向けたトランプ大統領の外交実績については「選挙戦で外交が焦点になることは少なく、むしろ国民の関心は新型コロナウイルスの感染拡大や経済だ」として、選挙戦で有利に働くかどうかは疑問だとの見方を示しています。