105年ぶりに大リーグが来た街

105年ぶりに大リーグが来た街
野球が“ナショナル・パスタイム”、国民の娯楽と言われるアメリカでことし、大リーグのチームが105年ぶりに戻ってきた街がある。しかし、チームの本拠地となることが決まったのはシーズン開幕後というドタバタで、しかも本拠地となるのはことしだけ。いったいどんな街なのか、訪ねてみた。
(アメリカ総局記者・山本脩太)

国境近くの街 バファロー

その街とは、ニューヨーク州北西部にあるバファロー。

ヤンキースとメッツが本拠地を置くニューヨークと同じ州内ではあるが、摩天楼がそびえ立つマンハッタンからは遠く離れた、カナダとの国境に近い街だ。人口は25万ほどで、観光名所ナイアガラの滝のアメリカ側の玄関口となっている。
ニューヨークから飛行機で約1時間。バファローの空港に着くと「ようこそナイアガラの街へ」という看板が迎えてくれた。北米4大プロスポーツのうちアメリカンフットボールのNFLでビルズ、アイスホッケーのNHLではセイバーズの本拠地となっていて、スポーツが盛んな街としても知られている。

このバファローを大リーグで今シーズンだけ本拠地とするのがトロント・ブルージェイズ。プロ野球のDeNAや巨人で活躍し、ことし大リーグ1年目の山口俊投手が所属している。
ブルージェイズはカナダのトロントが本拠地なのだが、カナダ政府が今シーズン、トロントでの試合開催を認めなかった。

理由は「新型コロナウイルスの感染拡大防止」だ。

“わが家”で試合ができなくなったブルージェイズはアメリカのピッツバーグにあるパイレーツの本拠地球場を間借りする案を模索したが、これも開幕前日の7月22日にペンシルベニア州が受け入れ拒否を発表。そこで急きょ浮上したのが、トロントから車で1時間半ほどのバファローにある傘下のマイナーリーグのチームの球場を本拠地とするプランだった。

悲願だった大リーグ誘致

その球場「セーレン・フィールド」はブルージェイズ傘下のトリプルA、バイソンズの本拠地で、2013年から3年間、川崎宗則選手もプレーした。
1988年に開場した球場はそもそも当時バファローに大リーグの新球団を誘致しようと建てられたため、両翼99メートル、センターが123メートルと十分な広さがある。

バイソンズによると、開場当初はマイナーリーグでは異例の年間100万人の観客動員を6年続けて達成するなど街は大いに盛り上がったそうだ。しかし1990年代のエクスパンションで大リーグに新たに加わったのはフロリダ・マーリンズ、コロラド・ロッキーズ、タンパベイ・デビルレイズ(当時)、それにアリゾナ・ダイヤモンドバックスの4球団。バファローの夢はかなわなかった。

1世紀以上前 街には大リーグが

実は、昔はバファローに大リーグの球団があった。
今からおよそ140年前、1879年から7シーズン、今のチームと同じ名前の「バイソンズ」が大リーグの前身のナショナルリーグに参加。また1910年代にはアメリカンリーグとナショナルリーグに続く大リーグの“第3のリーグ”連邦リーグにバファローを本拠地とするチームが参加していた。

しかし1915年のオフに連邦リーグが解散し、この年を最後にバファローから大リーグのチームはなくなってしまった。

それから実に105年。
コロナ禍でブルージェイズを襲った本拠地をめぐるドタバタは、バファローにとってはまたとないチャンスだった。1世紀以上なかった大リーグのチームが街にやってくるという話を持ちかけられたバファロー市はすぐに了承し、7月24日には“移転”が決定。すでにシーズンは開幕していたが、新しい本拠地球場のお披露目となる8月11日に向けて改修工事が始まった。

球場は急きょ大改修

開場から30年以上たった球場を急きょ大リーグ仕様にするため、工事は多岐にわたって行われた。テレビ中継に対応できるよう照明設備を新しくし、内野の芝も張り替えた。
ロッカールームは、社会的距離を保てるよう一人一人の間隔を確保。そして何より、球場の至る部分をブルージェイズのチームカラーの鮮やかな青色に一新した。
およそ2週間の突貫工事で、球場はどこか懐かしい雰囲気を残しながら見違えるほど生まれ変わった。新型コロナで今シーズンは無観客での開催のため、残念ながらスタンドで観戦することはできないが、それでもバファローの人たちにとっては特別な出来事だ。
私が訪れた9月7日は、ブルージェイズとヤンキースとの試合が行われていた。
球場の目の前にあるパブは地元の人たちでにぎわっていた。ビールジョッキを片手にテレビ中継で試合を見ていた市民は「間違いなくバファローにとって歴史的なことだ。100年以上前にここに大リーグがあったことはずっと語り継がれてきたし、こうして今ブルージェイズの試合が行われることを誇りに思う」とうれしそうに話してくれた。

目指すは27年ぶりの世界一

短期決戦の今シーズンはもう終盤に入ってきたが、9月14日現在、ブルージェイズはアメリカンリーグ東部地区で2位につけている

開幕当初は苦しんでいた山口投手も安定したピッチングが続くようになり、大リーグ初勝利をつかんだ。昨シーズン67勝95敗と大きく負け越し地区4位に終わったチームは生まれ変わったように快進撃を続け、特に本拠地では12勝7敗と好調。4年ぶりのプレーオフ進出が十分狙える位置にいる。

この快進撃の要因の1つがバファローの球場にあると教えてくれたのは、20年近くこの球場に通っているというバイソンズのアンソニー・スプラーグゼネラルマネージャーだ。
バイソンズ アンソニー・スプラーグ GM
「ブルージェイズの選手の多くは若手の時にここでプレーしていた。皆この球場に慣れていることが大きなアドバンテージになっている。他チームの選手は初めてでやりにくそうに見える。この調子を維持してプレーオフに臨んでほしいし、世界一になったら最高だね」
ブルージェイズは9月21日からシーズン最終戦の27日までバファローで、同じ地区のヤンキース、オリオールズとの7連戦が予定されている。コロナ禍で105年ぶりに街にやってきた大リーグチームが、市民の後押しでプレーオフ進出を本拠地で決めるのか。今シーズンはバファローでの試合から最後まで目が離せない。
アメリカ総局

山本脩太

2010年入局
スポーツニュース部でスキー、ラグビー、陸上などを担当し2020年8月からスポーツ担当としてアメリカ総局へ。
異動後、初めての出張が今回のバファロー。