介護が必要なコロナ感染者 新システムで入院の迅速化へ 札幌

介護が必要なコロナ感染者 新システムで入院の迅速化へ 札幌
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ことし4月、札幌市の介護施設で新型コロナウイルスの集団感染が発生し、12人の入所者が入院先が見つからないまま施設で亡くなりました。市はこれを教訓に、介護が必要な感染者の受け入れ可能な病院を迅速に把握して速やかな入院につなげていくシステムを整備しました。
札幌市ではことし4月、介護老人保健施設で集団感染が発生し、市が入院先を確保できないまま、12人の入所者が施設内で死亡しました。

この問題を教訓に札幌市は、札幌医科大学と札幌の企業が共同で開発した情報システムを整備しました。

システムは市内の15の病院が参加し、それぞれの病院で介護を必要とする感染者を何人受け入れられるかが画面を見るだけですぐに把握できます。
情報は毎日朝と夕方に更新されます。

システムを整備する前は、市の担当者が受け入れられそうな病院に直接電話をして交渉していました。

しかし治療と看護だけでなく介護も必要となるため、病院から「負担が大きい」と断られたり、判断に時間がかかったりするケースも少なくなく、入院先の確保に時間と人手がかかっていました。

開発の中心となった札幌医科大学の上村修二講師は「その日に何人が受け入れられるのかという数字を把握することで、入院調整は非常にスムーズにいく。システムによって迅速な入院につなげたい」と話しています。

システム整備の背景に 17人死亡の集団感染

新型コロナウイルスで最も気をつけなければならないことの1つが、介護施設での集団感染です。

高齢者は重症化のリスクが高く、さらに施設では共同生活を送っていることから、ひとたび感染が広がると病院での治療が必要な人が相次ぐおそれがあります。

札幌市ではことし4月、介護老人保健施設「茨戸アカシアハイツ」で介護施設としては国内最大規模の集団感染が起きて入所者71人が感染し、このうち17人が死亡しました。

17人のうち12人は病院に入院することなく施設内で死亡し、遺族などからは重症化のリスクが高い高齢者を施設内にとどめ続けた札幌市の対応に疑問の声が上がりました。

市の対応の背景には、当時新たな感染者が1日に20人を超えるペースで確認され、市内の病院のベッドがひっ迫していたことがあり、システムは同じ事態を防ごうと整備されました。

具体的には、感染が拡大する前から、介護を必要とする感染者をどの病院が何人受け入れられるのか、入院の調整にあたる札幌市が常に把握できるようにしたうえで、システムに参加する病院にもほかの病院の受け入れ態勢を把握できるようにし、集団感染で1度に多くの感染者が出たとき、入院先の確保に向けた病院どうしの連携を促そうとしています。

札幌市ではことし4月、一般の感染者の入院先を迅速に確保するためのシステムを独自に導入していましたが、介護を必要とする高齢者が受け入れられるかどうかの項目はなかったということで「茨戸アカシアハイツの教訓を確実に生かしたい」と話しています。

相次ぐ 高齢者施設での集団感染

重症化するリスクの高い高齢者。
国は、高齢者施設での感染対策を重点項目の1つに掲げています。

厚生労働省によりますと、高齢者施設での集団感染は今月14日の時点で、少なくとも合わせて170件発生しています。

高齢者を守るための具体的な対策の1つは「検査の拡充」です。

政府の対策本部は先月28日、クラスターが発生している地域などで、高齢者施設の入所者や職員に対し、定期的な検査を実施する方針を示しました。

感染者が速やかに入院できる体制作りも自治体に求めてきました。

そこでポイントとなるのは、病床の確保と速やかな調整です。

病床の確保について厚生労働省は「高齢者は症状の程度に限らず入院が原則」として、都道府県に対し、施設での集団感染を想定して準備するよう求めています。

しかし介護が必要な高齢者をすぐに受け入れられる医療機関を速やかに「把握」し「調整」を行うことは、多くの自治体で課題になっているということです。

札幌市の新たなシステムについて厚生労働省は「迅速な入院につなげるための有効な取り組みで、他の自治体の参考にもなるのではないか。介護が必要な人の入院には通常より多くの人手が必要になることもあるので、自治体は余裕を持って病床を確保してほしい」としています。