おばあちゃん ラジオと話す

おばあちゃん ラジオと話す
「兄弟や子ども、孫たちに会えなくなった」
「日中はラジオと話しています」
「目の前が真っ暗です」

コロナ禍での悲痛な声が、東日本大震災の被災地から私たちの元に寄せられました。

(仙台放送局・井上浩平、野島裕輝、佐藤惠介、藤家亜里紗、
 盛岡放送局・市毛裕史)

訪れる人がいなくなり…

夫を亡くし、宮城県多賀城市の災害公営住宅に1人で暮らす斉藤みさ子さん(88)の部屋には、これまで月に数回、ボランティアの若者や友人が訪れてお茶をしたり、同じ市内に住むめいなどが遊びに来たりしていました。

しかし新型コロナウイルスの感染が拡大したことし3月以降、訪れる人はほとんどいなくなりました。

また斉藤さんも、感染を恐れて最低限の買い物や通院以外の外出を控えていて、最近は体重が増え、けがをしていた足の状態も悪化したということです。
斉藤みさ子さん(88)
「一日中ラジオを聴いて独り言を話しているため、孫からは、
 『おばあちゃんはラジオと話している』と
 言われるようになった。
 家に友達を招きたいけど、今の状況では誘えず、
 めいも来なくなってさみしい」

「交流減った」7割

私たちが取材している宮城県と岩手県では、高齢者の孤立が以前にも増して深刻になっているところがあります。

東日本大震災で家を失った人が住む、災害公営住宅です。この住宅には、壊れた自宅を新築するための住宅ローンが組めなかったり、震災を機に息子や娘の家族と別居したりした高齢者が多く住んでいます。
そこに新型コロナウイルスの感染拡大という波が押し寄せ、生活がどうなっているのか、大規模なアンケート調査を行ったところ、斉藤さんのような悲痛な声が次々と寄せられたのです。

宮城、岩手の1469人から回答を得たアンケート結果です。
Q 新型コロナは日常生活にどのような影響を与えていますか?

 交流が減った   67%
 収入が減った   23%
 伝承活動が出来なくなった  12%
 仕事や生活再建が遅れた    5%
(回答率35%)
「交流が減った」という回答が、実に7割近くに上りました。

『孤立死』宮城だけで18人以上

顔を合わせる機会が大幅に減り、誰にもみとられずに孤立死する人も相次いでいました。
宮城県名取市高柳地区にある災害公営住宅では8月中旬、80代の女性が亡くなって10日以上たった状態で見つかりました。複数の住民から「異臭がする」という声が上がり、警察と市の担当者が室内を確認したところ、トイレの中で死亡していたということです。この住宅が3年前に完成して初めてとなる、孤立死でした。

この災害公営住宅には50世帯が住んでいますが、その6割が、1人暮らしの高齢者です。このため自治会は、お茶会などのイベントを開いて交流を図ってきましたが、ことし4月以降、すべて中止になり、入居者どうしで顔を合わせる機会が激減していたということです。
団地の自治会の松浦正一会長
「入居者どうしのコミュニケーションが異常に減ってしまっていた。今後また孤立死が起きることがないよう、日頃からお互いに声かけを強化していかなければならない」
NHKが宮城県内沿岸の15自治体に取材したところ、ことし4月以降、少なくとも18人が孤立死していたことが分かりました。

自治体ごとに見ると、石巻市で13人、名取市で2人、多賀城市と南三陸町、それに亘理町でそれぞれ1人でした。

交流の場も

災害公営住宅だけではありません。被災した人や全国の支援者らの交流の場も激減しています。
津波で大きな被害を受けた石巻市にあるライブハウス「BLUE RESISTANCE」は、被災地ににぎわいの場をつくろうという音楽関係者たちのプロジェクトによって、震災の1年後にオープンしました。店の壁には、その思いに賛同した人気アーティストや音楽関係者、それにファンなどの名前が書かれた、およそ2500枚の木札が貼られています。
これまで県内外のバンドやアーティストがライブを行い、石巻を活気づけてきましたが、ことしは新型コロナウイルスの影響で50以上の公演が中止となりました。

中止となったものの中には、復興支援で訪れたアーティストが毎年、行っていたライブもあったということです。店も、人件費や家賃など、およそ70万円の固定費がかさんで、赤字状態が続いています。
店長の黒澤英明さん
「人が集まるということが、復興に向けてすごい力になっていると感じていた。石巻に来た音楽ファンは、被災地でいろいろなことを感じてくれていたが、今はそれもできない」

オンラインで交流の場を

一方、交流を続けるための模索をしているところもあります。岩手県のNPO法人「カリタス釜石」はことし9月、災害公営住宅の被災者たちと結んでオンライン交流会を開きました。
集会所に設置されたスクリーンにボランティアの顔が映し出されると、お年寄りからは笑顔がこぼれ、互いに近況について語り合っていました。津波で夫を亡くした80歳の女性は「もう会いたい会いたいと思っていた人たちで、本当にきょうはうれしかったです」と話していました。

この団体は新型コロナウイルスの影響で3月以降、見守り活動ができておらず、活動再開の見通しも立っていません。このためこのNPOでは今後、オンラインでの交流を増やしていくことにしています。
カリタス釜石スタッフ 久保寛人さん
「直接顔を見て話をすることができてよかった。
こういうコミュニケーションが取れる場を持続していかなければと思っている」

専門家は

被災者のコミュニティー作りに詳しい東北工業大学の新井信幸准教授は、コロナ禍での新たな交流や見守りの在り方を試す時期だと考えています。
東北工業大学准教授 新井信幸さん
「部屋に籠もるようになって、体調が悪化したという高齢者も多い。交流をなくしていくと、心身共に衰えが早まったり、住民とよりコミュニケーションがとれなくなったりしてしまう。オンラインでのやり取りの方法を高齢者に教えるなど、多様な取り組みを試す期間にしてほしい。新たな活動様式が定着すれば、コロナが収束したあとも孤立を防ぐコミュニティーが出来上がっていく」
新型コロナウイルスでより深刻化しているお年寄りの孤立は、いまや被災地だけでなく、全国どこでも起きうる問題です。

感染リスクを抑えた新たな交流を見つけ、それを広めるためには住民や行政、ボランティアなどの連携が欠かせないと思います。
仙台放送局 記者

井上浩平

2004年入局
北見局、社会部などを経て今は
仙台局で震災の取材キャップを務める
仙台放送局 記者

野島裕輝

2014年入局
初任地の秋田局で警察や司法を担当後、
仙台局に赴任。災害公営住宅が取材テーマ
盛岡放送局 釜石支局 記者

市毛裕史

2015年入局
佐賀局を経て18年8月から釜石支局
被災地の釜石市や大槌町を担当
仙台放送局 石巻支局 記者

佐藤惠介

2016年入局
石巻で震災や水産のほか、得意の英語力を
生かした外国人の労働問題も取材
仙台放送局 記者

藤家亜里紗

2019年入局
入局して半年で台風19号の被災地に。
災害や事件事故取材に奮闘