どうなっているの? 消費税減税

どうなっているの? 消費税減税
「期限を区切ってでも減税するべきではないか」「社会保障費の財源になっていることを考えなければならない」…。新型コロナウイルスの感染拡大で経済が急速に落ち込む中、日本では消費税をめぐってさまざまな意見が出ています。

一方、海外では、ドイツやイギリスなど一部の国が相次いで消費税の減税に踏み切りました。これらの国では景気を立て直す効果は出ているのでしょうか?日本での議論のポイントとは?
(ロンドン支局記者 栗原輝之/アジア総局記者 影圭太)

期間限定で減税のドイツでは

新型コロナウイルスで経済に深刻な打撃を受けたヨーロッパでは、日本の消費税にあたる付加価値税を引き下げる国が相次いでいます。

このうち経済規模がヨーロッパ最大のドイツは、7月1日に実施に踏み切りました。12月31日まで半年間の限定措置で、税率を通常の19%から16%に。日本と同じ軽減税率になっている食料品などは、税率が7%から5%になりました。
減税で注目を集めたのが高額商品です。税率引き下げの初日、首都ベルリンにある自転車店の地下室は、注文を受けた自転車であふれていました。
この店が販売しているのは、1台1000ユーロ(日本円で12万5000円)を超える高級自転車。税率が3%分引き下げられるだけで消費者の負担は少なくとも数千円軽くなります。このため、あらかじめ注文だけしておき、減税の実施を待って支払おうという客が増えたのです。

6月まで前年同月比で2桁のマイナスが続いていた自動車の販売台数も、7月にはマイナス5.4%まで回復しました。消費者へのアンケートを通じて購買意欲をはかる「消費者信頼感指数」は、7月の調査で大幅に改善。減税への期待が強いと分析され、早速、経済全体に効果が広がることへの期待が高まりました。

経済の押し上げ効果は?

ところが、その後の指標は芳しくありません。9月2日に発表された7月の小売売上高は、期待に反し、前月比でマイナス0.9%に。減税によって高額商品を買う動きはあったものの、消費全体を押し上げるには至っていないことを示しました。さらに8月になると、感染再拡大への懸念を背景に消費者心理は再び悪化。自動車の販売台数も大きく落ち込みました。

新型コロナは経済活動に甚大な打撃を与えたうえ、感染の再拡大をめぐる状況なども景気や消費者心理に大きく影響します。このため、付加価値税の減税だけの効果を推し量ることは簡単ではありません。
ドイツの大手調査会社GfKで消費者調査にあたるロルフ・ビュルクル氏は、減税に効果はあるという立場ですが、「最終的な判断は買い物が活発になるクリスマスシーズンまで見極めるべきだ」と話しています。

また、減税の期間が終わると反動で消費が冷え込むリスクがあるとして、消費を本格的に活発にするには、減税と同時に雇用環境の改善も欠かせないと指摘しています。
ビュルクル氏
「個人消費の土台にあるのは力強い労働市場だ。仕事を失うおそれが減れば消費者はお金を使うようになる。消費拡大に重要なのはこの点で、雇用を増やしていかなければならない」

日本ではさまざまな言及

同じように経済が急速に落ち込んだ日本。法制度が違い、ヨーロッパのように簡単に税率が変更できる仕組みにはなっていませんが、それでも消費税をめぐってさまざまな意見が交わされています。
野党の中では減税を求める声が根強く、合流新党として発足した立憲民主党の枝野代表は代表選挙の際の討論会で「与党と合意ができ、経済効果があるものなら、時限的な減税とし、税率は思い切ってゼロだ」と述べました。
一方、政府・与党の間では、一部の議員に減税を求める声があるものの、全体としては減税には否定的です。
西村経済再生担当大臣は、8月末の国会審議で、景気の下支え策として期間を区切っても減税すべきではないかと問われたのに対し、「消費税は社会保障財源にあてられることになっていて、幼児教育と保育の無償化の財源になっていることを頭に置かないといけない」と述べました。

政府・与党の中で、消費税率の変更が、今、具体的に議論されているわけではありません。ただ、このように消費税をめぐる発言は相次いでいて、今後、議論が活発になっていくことが予想されます。

議論のポイントは?

今後の議論を見る上では、何をポイントに考えるべきなのでしょうか。

慶應義塾大学経済学部の土居丈朗教授は、減税に反対の立場から次のように指摘します。
土居教授
「減税すれば社会保障の財源に穴があき、社会保障制度の持続可能性が危うくなる。赤字国債の発行が一段と増え、すでに未曽有の規模に達している政府債務残高をさらに増やすことになり、財政再建がより厳しくなる」「時限的に減税しても、終了時には事実上の『増税』を行うことになり、消費が減少する要因を人為的に作ることになる。消費を不必要に増減させることになる」
一方、“1つの政策手段としてはありうる”と肯定的な立場をとる、東京大学大学院の星岳雄教授は次のように話しています。
星教授
「減税をすれば税収が減る可能性が高いので財政は短期的には悪化する懸念はある。ただ、今の経済は極めて厳しい状況であり、財政を出し惜しむべきではない。例えば税率を半年の間、2%引き下げる場合、税収は単純計算で2兆円余り落ち込むが、一律10万円給付にかかった13兆円と比べても巨大な金額ではない」「時限的な減税が終わったあと、消費は減少することになるが、将来の消費を今に持ってくるのがねらい。そこまでして支えないといけないくらい今の経済が厳しい状況にあると認識すべきだ」

今後はどうなる?

将来の負担を増やしても今の経済を支えるべきなのか、将来の負担を増やすのを避けるべきなのか。消費税を巡っては専門家の間でも意見が分かれています。

しかし、減税に肯定的な星教授も1つ注意すべき点があると加えました。
星教授
「問題は何を目的に減税をするかだ。減税は全体で見れば消費にはプラスになるが、減税して消費を増やせる人は、十分に所得がある人になる。コロナの感染拡大の影響で所得が減り、困っている人には減税しても恩恵は少ない」
消費税が日本で導入されてから30年余り。これまで、時限的かどうかを問わず、税率が下がったことはありません。減税すべきか増税すべきかだけを目的化せず、誰をどう支えていくのか、そのためにどんな政策が必要なのか、その議論を深めていくことが必要なのだと思います。
ロンドン支局記者
栗原 輝之
平成11年入局
経済部などを経て現在は
ヨーロッパの経済を担当
アジア総局記者
影 圭太
平成17年入局
経済部で金融や財政の取材を担当し
ことし夏からアジア総局