コロナで「偽りの自主退職」に 外国人技能実習生の相談相次ぐ

コロナで「偽りの自主退職」に 外国人技能実習生の相談相次ぐ
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日本で働く外国人技能実習生から、新型コロナウイルスの影響で解雇されたのに、みずから希望して退職したことにされたという相談が、支援団体に相次いでいることがわかりました。厚生労働省は、実態の把握を進めるとともに対策を検討する方針です。
厚生労働省によりますと、新型コロナウイルスの影響で企業から解雇された外国人技能実習生は、把握できただけで先月の時点で3104人に上っています。

一方で、国が把握できた以外にも、仕事を失った実習生から、解雇されたのに、みずから希望して退職したことにされたという相談が、支援団体に相次いでいることがわかりました。

中には働き続けたいと会社の担当者に訴えたものの、3時間以上、自己都合での退職に同意するよう迫られたという相談もあります。

支援団体では、相談につながったのは一部にすぎないとみています。

厚生労働省は実態の把握を進めるとともに対策を検討する方針です。

国はことし4月、解雇された実習生を支援するため、制度上認めていなかった別の業種への転職を認め、最大1年間働くことができる特例措置を始めました。

法務省によりますと、実習生が自己都合で退職した場合は特例措置の対象ではありませんが、新型コロナウイルスの影響で仕事を失ったなどと確認できれば転職を認めているということです。

しかし、支援団体によりますと、日本語をうまく話すことができない実習生も多く、自己都合での退職ではないと証明することは難しいということで、仕事を失った実習生をどのように支援していくのかが課題となっています。

「自己都合退職」とされた実習生 帰国できず 新たな仕事も難しく

「自己都合での退職」とされた外国人技能実習生は、帰国できないうえ、新たな仕事を見つけることも難しく、大きな不安を抱えています。

ベトナム人のカオ・バン・ソンさん(27)は去年10月に外国人技能実習生として来日し、都内のビルメンテナンス会社で働いていました。

会社の寮で暮らしながらホテルのベッドメイキングなどを担当していました。

しかし、ことし3月から新型コロナウイルスの影響でホテルでの仕事が減り始め、会社の寮で待機する日が続きました。

ソンさんは、実習生として来日するためベトナムで旅費や入国手続きなどにかかる費用としておよそ100万円の借金をしました。

こうしたことなどから会社に日本で働き続けたいと訴えました。

しかし、ことし5月には、会社から「私は母国で日本語の能力向上を目指すため帰国する」などと書かれた書面を示され、みずからの都合で退職するよう迫られたといいます。

ソンさんは、会社の担当者に囲まれて3時間にわたって説得されたため、書面にサインせざるをえなかったと話します。

ソンさんは仕事と住まいを失ったあと、都内の支援団体「NPO法人日越ともいき支援会」に保護され、先月から同じように保護されたベトナム人と一緒に暮らしています。

国は、ことし4月から新型コロナウイルスの影響で解雇された実習生の在留資格を「技能実習」から切り替えて、農業や介護など14の業種で働くことができるようにしました。

この特例措置で、最大で1年間、日本で働くことができます。

ただ、ソンさんのように実習生自身の都合で退職とされた場合は、特例措置の対象ではありません。

このため支援団体では、国に対して、ソンさんがみずからの意思で退職したわけではないと説明し、新たな会社で働くことができるよう手続きを進めています。

ソンさんは、「借金があり、年老いた両親がいるので、今、帰国したいわけがないのに自分の都合で辞めたとされて、本当に悔しいです。支援団体につながることができなければどうすればいいかわからなかったので、今は本当に安心しています。新しい仕事に就いて働きたいです」と話しています。

「NPO法人日越ともいき支援会」の吉水慈豊代表は「本人が仕事を続けたいのに会社に自己都合の退職に追い込まれるケースが多いです。新たな仕事が見つかるようにできるかぎり支援していきたい」と話しています。

受け入れ先の会社「本人が帰国希望で退職届受理」

ソンさんが技能実習生として働いていた都内のビルメンテナンス会社は、NHKの取材に対して「本人が帰国したいというので退職届を受理した。今後の生活のための資金と退職後も会社の寮の部屋を提供していたが、本人の希望で支援団体に頼るということなので、その後の対応は任せている」と話しています。

在留資格切り替えの特例措置 専門家「簡単なことでない」

外国人の労働問題に詳しい神戸大学の斉藤善久准教授は、企業が外国人技能実習生を「自己都合の退職」とする背景について、今後、新たに実習生を受け入れる時に国の審査が厳しくなる可能性があることや、トラブルを避けたいという意図があるのではないかとみています。

法務省出入国在留管理庁はNHKの取材に対して、「自己都合での退職という届け出があった場合でも、実質的には新型コロナウイルスの影響で解雇されたと確認できれば、特例措置で在留資格を切り替えて別の会社で働くことはできる」としています。

しかし、斉藤准教授は「国がひとつひとつのケースを把握することは難しく、実習生が自己都合の退職ではないと証明できないかぎり在留資格の切り替えはできないのが実態で、それは簡単なことではないと思う。結局、実習生は転職の機会を失ってしまう」と指摘します。

そのうえで、「日本社会がどれだけ外国人に依存しているかは、コロナ禍でより顕在化した。国が全面的に出て、仕事を失った実習生を保護したり、新しい仕事へのマッチングをしたりするべきだ。それが財政上、難しいのであれば、別の会社で働きやすくするなど柔軟な対応をすべきだ」と話しています。