雇用と賃金 統計が示す2つの事実 新たな課題は?

雇用と賃金 統計が示す2つの事実 新たな課題は?
2012年12月に発足した第2次安倍政権は「アベノミクス」と呼ばれる一連の経済政策を打ち出し、雇用情勢は大きく改善したとされています。
一方で、市民の暮らしは楽になっていないという声も根強く聞かれます。
雇用統計から言えることは「どちらも事実」。データから新たな政権の課題を見ていきます。

求人倍率と失業率は改善

安倍政権の7年8か月で大きく改善したのが有効求人倍率です。

仕事を求める人1人に対して、企業から何人の求人があるかを示します。政権発足時の2012年12月には0.83倍でしたが、おととしには1.63倍に上昇し、およそ45年ぶりの高水準となりました。完全失業率も改善しました。

2012年12月には4.3%だったのが去年11月には2.2%に低下。1992年10月以来の低水準となりました。

新たな雇用も

背景にあるのは新たな雇用の増加です。企業などで雇われて働いている人=「雇用者」のうち役員を除いた数は、去年、5669万人と、比較可能な2013年と比べて400万人以上増えました。

半分以上が非正規

ただ、その詳しい内容を見ると違う面も見えてきます。

新たに増えた「雇用者」の半数以上は、パートやアルバイト、契約社員などの非正規労働者でした。「雇用者」のうち、非正規労働者が占める割合は年々高くなる傾向にあり、去年は38.2%と比較可能な2013年に比べて3ポイント高くなりました。

賃金データも↑↓両面が

賃金のデータからも同じく両面の事実がうかがえます。

政府はデフレからの脱却を図るためには賃金の引き上げが欠かせないとして繰り返し経済界に賃上げを要請してきました。

こうした中、2014年からことしまで春闘での賃上げ率は7年連続で2%台となり、政府の要請を受けた「官製春闘」とも呼ばれました。

また、最低賃金についても政府は全国平均で時給1000円を早期に達成するという目標を掲げ、去年まで4年連続で3%台の大幅な引き上げが行われました。

厚生労働省がまとめている働く人1人あたりの給与総額は去年までの7年のうち5年で前年比プラスとなりました。

ところが、物価の変動分を反映した実質賃金で見てみると、逆の結果に。去年までの7年のうち5年で前年比マイナスとなっています。

賃金の額は上がったものの、物価の上昇などに追いついていないのです。

「暮らしは楽になっていない」という多くの人の実感は、統計データからも裏付けられています。

コロナ影響でかげりも

そして、今、雇用統計には新型コロナウイルスによる深刻な影響が出始めています。

有効求人倍率は1.6倍を超えていたものが、ことし7月には1.08倍まで低下。

企業などで働く「雇用者」も減少に転じ、ことし7月まで4か月連続で去年の同じ月との比較でマイナスとなりました。

とくに顕著なのが非正規労働者の減少で、しわ寄せが立場の弱い非正規労働者に真っ先に及んでいることを示しています。

完全失業率も年平均で去年は2.4%という低い水準となっていましたが、ことし7月は2.9%と増加していて、さらなる悪化も懸念されています。

賃金にも深刻な影響が出ていて、給与総額はことし7月まで4か月連続で去年の同じ月を下回りました。

とくに娯楽業や宿泊業、飲食サービス業などでは労働時間が短くなり、残業代などが大幅に減少しています。

最低賃金の引き上げ額も去年は全国平均で27円でしたが、ことしはわずか1円となりました。

雇用や賃金にどこまで影響が広がるのか不透明な中、改善への道筋をつけられるのか。新たな政権では難しいかじ取りが求められます。

賃金上がれど生活は改善せず

統計データによりますと、「業績は上がったけれど社員の暮らしにまでは恩恵が及んでいない」という企業が多いとみられます。

東京 武蔵村山市の機械加工業「平田精機」はそうした企業の一つ。

およそ20人の社員が大手メーカーからの受注を受け精密機械の部品などを加工しています。

会社によりますと、アベノミクスの影響などで大手から安定して仕事を請け負うことができたということで、中小企業向けの国の補助金を活用した設備投資も積極的に行いました。ここ7年、業績は好調で、社員の給料も上げてきました。

ところが、社員の暮らしが上向いたわけではないといいます。

社会保険料の負担増や消費税の増税などに給料の増加分が追いついていないということで、実質的な賃金上昇には至っていないのです。

42歳の男性社員は「給料は確かに上がっているがその分、負担も増えている。子どもにかかる支出も多く、結局、就職したときから実質的な給料は変わらず生活が楽になったという感じはしない」と話しています。

ことしに入ってからは、新型コロナウイルスの影響があるため、会社の先行きは不透明です。
藤元佳子社長は「社員は会社にとってなくてはならない存在でなんとか生活を改善させてあげたいが先行きも不透明で難しい。社会保険料の増加は会社にとっても負担だが、経営者にはどうすることもできない問題で、どうすればいいか常に頭を悩ませている」と話しています。