広がる? “ホテル避難” ~台風10号 最大級警戒の現場では~

広がる? “ホテル避難” ~台風10号 最大級警戒の現場では~
特別警報の可能性とともに最大級の警戒が呼びかけられた今回の台風10号。自治体の避難所に向かう人が多くいた中で、別の避難先として注目されたのがホテルなどの宿泊施設です。記録的な台風の被害や、新型コロナの心配などから、九州などでは早くから宿泊予約が相次いでいました。一方で、SNSには「安易な」ホテルへの避難に警鐘を鳴らす意見も。“ホテル避難”、これから広がっていくのでしょうか。(ネットワーク報道部 野田綾 出口拓実/社会部 金倫衣)

「ホテルに避難」の投稿

気象庁と国土交通省が異例の合同会見を開き、「最大級の警戒」と「早めの対策」を呼びかけた今回の台風。SNS上ではホテルへ避難した人たちの投稿が多く見られました。
「コロナ影響で避難所も受け入れ制限があるみたいなので、ホテル避難してきて正解」
「ビジネスホテルへ避難しました。結構な出費ですが、足腰の弱った母には避難所の体育館は厳しいですからね」
「ホテルは頑丈、静かに眠ることができた」
「今回初めてのホテル避難だったけど、今後も年々台風の被害がひどくなるならば選択肢としてありだな」
中には「Go Toトラベル」を利用したという人もいたようです。

ホテルでは予約が殺到

前例にないほどの厳重な警戒の呼びかけが繰り返される中、台風の進路にあたる地域のホテルには、住民からの宿泊予約の電話が殺到していました。
宮崎県日南市の「ホテル日南北郷リゾート」では、高齢者や子ども連れ家庭などの予約が相次ぎ、101ある客室が数日のうちに満室に。

急きょ宴会場も開放し、寝具や歯ブラシなどの備品、食事を各自で用意してもらったうえで、およそ30人を受け入れました。
宴会場の料金は大人1000円、子ども500円にしたということです。
鹿児島県志布志市の「ホテルポラリス」でも、73室が今月2日にはすでに満室になっていました。これまでの台風や大雨と比べ、10倍ほどの電話があったといいます。

志布志市のホテルの担当者は、「高齢の宿泊者からは、自宅よりも頑丈な建物なので、安心して眠ることができたと言ってもらえました。地域住民の方々に災害時に安心して過ごしてもらえる場になれてよかったと感じています」と話していました。

国や専門家も活用呼びかけ

広がりを見せた“ホテル避難”。実は、国や専門家は以前から呼びかけをしていました。

日本災害情報学会は、ことし5月に発表した提言の中で、新型コロナウイルスを念頭に「避難とは難を避ける行動のことで、避難所に行くことだけが避難でありません」とし、「在宅避難」や、親戚や知人の家、それにホテルなどの活用を提案しています。
また、国も災害時の新型コロナウイルスの感染対策として、ホテルなどの宿泊施設を避難所として活用するよう自治体に求め、ことし6月までに全国1254の宿泊施設が都道府県に協力を申し出ています。

ホテルなら安心?

ただ「ホテルに行けばすべて安心」というわけではありません。

台風の影響で、ホテルも断水や停電が発生するおそれはあります。今回話を聞いた志布志市のホテルでも、7日午前1時からおよそ5時間半にわたって停電が発生しました。自家発電はありますが、非常時の非常灯とスプリンクラーに使用する分しかまかなえず、客室の空調やエレベータなどは止まってしまいました。

また、人員の面でも、災害時の対応には不安が残るといいます。
ホテル支配人
「限られた従業員で災害時に十分な対応ができるか不安はあります。高齢の方の利用を考えると、介護や応急処置の知識のある従業員が必要だと思いますが、なかなか人材の確保が難しいということが課題です」

“慈善事業じゃない”

またSNS上では、「安易な」ホテルの利用を問題視した現役のホテル従業員の投稿も話題となっています。
「テレビで安易に宿泊施設が避難所になると紹介しないでください。避難所となるのは事前に自治体と取り決めをした極々一部の施設です。定められていない宿泊施設に「避難しに来ました」と来られてもそれは普通の宿泊です。通常料金を徴収します。避難所についてはご自身で確認ください」
2万回以上リツイートされたこの書き込みの投稿者は中部地方のホテルに勤める「ホテルマンの現実」さん。連絡をとってみると、投稿の背景には、過去の災害でホテルに来た住民から「避難に来たのに金を取るのか!」などと無料のサービスを要求された経験があったそうです。
ホテルマンの現実さん
「世間的には災害時、ホテルが緊急的に避難者を受け入れた美談のイメージがあって、新型コロナウイルスでも軽症者の宿泊療養を行うなど、行政と組んで対応している印象が強くなっています。サービスのプロを自負していますが、特別な災害対応の教育を受けているわけではなく、行政サービスのように無料のサービスとして頼られては困るのです」
「料金を支払った利用客には最善を尽くす」という前提のもと、ホテル業も営利企業であることを忘れないでほしいということ、また非常時のライフラインなどをすべてまかなえるわけではないことを理解してほしいと言います。
ホテルマンの現実さん
「行政には、感染症への危機の中でも安心して利用できる避難所の運用の検討などを求めたいです。また住民の方々は、情報収集と早めの行動、それに従業員も災害に見舞われながら業務にあたっていることを忘れないでほしいです」。

「選択肢として有効」

こうしたホテル側の声も含めて、“ホテル避難”をどう考えるか、災害時の避難行動に詳しい静岡大学の牛山素行教授に話を聞きました。
まずホテル側の話については、理解できるといいます。
牛山教授
「ホテルなどの宿泊施設はそもそも避難のためにあるわけではなく、行楽などでも利用するものです。災害時の避難先にしたからといって、何でもそろっているわけではないし、自治体の避難所と同じようなサービスを求めるべきではありません」
そのうえで、行政が設ける避難所以外の場所への「分散避難」の重要性を考えると、ホテルへの避難の動きが進むのはよいことで、住民は選択肢の1つとして考えておくべきだと話しています。
牛山教授
「今回は新型コロナウイルスの影響で個室で過ごした方が安全だという考えが働いたのかもしれませんが、避難先の1つとして宿泊施設は望ましいことだと思います。避難する際は多様な選択肢が必要で、ホテルへの避難が標準というわけでもなく、あくまで選択肢の1つとして有効だということです。住民の皆さんは、自治体にすべてを委ねるのではなく、自らが災害が起きる前に多様な避難について考えておくべきではないでしょうか」
ホテルへの避難は、宿泊費の負担もあって、いつでも簡易にできることではないかもしれません。

ただ、大きな災害が次々と起こるいま、安心して身を守るための手段をどう確保するのか、“ホテル避難”を含めたさまざまな選択肢を考えることが大切なのは確かだと言えそうです。