台風10号 異例の会見で訴える“命の危険”

台風10号 異例の会見で訴える“命の危険”
それは異例づくめだった。気象庁と国土交通省は3日と4日、相次いで合同の記者会見を開き、「特別警報級」ということばを使って迫り来る台風10号への最大級の警戒を呼びかけた。「特別警報」は数十年に1度しかないような、いわば「緊急事態」であることを示す最大級の警報。台風の今後の進路によっては予報が変わる可能性もある早い時期から言及するのは異例だ。命に関わるような深刻な事態を招かないために。これまでにない危険が迫っていると受け止めて十分な備えと警戒の必要がある。

(ネットワーク報道部 記者 田隈佑紀 野田綾 斉藤直哉 / 社会部 記者 老久保勇太)

強い危機感あらわに

特別警報が出ていないのに気象庁の会見に国土交通省の担当者が同席するのも過去に例がない。異例づくしとなった背景にある危機感をある幹部はこう話した。
国土交通省幹部
「去年の台風19号を踏まえてリスクを早い段階で伝えられないかと省内で議論を続けてきました。未曾有の事態が起こりうるという私たちの危機感を広く伝え、進路にあたる地域の人たちはもとより親元に連絡して避難を促すなど全国で備えてほしいのです」

戦後最強クラス “伊勢湾台風に匹敵”

では具体的に何がどう危ないのか?

会見で気象庁の担当者は明治以降、最悪の5098人もの犠牲者を出した1959年の伊勢湾台風に匹敵する勢力だと話した。
伊勢湾台風の上陸時の中心気圧は929ヘクトパスカル。台風10号は、6日午前には沖縄の南大東島付近で915ヘクトパスカルまで発達すると見込まれている。

そして特別警報級の勢力を維持したまま沖縄・奄美を通り九州地方に接近または上陸するおそれがあるという。

通常、南の海上で発生した台風は北上する過程で勢力が弱まっていくが、今回は海水温が高いため史上最大級の勢力を維持したまま九州まで接近すると予想される

“木造住宅では倒壊も” 予想最大瞬間風速80メートル

注目すべきは暴風の見通し。

沖縄・奄美で予想される最大瞬間風速は80メートルだ。

日本の観測史上、80メートルを超えたのは富士山をのぞけば過去に3度しか例がない。

一体、どれほどの被害をもたらすのか。

実は会見で配られた被害想定の表には、最大瞬間風速60メートルまでしか記載が無かった。いかに想定を超える強さであるかがわかる。

その代わりに参考になるものとしてあげられたのが竜巻に使われる風速や被害の値。

気象庁ホームページから該当する「風速67~80メートル」の被害規模を見てみる。

それによると、もたらされる被害は
・木造住宅が変形、倒壊。
・工場や倉庫の屋根ふき材がはがれる。
・鉄骨倉庫の外壁が浮き上がったり飛んだりする。
・アスファルトがはがれて飛散する。
暴風による大きな被害としては去年、千葉県で鉄塔が倒れ90万戸以上の大規模停電が起きた台風15号が記憶に新しい。この台風でも最大瞬間風速は57.5メートル。それをはるかに上回る暴風と被害にも備える必要がある。

「風強まる前に対策終えて」

暴風の中では出歩くことも難しく、避難や対策は手遅れになりかねない。

予報を見る際には、つい台風の中心ばかりに注意が向きがちだが、接近する前から風は強くなり始めることに留意しておく必要がある。

瞬間風速が30メートルを超えると何かにつかまらないと立っていられない状況になるが、沖縄地方や奄美地方では5日から、九州地方では、6日からそれを超える風が吹くと見込まれている。

気象庁の担当者は、「なるべく4日までに台風への備えを終わらせてほしい」と早めの対策の必要性を強調した。

雨量も記録的に「大河川でも氾濫のおそれ」

最大級に警戒すべきなのは暴風にとどまらない。雨も記録的な値が見込まれている。

たとえば沖縄・奄美では6日12時までの24時間で最大300ミリ、九州南部・奄美では7日12時までに最大600ミリ

予報の精度上、数値として示すことができるのは3日後までだがその後も、南側から湿った空気が流れ込み続け、広い範囲で記録的な雨量になるおそれがあるという。
国土交通省の担当者は会見で「河川の能力を超える極めて厳しい状況になるおそれがある」と強い危機感を示した。

能力を超えるとはつまり氾濫などが起きる可能性を意味している

特に九州南部(鹿児島と宮崎)については「国管理河川のような大河川でも氾濫や堤防決壊のおそれが高まっている」としている。

洪水ハザードマップで自分の地域の危険を確認してほしいと、ハザードマップの確認方法も示しながら、繰り返し呼びかけた。

ハザードマップポータルサイトのURL
https://disaportal.gsi.go.jp/(NHKのサイトを離れます)

沿岸部も甚大な被害のおそれ

気象庁担当者
「命に危険を及ぼすような高波や高潮のおそれがある」
この時期は、年間で潮位が最も高い。そこに台風が接近すると低気圧に吸い上げられる形で潮位が上がり、強風によって沿岸に吹き寄せられることでふだん来ないようなところまで波が押し寄せるため非常に危険だ。

高潮は波の一種だが、周期が数時間と非常に長く、波というよりむしろ海の水位が全体的に上昇し、海水のボリュームがけた違いに大きくなる。

一旦浸水が始まると、低地には浸水被害が一気に広がるおそれがあるのだ。史上最大級の勢力で接近すると予想される台風10号。

沿岸部ではこれまでに経験したことが無い被害が起きる可能性があり、特に九州南部と奄美地方では、6日に警報級の高潮となる可能性が高いと指摘した。

気象庁の担当者は今後の予想には幅があるもののどのルートを通っても広い範囲で大きな被害が出るおそれがあることに変わりは無いとみている。
気象庁担当者
「暴風が吹き始めてからでは危険なので、風雨が強まる前のタイミングで避難などの対応をとることが重要です」
※台風の勢力や風・雨などの予想は4日午前11時時点。今後変わる可能性があり、最新の情報を確認してください。

●私たちは台風にどう備える

これまでの規模を超えて、命に関わる被害も予想される今回の台風。空振りをおそれず、十分な事前の備えと、警戒が必要だ。

1.事前に自宅の中や周りで行う対策

まず、暴風や大雨の前に自宅の周りで行う対策。
●植木鉢や自転車など、家の周りやベランダにある倒れやすいものなどは、固定したり家の中に入れたりしておく。

●雨戸やシャッターのない窓は、割れたガラスが飛び散るのを防ぐために飛散防止のフィルムを貼っておく。フィルムがなければカーテンを閉めたり、テープを貼ったりしておく。

●側溝や排水溝などはごみがつまっていると水があふれて被害が生じるおそれがあるので、掃除しておく。

2.非常時に持ち出すものの準備

非常時に持ち出す物の確認も重要。

飲料水食料品携帯ラジオ懐中電灯などの災害時の一般的な備えのほか、新型コロナウイルスの対策としてマスクせっけん、それに手指消毒用のアルコール体温計なども準備する。

3.安否の確認方法や集合場所などを家族で共有

家族同士でお互いの安否を確認する手段や集合場所について話し合っておくことも重要。

親族と離れて暮らしている高齢の方も、万一の際の避難先をあらかじめ伝えておく。

最近の豪雨災害では、新型コロナウイルスの対策として避難所が受け入れ人数を制限し、廊下やロビーなど避難スペース以外で対応したケースも。事前に市町村のホームページなどで確認しておく。

避難所だけでなく、安全な親戚や知人の家などに避難することも考える。

4.停電したときの冷蔵庫・冷凍庫は

台風の影響で停電となった時、冷蔵庫の中の食材などは大丈夫か。

大手電機メーカー、パナソニックによると機種にもよるが、万が一、停電した場合でもドアの開閉が全くない状態であれば、2時間から3時間ほどは冷えを保てるものもある。

また冷凍庫は、停電前に、冷凍食品など凍ったものどうしを隙間なく固めて置くことで温度が上昇しにくくなる。

●どれくらいの強さ?過去の台風から見る

今回の台風はどれくらい強いのか。過去の台風と比べてみる。

《暴風》

まずは「暴風」。今回の台風は、最大瞬間風速が80メートルと予想されている。平成30年9月に上陸した台風21号の最大瞬間風速58.1メートルよりも強い風の予想だ。
この台風21号では、強風で流されたタンカーが連絡橋に衝突し、関西空港が一時孤立した。損傷した連絡橋の完全復旧までおよそ7か月かかった。
さらに、飛んできた物に当たったり、屋根から転落したりして14人が死亡、980人がけがをした。

今回予想されている最大瞬間風速80メートルは時速に換算すると、288キロにもなる。走行中のトラックが横転したり建物が倒壊したりして広い範囲で甚大な被害が出るおそれがあり、十分な備えと警戒が必要だ。

《高潮》

そして大量の海水が陸地に流れ込む「高潮」。高潮は、台風や発達した低気圧が接近して、海面が吸い上げられるのに加え、強い風で大量の海水が吹き寄せられて沿岸部に流れ込む現象だ。
平成30年の台風21号では、大阪湾などで高潮が発生し、最高潮位は3メートルを超えた。関西空港の滑走路やターミナルビルの地下など広い範囲が浸水し、復旧までに17日間かかった。

台風が接近してきた場合、高潮が発生するよりも前に暴風が吹き始め、屋外への避難が困難になるおそれがある。この時期は、平均潮位が年間で最も高く、より警戒を強める必要がある。