その広告 行き過ぎていませんか?

その広告 行き過ぎていませんか?
「デブは恋愛対象外」「毛深い男は嫌われる」 最近インターネットで、こういった表現の広告をしばしば目にするようになったと思いませんか。外見のコンプレックスを刺激して商品を宣伝するこのような広告は、「コンプレックス広告」とも呼ばれています。

多くの人が利用する動画サイトなどにも流れているこうした広告。「外見上の差別」を助長するとして、改善を求める声が上がっています。

(ネットワーク報道部 記者 田隈佑紀)

動画サイトの「コンプレックス広告」に批判の声

「体毛や体型などに関する卑下の広告、やめませんか?」

ことし4月、ネット上で始まった署名運動。これまでに3万を超える署名が寄せられています。

指摘しているのは、動画投稿サイトの「YouTube」で冒頭や途中に流れる動画の広告。外見上の劣等感を刺激して商品を宣伝する広告で、「コンプレックス広告」とも呼ばれています。

サプリメントや化粧品などの分野で多く見られ、体型、体毛、肌などの外見を、恋人や異性から否定され、商品を使うことで解決する、などというイラストを使ったストーリーになっています。

外見によって、「異性から嫌われる」「不幸になる」などと、危機感をあおって商品の購入を誘導するような表現も目立ち、中には、「太った体型を否定された女性が自殺を図る」といった描写のものもあります。

「気が滅入る」「価値観の植えつけも」「取締りは?」

集まった署名に添えられたコメントには。
「見るたびに気が滅入る。スキップしようにも最低5秒は見なければならない」
「容姿によって友達や彼氏・彼女からひどい扱いを受けるのは当然、というように思わせてしまう広告は、とても危険だ」
「小学生などが見てこの価値観を植えつけられたら、どうなんでしょうか。いじめは、こういった価値観の植えつけから始まる面もあると思う」
「あまりにも本数が多くその度に嫌な気持ちになる。YouTube側で取り締まることはできないの?」

署名呼びかけた学生「外見を卑下する言葉はしんどい」

ネットで署名を呼びかけたのは、秋田県の大学に通う、村田葵さん(20)。多くのユーザーがいる動画サイトで、こうした広告を頻繁に目にすることに違和感を感じたと言います。

村田さん自身も、外見のことで苦しんだ経験がありました。
村田葵さん
「小学校や中学校の時に外見をからかわれたりして悩んだことがあります。最近になって特にこのような広告を多く目にするようになり、容姿など生まれ持ったものを否定するような表現をなぜする必要があるのかと、周りの友人と話すようになりました。楽しみを求めて動画サイトを見る中学生や高校生とかの世代は、悩みを抱えている人も多いと思いますが、外見を卑下するような言葉を見せつけられて、すごくしんどいと感じている人が少なくないと思います」
外見の否定は人を深く傷つけることがあるーー村田さんがそう考える背景には、かつて外見に思い悩んでいた知人が自ら命を絶った出来事があったと言います。
村田葵さん
「『かわいくないと、生きていても意味が無い』ということを言っていました。どうしてそのように思うようになったかはっきりとはわからないのですが、外見の否定がいかに人を深く傷つけるのか、人をこれほどまで追い詰めるのかと強く感じました」
署名運動では、動画サイトの運営側にも対策を求めているほか、商品を販売する会社に対しても外見を否定するような広告の配信をやめるよう求めています。

動画広告への苦情が急増 コロナ影響で接触機会増える

インターネットの動画広告についての苦情は、急増しています。

「公益社団法人 日本広告審査機構(JARO)」によりますと、ことし1月から6月の間に、苦情は510件と、去年の同じ時期の8倍に上っています。

JAROは「特に健康食品や化粧品の効能に関する表記などについての苦情が多いが、中には、外見上の劣等感を刺激する表現についての苦情もある。苦情の増加の背景には、外出自粛でネット動画に接触する時間が増えたことや、コロナ禍による経費削減で、もともと広告を出していた企業に控える動きが出ているために、問題のある広告が表示されやすくなっている可能性もある」としています。

SNS上の広告 「不愉快」9割

さまざまなSNSに表示される、このようなネット広告に対して、不快に感じるユーザーが多くいることを示すデータがあります。
ことし7月、マーケティング会社が、全国の中学生、高校生、大学生を対象に行ったアンケートでは、YouTube、ツイッター、インスタグラムで表示される広告について、「不愉快である」「不愉快に感じたことがある」と9割が回答。
「不愉快」と感じる内容は、主に外見コンプレックスを取り上げたもので、広告で宣伝するような脱毛をしていない女性を「毛ダラケ娘」と表現したり、「脱毛をするのにお金がないからパパ活をする」という内容の広告もあったとしています。

専門家「ルッキズム(=外見上の差別)を助長」

こうした、ネットの広告が多く見られるようになっていることについて、専門家は『外見上の差別』を助長する懸念があると指摘します。
関東学院大学の天野恵美子准教授は、「こうした表現は繰り返し目に触れるうち、特に知識や理解力が十分に備わっておらず、思考が作られていく時期の若年層では価値観に与えるインパクトが大きく、『ルッキズム=外見上の差別』やいじめを助長しかねない」

多額を売り上げる広告主も

広告主が、多額の売り上げをあげている一端も明らかになっています。

「汗かきすぎ」「臭くて不潔」など女性から言われた太った男性が、「飲むだけで激やせ」するなどといった内容の広告がYouTubeに表示されていた、サプリメントの販売元。消費者庁は、この会社が広告で「いつでも解約可能」としながら、解約の条件を分かりづらい形で表示し、客の意に反して申し込みをさせようとする行為を規制した特定商取引法違反にあたるとして、先月、この会社に6か月間の業務停止を命じました。この会社の売り上げは、2月から5月までの4ヶ月間で、7億円に上っていたということです。

動画サイト運営会社「削除する取り組み進める」

広告を掲載しているネットメディアやSNSのプラットフォーム側は、どう考えているのか。
YouTubeを運営するグーグルは、NHKの取材に対して、ポリシーに違反している広告が表示されていたと認め、「この度は、ポリシーに違反している広告が表示されていたため、迅速に対応し、新しい削除のシステムを導入しました。すでに過去数週間に数千の広告を削除しています。今後もシステムを強化し、不適切な広告を削除する取り組みを進めてまいります」と回答しました。

行き過ぎた広告表現にどう対応すべきか

「外見上の差別」を助長しかねないこうした広告の表現。天野准教授は、まずは、広告主やメディア側が、行き過ぎた表現を排除するなど、自主的な取り組みを進めることが大切だと指摘します。
関東学院大学 天野恵美子准教授
「SNSなどで情報があふれる中、よりアクセスを集め、売るためだったら何でもいいというように広告表現が過激になってきている。ヨーロッパには、外見や性別に関する広告表現について、業界の中でルールを制定して規制しているところもある。『表現の自由』を制約することにもつながる難しい問題なので、まずは、広告主やプラットフォーマー各社が、自主的な取り組みで悪質なものを排除していき、改善が見られない場合は、業界としてのルールや規制などの方策を検討する必要がある」
署名運動を始めた村田さん。商品自体や外見に関わる広告すべてを否定しているわけではありません。多くの人が目にする広告の表現が与える影響を、今一度考えてもらいたいと訴えています。
村田葵さん
「さまざまな意見があり、もちろん気にならないと言う人もいると思います。でも、たくさんの人が見て、気がつかないうちに価値観をすり込まれ、その人が誰かを傷つけてしまう可能性もあると思います。今の時代、このような広告のやり方でいいのか、本当にそうしなければ売れないのか。伝え方はそれでいいのか。多くの人に考えてほしいと思います」
外見を否定するような「コンプレックス広告」について、あなたはどう思いますか?ご意見をお寄せください。
ネットワーク報道部 記者
田隈佑紀