高性能の医療用マスク 国の研究機関などが開発 大量生産へ

高性能の医療用マスク 国の研究機関などが開発 大量生産へ
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新型コロナウイルスの影響で、不足が指摘されている高性能の医療用マスクを、国の研究機関などが新たに開発し、大手医療機器メーカーが大量生産に乗り出すことになりました。高性能の医療用マスクは多くを輸入に頼っていて、国内での生産強化が課題となっています。
このマスクは「国立循環器病研究センター」と、空調機器大手の「ダイキン工業」、京都のベンチャー企業「クロスエフェクト」が共同で開発したもので、生産と販売を大手医療機器メーカー「ニプロ」が行うことになりました。

ウイルスの侵入を防ぐ高いフィルター性能がある医療用マスクは、新型コロナウイルスの影響で世界的に需要が高まっていますが、日本の医療現場で使われているマスクは、多くを中国など海外からの輸入に頼っていて、不足が指摘されています。

現在流通している医療用マスクは原則、使い捨てですが、このマスクは樹脂製の本体を再利用でき、フィルター部分だけを交換するつくりになっています。
今後、マスクの性能を示すアメリカの規格「N95」や、日本の同様の規格を取得したうえで試験的な販売を行い、来年にも大量生産に乗り出すということです。
開発にあたった「国立循環器病研究センター」の西村邦宏医師は「自分と周りの患者を守るために防御手段を増やす必要があり、国産の安心できるものがほしいというのが医療現場の実感だと思う。輸入がストップする事態にも備えるため、国内で生産できる体制を目指したい」と話していました。

医療現場からは今も不足の声も

医療用マスクの供給をめぐっては国が調達して医療現場に配付する仕組みが強化されていますが、医療現場からは今も不足しているという声が上がっています。

このうち今回のマスクを開発した「国立循環器病研究センター」の病院では、新型コロナウイルスに感染した循環器系の病気がある患者を受け入れています。

医師やスタッフは大量の飛まつが発生しやすい診療を行うときに医療用マスクを着用していますが、確保できる数にかぎりがあり、使い捨てのマスクを再利用せざるをえないといいます。

このうち心臓血管内科部門で働く土井貴仁医師は、マスクを使用後に容器に入れて保管し、最近も長期間使用し続けたということです。

土井医師は「何度もマスクをつけたり外したりしていると、ヒモが緩むこともある。基本的には使い捨てのもので、何度も使うことを想定して作られていないので、感染を防げるのか不安だ」と話していました。

国内での需給とメーカーの動向

「N95」マスクの需要量や生産量などについて国の統計はなく、厚生労働省は把握していないとしています。

「国立循環器病研究センター」の推計によりますと、高性能の医療用マスクの国内での需要は月におよそ3000万枚とされています。

別の企業の調査では、現在医療現場で使われている医療用マスクのうち8割以上が中国など海外からの輸入とされています。

安定的な供給に向けて多くの国内のマスクメーカーが増産を進めていますが、新たな設備投資を行ってさらなる増産にまで乗り出すかどうかについては対応が分かれています。

マスクメーカーの「興研」では、ことし2月以降、24時間体制で「N95」マスクの生産にあたっていて、通常の3倍近くの月140万枚を生産しています。

それでも需要に追いつかないことから、国の補助金を活用して群馬県に新しい生産拠点を増設しました。

「興研」の堀口展也副社長は「医療従事者や関係者が当社のマスクを必要としているということなので、メーカーの使命として、もっと生産すべきだという結論にたどりついた」と話していました。

一方、別のマスクメーカー「日本バイリーン」でも生産拠点の稼働日数を週5日から7日にするなどして「N95」マスクの生産量を倍近くに増やしていますが、設備投資を伴う増産は難しいといいます。

「日本バイリーン」の菱木吉浩メディカル資材本部長は「これ以上の増産となると設備投資が必要となるが、過去の事例を見ると感染症が終わったあと医療用マスクの需要が極端に減ってしまうので、ここで増産投資をしてしまうと減ったときの反動が非常に大きくなるので、投資には踏み切れなかった」と話していました。

国は国産化後押しも…

医療用マスクの国産化を後押しするため、経済産業省は「N95」マスクの生産ラインを増強する企業に経費の一部を助成することを決め募集しています。

しかし、原則として「N95」を生産した実績があるなど対象を限定しているため、応募する企業の数は限られ、これまでに助成が決まっているのは、2社にとどまっています。

また、増産したマスクを国が買い取ることにはなっていないため、企業にとっては生産を増やしても、今後の販売先が確保されているわけではありません。

厚生労働省は「N95」マスクの需要量や生産量などについて統計はなく、実態を把握できていなかったことから、国内での生産量や輸入量などを調査し、年内にまとめる方針です。

海外の対応は

「N95」など高性能の医療用マスクの確保に向けて、日本だけでなく、世界各国の保健当局が対応に追われています。

「N95」マスクを生産する主なメーカーはアメリカに本社を置いていますが、アメリカ政府はことし4月、医療用マスクの輸出を厳しく制限し、自国への供給を優先しました。

こうした中、マスクの輸入ルートを確立しようという動きが各国でみられています。

このうちカナダは、ことし4月にコンサルティング会社での勤務経験があり中国とのビジネスに精通していた北京駐在の大使が指揮をとり、「N95」マスクを中国から急きょ調達したということです。

カナダ政府はさらに、先月、国内工場の生産能力を上げることで、年間1億枚を増産すると発表しています。

複数の国が共同で医療用マスクを買い付ける動きもあり、EU=ヨーロッパ連合は加盟する25か国が資金を出し合い、およそ6300万枚の医療用マスクを購入しました。

一方、マスクの確保に成功しているとされるのが台湾です。

台湾では2003年のSARSの教訓から190万枚の「N95」を保健当局が備蓄していたほか、ことし1月に感染者が確認されると、資金や軍の人員を生産現場に投入してマスクの増産を進めました。

専門家「国が長期視野で取り組みを」

感染制御学が専門で、医療用マスクに詳しい東京女子医科大学の満田年宏教授は国が長期的な視野に立った取り組みを進める必要があると指摘しています。

国内での増産の動きについて、満田教授は「企業が投資をして『N95』マスクを増産することへの経営的なリスクを、国も共有してさらに支援を強化することが重要だ。新しい感染症が起こるたびに医療従事者が不安を感じることがないよう、国が長期的な視野に立って考える時期が来ている」と話しています。

そのうえで、「緊急時に備えて、いろいろな調達ルートを確保しておくことが大切だ。国内で増産するにしても、1社がほとんどを占めるのではなく、複数の企業が生産している状態が望ましい。輸入についても、日本と親交が深い国と事前に協定を結ぶような形をつくり、安定的に供給できる体制を整えておく必要がある」と指摘しています。