話題の米IT企業 トップは近江商人?

話題の米IT企業 トップは近江商人?
「企業は利益を上げるだけの存在にあらず」
このことばは急成長するアメリカのIT企業セールスフォース・ドットコムの創業者、マーク・ベニオフCEOが訴える経営哲学です。ベニオフ氏は去年、みずからの考えをまとめた著書を出版、アメリカの有力経済紙が取り上げるなど全米で話題となり、7月、日本でも出版されました。なぜ、今、関心を集めるのでしょうか。ベニオフ氏本人にインタビューしました。(おはBizキャスター 岸正浩)

急成長のIT企業

セールスフォース・ドットコムは、ソフトウエア会社のオラクル出身のマーク・ベニオフ氏が20年前に創業した会社で、顧客管理ソフトを、法人向けにクラウドで提供する先駆けとして急成長しています。今では取り引き企業は、日本をはじめ全世界で15万社に上り、売り上げは年間2兆円に迫っています。最近ではアメリカの株式市場を代表する指標、ダウ平均株価の銘柄にも選ばれました。
しかし、同じIT系の企業でもGAFA(グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップル)とは一線を画しています。こうした巨大IT企業は、独占的な地位を利用して巨額の利益を上げているとして批判が高まっています。ベニオフ氏はその姿勢について厳しく指摘します。
ベニオフ氏
「彼らが気にしているのは金もうけだけ。それは正しくありません。そのようなビジネス・経営者は、変わらなければなりません。私たちには“新しい資本主義”、思いやりのある、“持続可能な資本主義”が必要です」

1ー1ー1モデル

では、“持続的な資本主義”を実現するには企業は何をすべきなのか。その一つが創業以来のルール「1ー1ー1モデル」です。株式や製品の1%を寄付するとともに従業員には就業時間の1%をボランティア活動に充てるよう求めているのです。
例えば、教育では、学校にWi-Fiを設置したり最新のパソコンを贈ったりします。さらに従業員がボランティアとしてパソコンの使い方を教えるだけでなく、プログラミング教育も行います。こうした事で将来、IT産業を担う人材を多く育てようと考えているのです。ベニオフ氏は次のように述べています。
ベニオフ氏
「私たちには、ビジネスによって得た資産を使って驚くべきことができる力があります。会社とは、単に製品を作って売る以上に、多くのことができる存在なのです」

平等と多様性が重要

一方で、著書の中で、ベニオフ氏が人種、性別などでアメリカ社会が抱えるさまざまな課題に対して悪戦苦闘する様子も描かれています。
例えば、4年前、黒人男性が警官に銃で撃たれ死亡。人種問題への関心が高まる中、ベニオフ氏は黒人の権利を求める運動を支持する考えを表明。

しかし、セールフォース自体は黒人社員の比率が少ないとの批判を受けました。また、女性を積極的に登用しながらも女性役員から「女性社員全体を見ると男性と比べて賃金が安い」との指摘を受けました。

社内外の批判に対してベニオフ氏は、黒人などの社員の比率を上げたり、合併した会社を含めて女性の待遇を改善したりする取り組みを続けています。
ベニオフ氏は企業の経営では「平等」が重要で、「多様性」を確保していかなければならないと訴えています。

こうした「企業文化」を育てることが優秀な人材を集め、競争力のあるアイデアを生み出すことにもつながっているとも考えています。

そして企業と社会との関わりについてベニオフ氏は次のように述べています。
ベニオフ氏
「ビジネスとは、『社会』『従業員』『顧客』、すべてを一緒にして考え進めなければなりません。世界からも、社会からも、環境からも、分離しているものではないのです。私たちはすべてつながっており、全体で一つ。それを忘れてはなりません」

近江商人の“三方よし”と同じ?!

こうした考え、どこかで聞いたことがありませんか?
日本の近江商人の“三方よし”「売り手によし、買い手によし、世間によし」という考え方です。
近江商人は、江戸時代に今の滋賀県を拠点に全国で商いをしていました。その信条は次のように伝わっています。
「商いというものは、適正な利益を得て、売り手も買い手も満足する取り引きでなければならない。そして、その取り引きで得られた利益は、広く地域社会全体の幸福につながるものでなければならない」

「世の中の多くの人々の信用を得られないような商いは、永続することができない」
(東近江市近江商人博物館ホームページより)
ベニオフ氏の考えとよく似ているのではないでしょうか。本人にそのことを聞いてみると「そのとおり」だと話していました。

企業が関与して社会がよくなっていけば、長い目で見れば、企業の持続的な成長につながる。この考え方は時代や国の違いは関係なく普遍的なことかもしれません。

今、私たちは新型コロナウイルスや地球温暖化などかつてないグローバルな困難な課題に直面しています。こうした厳しい状況の中でベニオフ氏のことばは、企業が果たす役割はどうあるべきか、考えるうえで、一つのヒントになるのではないでしょうか。
おはBizキャスター
岸 正浩
平成4年入局
経済記者の経験をもとに
おはよう日本の経済コーナーを担当