公園のセミ食べないで!? どういうこと?

公園のセミ食べないで!? どういうこと?
猛暑の夏の蝉しぐれ。夏の風物詩ともいえるセミの鳴き声が響く東京の公園で、セミをめぐる、気になる“注意書き”が目に留まりました。

「公園で食用その他の目的でセミ等を大量捕獲するのはおやめください」

食用その他の目的って?セミですよね?どういうことなのでしょうか。背景を探ってみました。
(ネットワーク報道部 記者 郡義之 目見田健)

食用!?ナゾの看板が公園に

記者が訪れたのは、東京 杉並区にある区立公園。セミの鳴き声が響き、虫とり網を持った子どもたちや親子連れが集まる、ごくふつうの公園です。

公園内の樹木に貼り出されていたのが、こちらの注意書き。
「食用って!?」

食べるためにセミを大量にとるなんて聞いたことがなかったので、驚きました。

4歳の女の子と公園を訪れていた30代の母親に話を聞いてみました。
母親
「『何これ?』って、衝撃を受けましたね。この注意書きに気付いたのは8月上旬だったと思います。誰かセミを食べてるの?って、ママ友の中でも話題になりました」
母親は、首をかしげながら次のように続けました。
母親
「SNS上では、外国人の方がセミをとっているのではないかという憶測も散見されましたが、この公園の利用者や近所では外国人の方はあまり見かけないですけどね」
どうして、こんな注意書きを貼り出すことにしたのか。杉並区役所の担当者に聞きました。
杉並区みどり公園課担当者
「今月に入って、区民から『食べるために大量にセミをとっている人がいるようだ』といった苦情が数件、寄せられたんです。ただ区としては本当なのか、何も確認できていないのでよくわからないんです。だから『食用“その他の目的で”』『セミ“等”』といったあいまいな書き方をしています」
杉並区は条例で、区立公園の生き物をとったり殺したりすることを禁止しています。

一方で、子どもたちが遊びで虫をとることまで禁じているわけではなく、あくまで度を超えた量の捕獲はやめてくださいね、という趣旨だと説明してくれました。

注意書きを貼ったのは、ことしが初めてだそうです。

ネット上には驚きの声

杉並区だけでなく、東京 荒川区や埼玉県川口市なども同様に、食べるために昆虫を捕獲しないよう呼びかけたことがあるそうです。

SNS上には驚きの声が相次いで投稿されています。
「誰が食べてるの?」
「セミを食べる人いるんだ・・・。今まで考えたことすらなかった」
「公園のセミがいなくなるくらい、食べている人がいるのか?」

セミって おいしいの?

「そもそもセミっておいしいの?」専門家に話を聞いてみました。

「実はとてもおいしいんですよ」と話してくれたのは、長年、昆虫食の研究に取り組んでいる、昆虫料理研究家でNPO法人「昆虫食普及ネットワーク」の理事長を務める内山昭一さんです。
セミの味わいは種類によって違うそうです。
昆虫食普及ネットワーク 内山昭一理事長
「基本的には天ぷらや素揚げがいいです。中でもニイニイゼミは小さくて殻が気にならず、食べやすいです。また、アブラゼミはうまみが強くて、赤身の肉の味に近いですね。クマゼミは大きくて食感が固いのが特徴です」
中でも、内山さんオススメのセミ料理は、幼虫を調理した「エビチリ」ならぬ「セミチリ」です。

「幼虫をむき身にしているので、とても食べやすいです。ぜひお試しください」
内山さんはセミを食べる際の注意点も教えてくれました。
昆虫食普及ネットワーク 内山昭一理事長
「まれに寄生虫を持つセミもいますから、必ず加熱処理をしてください。数分間煮沸して、ちりやごみを落としたあと、2、3分ほど油で揚げると、安全に食べられます。甲殻類アレルギーがある人は食べないでください。また、死んでいるセミには、殺虫剤などがかかっている可能性もあるので、絶対に拾って食べたりはしないでください」
セミを食用にするには、いろいろ注意が必要だと言います。

ビジネス目的?

では誰がどんな目的で捕獲していると考えられるのでしょうか。

内山さんは一般論として、セミの食文化がある中国や東南アジアの国々では一定のニーズがあるのではないかと分析しながらも、結局はよくわからないと話していました。
20年ほど前は日本で昆虫を食べるなんて考えられなかったと言う内山さん。

今では昆虫食が一部でブームにもなっていて、子どもたちが夏休みの自由研究で昆虫食を取り上げるケースも増えているということです。
昆虫食普及ネットワーク 内山昭一理事長
「振り返ると、やはり、昆虫食が世界の食糧問題などにも寄与すると紹介した、2013年の国連報告が転機になったと思います」
内山さんによると、日本でも昆虫食を売る自動販売機やレストランなど、いわば“昆虫マーケット”が広がりを見せていると言います。
昆虫食普及ネットワーク 内山昭一理事長
「杉並区の注意書きの背景はよくわかりませんが、大量にセミをとっているということであれば、ビジネス目的の可能性もありますよね」

昆虫食ブーム到来!?

記者は東京 中野区にある昆虫自動販売機の取材に向かいました。
売られていたのは、コオロギやバッタ、オケラなど。価格は、450円から2000円台のものまでさまざまです。
(販売用の虫は食用として輸入されたものです)
自動販売機を設置した会社の担当者
「最初はユニークな商品として、ある意味“ウケ”をねらったものだったのですが、コロナ禍の中でも売り上げは伸び続けていて、驚いています」
ちゅうちょせず昆虫を買い求めるのは、男性より女性のほうが断然多いそうです。
自動販売機を設置した会社の担当者
「男性のほうが尻込みしてしまう傾向があるみたいです。思い切って食べてみると、本当においしいですよ」
昆虫食は、お店でも扱われています。

「無印良品」では、ある昆虫を使ったせんべいが人気を集めているとのことです。

一見すると普通のせんべいにも見えますが、実は、粉末状にしたコオロギを練り込んでいるんです。味はエビに似ていて食べやすいのが特徴だということです。
ことし5月にネットで先行販売し、7月から店舗での販売を始めたところ、すぐに売り切れるほどの人気で、驚いたと言います。
「良品計画」広報・サステナビリティ部担当者
「予想以上の売れ行きに驚いています。昆虫食はビジネスになることがわかったので、今後はコオロギせんべいの販売店舗を増やすことも検討しています」
昆虫食の効能に着目する研究者もいます。

山口大学大学院の井内良仁准教授です。10年ほど前から、昆虫食と健康増進との関係について研究を続けています。
バッタなどの昆虫を混ぜたエサをネズミに食べさせたところ、体重や体脂肪、中性脂肪を減らす効果が確認できたということです。

ただ、昆虫のどんな成分が健康増進に作用しているのかは、まだ解明されていないということです。
山口大学大学院 井内良仁准教授
「昆虫は抗酸化作用が強いこともわかっているので、多くの人たちに昆虫を食べてもらえるよう、研究を続けていきたいです」
グローバルな視点で見ると、昆虫食から食糧不足や環境問題などさまざまな課題が見えてくると話すのは、昆虫料理研究家の内山さん。
昆虫食普及ネットワーク 内山昭一理事長
「昆虫は歴史的に人間が食べてきた最も身近な食料の1つでもあるので、今のブームは復活の動きとも捉えることができます。昆虫食を通じて、食糧や環境の問題を考えるきっかけにもなってくれればと考えています」