JAとJTB コロナ時代の新たな連携とは

JAとJTB コロナ時代の新たな連携とは
全国1000万人の組合員を持つJA。その中でもJA全農は、資材の調達から農産物の販売までを一手に手がけ、農業の総合商社とも称されます。一方、旅行大手のJTB。全国の自治体や宿泊施設とのネットワークを生かし多様な旅行商品を販売しています。一見、関係の薄そうな両者が、このほど手を結び、新たな取り組みを始めました。新型コロナウイルスの感染が拡大する中、両者の利害が一致したというのですが、いったい、どういうことなのでしょうか。(経済部記者 岡谷宏基)

農業の受け入れ現場に変化

かぼすの生産額が日本一を誇り、ねぎやトマト、にらなどの野菜の生産も盛んな大分県。その一方で、ほかの多くの地方と同様に人口減少や高齢化が進み、担い手不足に直面しています。JA全農おおいたでは、6年前から学生や主婦などをアルバイトとして雇用し、農作業にあたってもらっています。
その数、延べ7万人以上。ところが最近、応募者の傾向に変化が起きています。新型コロナウイルスの影響で仕事を失った人たちからの申し込みが増えてきているというのです。
6月から働き始めた宮部和典さん(32)もその1人です。大分市内の映像制作会社で撮影などの仕事をしていますが、イベントやCMの制作が相次いで中止になり、仕事は激減。週に3日だけの出勤になりました。そこで、会社を通じてJA側と話を進め、副業として農業を始めることにしました。月に8日から10日ほどキャベツの収穫や選果場でピーマンの仕分け作業などにあたっています。
宮部さん
「農業の経験がなかった自分でもできている。収入を補えるうえ、体力づくりにもなるので今後も続けたいです」
この制作会社の社長も社員の給料の支払いが難しくなる中、農家で副業をしてもらうことで雇用を維持でき、ほっとしているといいます。

観光業で働く人、ぜひ農業に!!

こうした状況を受けてJAが動きました。着目したのは、新型コロナウイルスの感染拡大で深刻な打撃を受けている観光業界です。外出自粛の影響で交通機関や宿泊施設の利用者が激減。こうした人たちに副業として農業の現場で働いてもらおうと考えたのです。大手旅行会社のJTBに話をもちかけたところ、二つ返事で事業を進めていくことが決まりました。
その仕組みです。まず、農家からの希望をJAが取りまとめ、JTBに伝えます。JTBは仕事が減っているホテルや旅館、バス会社などから人材を募り、農業の現場で働いてもらいます。
農業の就業人口は去年、全国で168万人。この10年で100万人も減少しました。農林水産省は、何も対策を取らなければ10年後には131万人に減ると試算しています。

今回の取り組みが実を結べば、担い手不足の農家を支援することにもつながります。

JTBにとっても仕事が減った全国の取引先の人たちに雇用の場を提供できるだけでなく農家から受託料も得られ、新たな収益につながります。

農家も観光業界も歓迎

今回の取り組み、農業、観光のそれぞれの現場から歓迎の声が上がっています。
大分市の大葉農家、二宮伊作さん(66)。190アールの畑で日本人の従業員およそ50人と中国からの技能実習生8人が農作業にあたっています。ことしも中国から3人の実習生が来るはずでしたが、新型コロナウイルスの影響で来日できていません。さらに8月、実習生2人が帰国してしまいました。人手不足で作付けした苗を収穫せずに抜かざるをえない状況で1割の減産を見込んでいます。
二宮さん
「施設や農地があっても人がいないから使えない。日本人の従業員の高齢化も進み、状況はより厳しくなっていく」
一方、ホテルの経営者からは「仕事が減った従業員の働く場ができ、ありがたい」といった期待の声が寄せられています。JA全農とJTBは今月、大分県で取り組みをスタートさせ、今後、九州のほかの県や四国をはじめ全国に事業を広げていきたい考えです。

課題は「定着」

しかし、農業現場での人材の受け入れは、簡単ではありません。過去にも農家と働き手を結び付ける取り組みが行われてきましたが、試行錯誤の連続でした。「作業がきつい」とか「収穫期だけ忙しく、ほかの時期に仕事がない」といった理由で長続きしないケースもありました。

そこでJAとJTBが考えているのが、人材のマッチングにとどまらず、長く働き続けられるような仕組み作りです。
人を雇うことに慣れていない農家も多いため、JTBが複数の農家から仕事を請け負います。畑での収穫や選果場での出荷作業などさまざまな仕事を組み合わせることで、年間を通じて一定量の仕事を確保します。

また、農作業はチームでの作業を基本にしました。収穫や運搬といった力仕事から箱詰めなどの細かい作業をその人の能力に合わせて割りふることで農業の仕事が長続きできるように工夫しました。
事業を担当するJA全農の花木正夫専任室長は「働くのは週に1日でも2日でもいい。農業に関わる人を緩やかにでも増やしたい。それが全国に広がれば、大きな力になる。苦しい時に農業で稼いでもらうことで、企業の雇用の維持や倒産を防ぐことにもつながれば」と意気込んでいます。
また、JTBの福岡高事業部長は「JAとJTBは、お互いに全国組織を持っている。その強みを生かし、スピード感を持って取り組みたい。観光業者にとっても地元の農産品を知ることは新たなマーケティングのきっかけにもなる」と積極的に取り組む姿勢です。
今回の異例の連携が雇用の受け皿となるだけでなく、新たなビジネスチャンスにもつながるのか今後の展開に期待したいと思います。
経済部記者
岡谷 宏基
平成25年入局
熊本局を経て経済部で農林水産業の取材を担当