“されて嫌なこと しないで” クラスター発生の小学校が再開

“されて嫌なこと しないで” クラスター発生の小学校が再開
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新型コロナウイルスの感染者の集団=クラスターが発生した神奈川県厚木市の小学校では、感染した全員が回復したことを受けて、27日から2学期が始まりました。
厚木市の依知南小学校では、今月6日から20日にかけて、児童15人と教職員5人の合わせて20人の感染が明らかになり、県内の学校では、初めて感染者の集団=クラスターが発生しました。

その後、新たな感染の拡大はなく、20人の体調も回復したことから、保健所の指導に従って27日、当初の予定から8日遅れて2学期が始まりました。

生活指導教諭「たたかう相手はコロナ 傷つけ合わないように」

27日は、オンライン形式で始業式が行われ、この中で生活指導の教諭が、感染した人に対する差別が問題になっていることを説明したうえで「自分が感染した場合に、されて嫌なことは、相手にしないことが、いちばん大事なことです。たたかう相手はコロナなので、互いに傷つけ合うようなことはやめましょう」と語りかけました。

さらに各教室で、担任の教諭がどう行動するべきか問いかけると、子どもたちは「うわさで話をする人がいたら、よくないことだと注意する」などと答えていました。

3年生の女子児童は「感染した人は、つらい思いをしたと思うので、やさしい声をかけてあげたい」と話していました。

依知南小学校の外村美佳校長は「差別をなくしていくことを子どもたちに引き続き伝えるとともに、保護者にも同じ思いを共有してもらいたい」と話していました。

学校で差別対策 その理由は?

依知南小学校で最初の感染が明らかになったのは、8月6日。20代の男性の教員でした。
その後、8月20日までに、男性が担任をしているクラスを中心に児童15人と教員4人の感染が明らかになり、この小学校で感染した人は合わせて20人に上りました。

神奈川県内の学校で、感染者の集団=クラスターが発生したのは、これが初めてのケースでした。感染した20人はすでに回復し、保健所が求めていた行動制限は、26日までに解除されました。

また、ほかの児童や教職員についても全員の陰性が確認され、27日から2学期が始まりました。一方、新型コロナウイルスを巡っては、全国的に感染した人やその家族が嫌がらせを受ける事例があとを絶たず、市教育委員会によりますと、今回のケースでも、SNSなどで感染した教員を特定しようとする動きが見られたということです。

こうしたことから小学校では、内部で検討した結果、回復した20人が学校に来る27日にあわせて、感染した人への差別やいじめにつながる言動が許されないことを子どもたちに考えさせることにしたということです。

オンラインで行われた始業式の中で外村美佳校長は、「感染した人を探したり、本当ではないことを言い触らしたりする人がいますが、自分が、そんなことをされたらどう感じるかを考えられる人になってほしい。思いやりの心を持って、不安な人に温かいことばをかけられる人になってください」と語りかけていました。

小学校では、今後もホームルームを中心に感染した人への差別をなくすことの大切さを考えていくとともに、こうした学校の考えを保護者にも伝えていくことにしています。

専門家「差別やいじめを防ぐすばらしい取り組み」

神奈川県厚木市のクラスターが発生した小学校の再開の取り組みについて、学校運営の危機管理に詳しい、東京学芸大学の渡邉正樹教授は「差別やいじめを防ぐため、感染した児童が安心して登校できる温かい空気を作っていて、すばらしい取り組みだ」と評価しました。

そのうえで、渡邉教授は「感染した子どもは、自分を責めがちで、登校することに不安になっているし、周りの子どももどう接すればいいかわからない。別の学年の児童にも、みずから考えさせることで児童は受け身ではなく、いじめや差別をしない方向に行動しやすくなったはずだ。モデルケースとして、ほかの学校もまねしてほしい」と話していました。

さらに渡邉教授は、保護者について「児童だけでなく保護者にも、差別しないように呼びかけることが重要だ。保護者はわが子を心配する余り、『感染した子がわかったら教えて』とか、『感染した子には近づかないようにね』などと言ってしまいがちだが、保護者の言動は、特に小学生には大きく影響するので、児童も同じように偏見や差別の行動を取ってしまう危険がある」と指摘していました。

そして「今の日本社会には、『感染した人が悪い』という『自己責任論』がまんえんし、差別する空気がある。学校から保護者や地域をまきこんで、社会全体で『感染した人が悪いわけではない』『感染者への差別を許さない』という空気を作っていくことが大事だ」と話していました。