感染おそれ受診控えたか 心筋梗塞の受診患者減に懸念の声

感染おそれ受診控えたか 心筋梗塞の受診患者減に懸念の声
新型コロナウイルスの感染が拡大して以降、心筋梗塞などで医療機関を受診する患者が減ったとみられることが、心臓病治療の学会などの調査で分かりました。学会は病院などでの感染をおそれる「受診控え」が背景にあるとみて、命に関わるため異常を感じたらためらわず受診するよう呼びかけています。
心筋梗塞は心臓に栄養を運ぶ血管が詰まって、血液が流れない状態になり心臓の筋肉が死ぬ病気で、素早く治療を始めなければ命に関わります。

心筋梗塞の治療を行う医師で作る、日本心血管インターベンション治療学会は、全国およそ400の医療機関を対象にアンケート調査を行いました。

その結果48%の施設が感染が拡大して以降、「心筋梗塞などで受診する患者が減った」と答え、「変わらない」は46%、「増えた」は6%でした。

このうち愛知県にある藤田医科大学では、ことし2月から5月に実施した心筋梗塞の手術が61件と、前の年の同じ時期と比べて20件、率にして25%減りました。

海外でも同じ傾向が見られ、イギリスではことし3月、心筋梗塞などでの入院数が、前の年の同じ時期より40%、アメリカでは、ことし3月、心筋梗塞の患者が34%、減ったと報告されています。

感染拡大によって心筋梗塞が減ることは考えにくいということで、学会の理事長で東海大学医学部の伊苅裕二教授は「患者が受診を控えている可能性が強く考えられる。新型コロナも怖い病気だが、心筋梗塞が疑われる場合は、ためらわず、救急車を呼んで病院に来てほしい」と話しています。

心筋梗塞は“時間との闘い”

心筋梗塞は心臓の血管に血の塊、血栓が詰まって心臓を動かす筋肉、心筋に血液が届かなくなる病気です。

国内では60代以上の男性に多いとされ、発症すると突然、激しい胸の痛みを感じるのが特徴で、深刻な場合は死に至ることも少なくありません。

厚生労働省のまとめによりますと、国内では去年、3万1512人が心筋梗塞が原因で亡くなっているということです。

血栓を溶かす薬を使った治療や血管の詰まった部分をう回して、新しい血液の通り道を作る、バイパス手術などの治療が行われますが、症状が重い場合は速やかに医療機関で治療を受ける必要があるため、心筋梗塞の治療は「時間との闘い」とも言われています。

受診ためらった患者は

感染を恐れて受診を控えるうちに悪化し、救急搬送され命をとりとめた心筋梗塞の患者がいます。

5年前に心筋梗塞になった80代の男性は、去年までは2か月に1回のペースで近くの医療機関を受診し、医師の診察を受けていましたが、ことしに入ってからは新型コロナウイルスへの感染を避けたいと、自分の判断で通院をやめてしまったということです。

そして、先月朝に外出しようとしたときに胸に違和感を覚え、すぐに息がしづらくがまんできないほどの痛みに変わりました。

その際も、感染が拡大していたことから、救急車を呼んで病院に行くことさえ、ためらったということです。

男性は最終的には119番通報して救急車で病院に搬送され、治療を受けましたが、血栓ができ心臓の周りの血管、冠動脈がほぼ完全に詰まっていたということです。

男性の治療に当たった東海大学医学部の伊苅裕二教授は、男性が通院をやめている間に、徐々に血栓が大きくなっていったとみています。

男性は「がまんできないほど息がぐーっと苦しくなった。病院の待合室は隣の席がくっついているし、せきをする人もいるので、救急車を呼ぶのも病院に来るのもすごくためらった。コロナがはやり始めたころは、家を一歩出るのも嫌でほとんど家の中にいた。病院に行って病気になるのは嫌だし、まだ死にたくないと思って、通院をやめてしまった」と話していました。

伊苅教授は「さらに我慢していたら、自宅で亡くなっていた可能性があり、運命の分かれ道だった。ちゅうちょして救急車を呼ばず、結果として自宅で亡くなってしまった人もいるのではないかと考えている。体がおかしいと感じたときは迷わず病院を受診してほしい」と話しています。

病院「受診控えを実感」

大阪 摂津市にある摂津ひかり病院では、新型コロナウイルスの感染が拡大して以降、患者の数が3割ほど減っているということです。

継続して通院してもらい経過を診ていた患者が、新型コロナウイルスへの感染を恐れて外出を控えたいとして、自己判断で受診をやめてしまうというケースが多いということです。

病院によりますと、久しぶりに受診して検査を行うと、状態が悪化している患者もいるということです。

この病院では患者に安心して受診してもらおうと、エレベーターの前にアルコールの消毒液を置いたり、発熱している患者を診察するためにシートで壁を作ったりと、感染対策を徹底しているということです。

切東美子院長は「受診控えが起きていると実感していて、かかりつけ医としても心配に思っている。自己判断せずに、医療の専門職の判断を頼ってほしいし、病院は感染対策を徹底しているので安心して受診してほしい」と話しています。